小悪魔兄貴

らいむせいか

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第5話

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刹は正座で座り、辺りをキョロキョロした。知らなかった、周が一人暮らしの事を。
「部屋、狭いし汚いのは許せよ」
そう言いながら、机の上にコーヒーカップを置く。
なんで着いて行ったんだろう。過去の事話す気も、ないと言うのに。友達と言える存在や先生にだって、誰にも話した事ない。家族だけが知っている、この反吐が出る世界。そんなのを赤の他人に話して、良いのだろうか。そこまで信用できる人なのか。でも信用してるからこそ、友達な訳で。じゃあなんで、堤斗には話さなかった?やっぱり、軽蔑されるのが怖いのだ。結局自分は怖がり?逃げてばかりで、いい人ぶって。
刹はカップを見つめながら、手の震えを抑えた。
「これからもお前、大学行かない気か?」
周は向かい合わせに座ったが、目線を合わさず問う。
頷けなかった。それも口では、行かないと言ったが周に言われ迷った。
あんな事、高校の時もあった。それでも通うのを辞めなかったんだ。だから、大学でも我慢すればいい。簡単な事じゃないか。中学からずっと、やって来たんだ。
「大学でな、お前を探してる集団いるぞ。何した?厄介なやつに目付けられたな。たしか…近藤世界ってやつ、あいつなりやがりでやりたい放題らしい。見えるところは真面目で、見えないとこでは残虐なやつだ」
周は喋りながら、コーヒーを飲む。
「先生からの信頼も厚い。あいつらに悪いことされたっていっても、聞く耳持たんらしいぞ。俺も最近、そいつらにお前の居場所聞かれた。メガネかけた狐目のやつだ、見覚えあるか?」
それを聞かれ、刹の顔に冷や汗が流れた。あいつらだ、自分を犯そうとした集団のリーダーみたいな存在の。
「なっなんでも…ない…から」
下を向き、小さい声で呟く。周は手を伸ばし、刹の頭に乗せた。
「なくて、あいつらがお前を探すかよ。変だろ、話してみろ。軽蔑しないから、抱え込むといつか潰れるぞ」
刹はしばらく、口を閉ざす。躊躇っているのだ。周も刹が言うまで、何も言わなかった。
「中学の時から…嫌でも、小学の高学年頃もあったんだ。最初は目で追われるだけで、特に気にしてなかった…」
刹の重い口が開く。
「男から好奇の目で見られて、中1の時初めて集団で襲われた。初めは、友達になろって言われたから仲良かったのに…。その次に写真で脅されて、先生にも襲われた」
声も小さく、モゾモゾと語る刹の話は重かった。
「その話が、次から次に噂で広がって。女の子は俺を変な目で見るし。男は入れ替わり立ち替わり、俺を押し込んでは襲って来た。逃げたりしてたよ、気持ち悪かったんだ。そんな俺に中学では、友達なんて1人もいなかった」
刹は今にも泣きそうな顔をあげ、周の方を見る。
「この顔が…大っ嫌いなんだ!女みたいな顔で、知り合いがいない高校に行ったのにまた同じ事されて!でもそこで初めて、俺を襲わない友達が、1人できたんだ。でも心も開けてない…」
「それを、あいつらにもされたのか…」
周の重い口調に、刹は頷いた。沈黙して刹は下を向き、唇を噛み締める。やっぱり軽蔑された、黙り込む周を見て後悔した。だから他人には、話したくなかったんだ。
すると周は立ち上がり、刹の横に座って肩を抱き寄せて来た。刹の目が大きく開き、心臓が高鳴った。
「辛かったな、よく耐えたよ…。大丈夫だ、これからは俺が慰めてやる」
ゆっくりと周が、刹の顎を掴むと自分の方に向かせ唇を塞いできた。刹は動けなくなった、何が行われている?
