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つかれた少女①
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「わかるよ。古いものって魅力的だよね」
急に現れた少女に対し、僕はとっさに後ずさった。
いったいいつからそこに。そうきこうとしたが、となりにある棚の一番下のひきだしが出ていた。しゃがむとソファとテーブルの影にかくれてしまうため、彼女に気づかなかったのだろう。
「ああ、うん。そうだね。きみも参加者?」
「ううん、ちがうよ。わたしは先生と雄二郎さんにお礼を言いに来ただけ。あなたこそ参加者——には見えないわね。あ、待って。言わないで。当ててみせるから」
彼女はうーんと考え込んだ。僕はまじまじと彼女を観察する。内向きにカールさせて肩までのばした髪型は、流行りのアーティストをイメージさせる。服装は、すそがゆったりと広がったジーンズに白のティーシャツで、かざりっ気のない感じだ。大学生、いや高校生くらいだろうか。
「弁護士さん、じゃあないでしょう」
「部分的にそう、かな」
「えぇ。じゃあ探偵さん」
「残念。むしろ遠くなった」
彼女はさらに考え込んだ。いくつかヒントを出してみたが答えは出そうにない。
「正解は秘書。弁護士のおともみたいな仕事さ」
「おとも。ならわたしと同じね」
どうも彼女との会話は、雲をつかむようで要領を得ない。
「ねえ怖い話とかって好き? 幽霊は信じるタイプ?」
急に話題がかわる。この短い時間で彼女が奔放さの申し子であることがよく分かった。
幽霊を信じるかときかれれば、僕は迷わずイエスと返す。理由はしごく単純で、信じるほうが楽しいからだ。小説にしろ映画にしろ、スリルというものは共通であり、それがもしノンフィクションだったなら興奮はより大きなものになるはずだ。だから怪談話を聞いたなら、作り話と疑うよりも実在すると信じるほうが、自分にとって建設的だと思うのだ。
「楽しいから、か。でも幽霊が見える人は、別に見えても楽しくないってよく言うわよね。むしろ見えてしまうせいで疲れるらしいし。だからあなたの考えは、信じているから楽しいんじゃなくて、信じてないから楽しいんだと思う」
「それは、とてもするどい意見だね」
考えの矛盾をつかれたようで、僕は居心地悪かった。
「でも……そうね。あなたってそういうふしぎなものに興味津々なわけでしょう。だったらこの開かずの扉を調べたらきっと楽しくなるはずだよ」
「それってどういう」
僕が言い終える前に少女はスタスタと階段の方へ消えた。棚のひきだしは開かれたままだ。
開かずの扉。彼女はそう言っていた。それっておかしくないか。位置から考ると、この扉の先は本館のつきでた部分がまるまる部屋になっている。僕が屋敷の前で人影を見た窓、それはこの部屋にあたるのだ。
いったいどうして、開かずの部屋の中に人がいるっていうんだ。
この古びた鉄の扉は、なにかおかしい。もし彼女の言った通り、本当に霊験あらたかなものだとしたら。
僕はぶるりと肩をふるわせ、ほほをゆるめた。
急に現れた少女に対し、僕はとっさに後ずさった。
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