唇が離れ刹が、周の腕の中でもがく。
「いっいやだ!なんで、そんな事するんだよ!お前も、奴らと…ひっ!」
周に首筋を舐められ、刹は鳥肌が立った。
気持ちが悪い、こんなの求めてない。されるなら、堤斗が良い。
脳裏に堤斗の顔が浮かび、更に刹は抵抗した。
「お前、可愛い顔してるもんな。いけない事、したくなるくらいに。怖がらなくても、大丈夫だよ。俺が、ぜーんぶ上書きしてあげるからさ」
足と手が周に絡まり、動けない。周も同じだった。結局、味方なんていやしなかったんだ。動かなくなった刹をいい事に、周は刹のワイシャツのボタンを外していく。ボタンを外された隙間から、手がするりと入って来た。刹の体を周の手が、弄ってくる。ふと刹の乳首に触れ、弄んで来た。
「ひっ!や…やだっ…。駄目!」
妙に触り方がうまくて、嫌なのに立ってしまう自分が許せなく周を突き飛ばした。
身を離し、ワイシャツを引き寄せると荒い息を吐いた。顔はどんな顔してる?もう自分が、ぐじゃぐじゃだ。
伸びてくる手が怖くて、刹は荷物を掴み躓きながらも部屋から出た。
しばらく走り、人が少ない所で立ち止まるとシャツを直した。泣きたい…。こう言う時って、どこに帰れば良いのだろう。毎回思ってしまう、でもいく場所は決まってる。
こんな姿で電車乗って、実家には帰れない。だから…。刹は重い足を動かして、向かうしか無かった。

堤斗はソファに腰を下ろし、雑誌を読んでいた。なんとなくソワソワしてしまう。本当に出て行った。刹は面接に行ったのだろうか…。
他人の事そんなに気にするなんて、自分も変だ。
チャイム音が部屋の中に響いた。刹が帰って来たのか?と思い玄関を開ける。まず目に入った、パンプスでドアを閉める手が止まった。明らか女の足だ。
「ふー、結構遠いのね。良い所住んでるじゃん。今度こそ、逃さないわよ」
堤斗が顔をあげた瞬間、帽子を取り周りを見渡す女性。モデルの稀明だった。
「なっ!お前、なんで俺の家知ってんだ!」
その言葉に、稀明はバッグを漁りスマホを見せた。LINE画面が映り、そこには知ってる名前があった。バイト先の生瀬の名前。堤斗の驚く顔を見て、稀明はにっこり微笑んだ。
「芸能人の特権よ。良い思いさせてあげたんだから、条件で教えてもらったの。だって、連絡先知らないんだもん。アポ無しでごめんねー」
両手を合わせ、茶目っ気たっぷりに謝る。可愛いのもわかる、美人なのもでもこれは非常識だ。パンプスを脱ぎ、上がってくる稀明を掴んだ。
「許可もしてないのに、上がるな!不法侵入だぞこれ!」
「えっ?なんで?あなたドア、自分から開けたでしょ?不法侵入って、私が勝手に誰もいない部屋に入る事じゃない?」
何も悪びれない様子で、ズカズカ歩く稀明に苛立った。稀明の肩を掴む。
「やだー。そんな怖い顔しないでよ。かっこいいのに、勿体無いぞ」
稀明は茶化し、顔を近づけてキスをして来た、そんぞそこらの女子とは違う、ものすごく上手かった。離れた瞬間、堤斗は紅潮し唇を腕で隠した。
「可愛い。益々、欲しくなっちやっ…」
稀明が横を向く。開いたドアを見ると、そこには荷物を落とした刹がいた。
「刹、お前どこ行って…」
刹は下を向き、ズカズカと歩き2人の間に入った。そして、堤斗の腕にしがみつき稀明を睨んだ。
「こっこの人は、俺のだ!変な真似したら、許さないから!」
間が空き、稀明がお腹を抑え笑い出した。
「やだー、弟くん?可愛い、綺麗な子ね。ごめんね、その事は」
「もっと来い、刹」
稀明言葉を無視し、堤斗が刹を引っ張ると刹の唇を塞いだ。刹はうっとりとした目で、見つめ擦り寄る。
ディープキスをされ、口の中を犯される。とろけてしまい、唇が離れると刹はその場で座り込む。
それを見て稀明は、困惑した。
「悪いな、そういう事だから。帰れってくれないか」
「な、何よそれ…。あんたそっちなの?それならそうと、言いなさいよ!もう良いわ、他をあたるから」
稀明は急いで、パンプスを履くと出て行った。
部屋で2人っきりになると、堤斗は座って震えていた刹に近寄り手を差し伸べる。
「悪い、利用してしまった。立てるか?」
堤斗が刹の腕を引っ張ると、刹は真っ赤に染まった顔をあげた。よく見ると、ワイシャツを限界まで下げている。まるで何かを、隠しているようだ。
堤斗は口元を歪ませ、刹と同じ高さに腰を下ろす。
「なんだお前…、まさか発っちまったか?」
刹は図星だった。顔を赤くしてさらに、シャツを下に引っ張る。
「俺のって言ったよな。好きなのか、俺の事」
刹は黙って、床を見つめる。言って後悔しているのだ。堤斗の手が伸び、ワイシャツの下の方を触って来た。刹の顔が更に、紅潮する。心臓も高鳴って、呼吸困難になりそうだった。軽く触れただけなのに、体全身が痺れた。
「このままだと、痛いだろ?」
堤斗が触りながら、耳元で囁く。ゆっくり上下させながら触っていたが、徐々にスピードがアップし声が抑えられなくなった。
刹は口元を手で覆い、目を瞑る。快感した事ない、この感覚。なぜだか、自然と腰が動いてしまった。
「やっ、やだ…。イっちゃう」
はてると、荒い息をし堤斗に縋り付く。堤斗は軽く、刹の頭を撫でると立ち上がって部屋に戻ろうとした。すると刹が袖を掴む。
「最後、最後まで…して…。まだ、治らない」
息が追いつかず、つっかえながら言う。
「俺がお前の事、好きとかそう言う気持ちなくても抱いて欲しいか?」
堤斗が刹を見下ろす。刹は唇を噛み締める。
「そ、そんなんじゃ…ない、けど…」
刹は目を左右に走らせ、顔を上げた。
「男なんて嫌だって、毎日思ってたけど俺…堤斗さんなら別にそう思わないんだ。だから」
「気持ちが無くても?」
ざわざわする。これで抱かれたら、一緒にいられなくなるのだろうか。気まずくなるのだろうか。
「じゃあ、気持ちよくしてみな。俺の事」
刹の目が大きく開く。また顔が赤くなった。どうしたら良いのだろう、経験ないのに…。刹はもう、腹を括った。これ逃したら、もう機会無いかもと思ってしまったからだ。
「ソファ…座って…下さい」
刹が言うと、堤斗は腰を下ろす。刹は堤斗と向かい合わせに座り、もじもじする。
どうすれば気持ちよくなるんだろう、目がキョロキョロしてしまう。
あいつらのように、触ればいいのだろうか…。
「やり方わかる?まぁ俺も男なんか抱いた事無いから、言えないけど」
「堤斗さんは…その、嫌じゃ無いですか?相手が男だと…」
恥ずかしながら聞くと、堤斗は考え込んだ。
「どうだろう。まぁ確かに、男にされたいなんて考えた事無いし。第一、告白もされた事無い。お前が初めてだ、キスも」
「ずっと、ずっと聞きたかったんです!どうして、俺に…キスしたんですか?」
刹は身を乗り出す。堤斗は、刹の頭を撫でた。
「改めて思うと、どうしてだろうな。悪く言えば、気の迷いだけど…。あん時、可愛く見えたんだろうな。まぁ今日は利用のため、したけどな」
刹は唇を噛んだ。
多分堤斗は自分のこと、好きとか思ってない。試してるんじゃ無いか?そう思えてきた。でもこれをしたら少しは、自分を見てくれるのでは?とも思ってしまう。
刹はゆっくりと、堤斗のジーパンのチャックを下に下ろす。
ボクサーパンツ越しの物は、小さかった。まだ頂点では無い。そりゃそうだ。男にやられるのは、興味ないのだから堤斗は。恐る恐る手で、擦ったが上手くいかない。
そういえば、男達はよく口に入れて来た。あれは気持ちいいのだろうか?
刹は唾を飲み込み、口に含んだ。不思議と嫌な味はしなかった。どうしてだろ、奴らのは苦くて気持ちが悪いのに。
少し大きくなったのを、口の中で感じ嬉しくなった。チラリと堤斗を見ると、少し顔を赤くして声を押し殺しているのが分かった。その顔が妙に色っぽくて、刹はドキドキした。
「くっ…。刹…もっと、舌使え…」
荒っぽく動かしやがて、いきなり口から出された。息つく暇もなく、ソファにうつ伏せで寝かされた。刹の鼓動が早まる。堤斗はいやらしい手付きで、刹の背中を撫でその手はお尻にたどり着く。堤斗の中指が、刹のお尻の割れ目に入り込む。刹の体が飛び跳ねた。
「なっ、なに!」
驚いた刹の声に、堤斗は唇を耳元に近づけた。
「なぁ、男同士って…どこに入れるか知ってるか?」
色っぽい声に、刹の顔が一気に真っ赤になった。耳がゾクゾクする。
頭がぼーとしてくる。どこって…、男には女の子みたいなのは無いのに…。
堤斗がお尻を、刺激して来た。刹がまさかと思った。
「どうする?やめるか?」
聞いてくる堤斗の声に、刹は唾を飲み込む。口の中で大きくなった物を、お尻に入れる。少し怖い、とも感じた。でも自分が多分動かなきゃ、もう2度と無いかもしれない経験。しかも相手は、自分の好きな人だ。されたって構わない。むしろされたい。堤斗は多分、今の感情を消したいだけかもしれない。その為に自分を、利用してるかもしれない。
刹はもう、それでも良いと思った。
「いっい、入れて…下さい…」
恥ずかしくて、勝手に目が潤み顔が真っ赤に染まる。声も小さくなった。
部屋が静まり、刹は息を堪えるのに精一杯だった。やがて目の前にあった黒い影が消えて、刹はビクリと目を大きく開いた。
「やっぱ、無理だわ。なしにしよう」
堤斗は刹の背中を、ポンと叩きソファから降りた。刹は急いで、堤斗の顔を伺う。堤斗は立ち上がり、ジーパンを履き直していた。良く見るとあれはもう、普通のサイズに戻っていた。 
やっぱり、男だから駄目だったんだ…。
刹は現実を見せられ、ショックを受ける。刹も仕方なく、起き上がるとズボンを履き直した。ドアノブに手をかけて、自分の部屋に入ろうとする堤斗を刹は声で止めた。
「何でっ、何でしなかったんですか?」
聞くのが怖くても、聞かずにはいられない質問。刹は膝の上に置かれた両手が、自然に握り拳になっている事に気づいた。相当力が入っている。堤斗は小さく息を吐くと、苦笑いして振り向く。
「俺がゲイじゃないからだ。お前を女として想像なんて、出来ないからな。男だって、分かりきってるから」
刹の中に何かが、ドクリと流れ込んできた。とても黒い何かが…。
自分は、ゲイ…なのか?自分は女の子と付き合ったこともない。行為にもちろん、及んだ事もない。自分が女の子に余り、感情を持ったことがない。それは只扱い方が分からなくて、昔の事を酷く引きずってるからだけだと思っていた。でも、あの子が可愛いとか、歓声を浴びて嬉しいとか思うし。別にそうじゃ無いって思ってた。だからと言って、男たちに触られて気持ちよかったか?と言われてるとそれもまた違う。それは、好きと言う感情が無いから。むしろ気持ちが悪い…、もしかしたらそう思い込んでいるだけなのか?自分はゲイなのか?でも男にされて気持ちいいと思った事は、堤斗が初めてだ。今までは、生理的なもんだと思っていた。こんな事誰に言えばいい?相談相手…、堤斗に言っていいのか?
自分は、後世界の人達と同じなのか…




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