〚完結〛アポカリプスまで宜しく

狗空堂

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04:取り急ぎその関係で凍らせて

1.聖夜の更新

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「すみません、友人と来てるんです」
 困ったように眉尻を下げて謝る渡來。黒いマスクで半分隠れているというのに、そこから覗く双眸と整えられた眉毛、そしてマスク越しでも分かる輪郭の美しさで美形オーラを何も隠しきれていない。

 美形は湯気が立ち上る小籠包のプラパックを持っていても逆ナンをされるんだな、と感心してしまう。はあ、と吐いた息が白く染まりながら空中へと霧散する。

「え、むしろ丁度良くないですか? こっちも二人だし、四人で合流してマーケット行くのとか」
「えそれ良すぎ! お兄さんの友達なら絶対かっこいいし」

 何が良すぎなのか。どうせ今ここで明呉が声をかけたら「あ……」みたいな反応を見せたのち、どちらが明呉と回るかで押し付け合いに発展するだろう。そんな惨めすぎる展開はごめんだ。


 聖夜の繁華街は大層混雑している。ここからしばらく歩いた赤レンガ倉庫ではクリスマスマーケットが開催されていて、それを目当てにやってきた人々がどうせならとこの特殊な文化が築き上げられている街並みに足を向けているのだろう。

 本日十二月二十四日、大抵の人間が浮かれる花の聖夜であり――明呉大地の十六歳の誕生日でもあった。

 明呉の両手にはホカホカの湯気を上げる熱々の肉まんが入ったビニールと、ついでに買った顔を覆い隠すくらい大きな大鶏排がある。完全に繁華街を満喫している格好だ。
 こんな浮かれた姿であのイケメンと、それに絡む爆美女二人の間に割り入るのは大分勇気がいるな。少し離れた明呉と渡來の間には、休む暇もなく人間の群れが行きかう。

 あ、爆美女の一人が渡來の持っている小籠包を「それ持つよ!」と言って奪い取ろうとしている。あの中には俺の分の小籠包も入っているのに。このままだと真冬なのに肌見せを惜しまないミニスカートの二人に奪われてしまう。

 どうしたもんか、と悩んでいる内に、顔を上げた渡來とぱちりと目が合った。両手にホカホカの食料を持ち主人を待つ飼い犬の様な寂しい顔で立ち尽くす明呉を見て噴き出すと、渡來は怪訝そうな美女二人に謝った。

「ごめんなさい、恥ずかしいから誤魔化してたけど、今日はデートなんです。帰って来たみたいだから、これで」
 にっこりと余所行きの笑顔で断った渡來は、そのまま器用に人の波をすり抜けて明呉の元へやって来た。


「帰って来てたなら呼んでよ。冷める前に公園行こう」
「……今日ってデートなのか?」
「うん? 俺はそのつもり」
 何でもない風に返されて固まる。渡來は明呉から肉まんの袋を抜き取って「さ、行こ」とご機嫌に歩き出した。




 何故渡來と明呉が聖夜の横浜中華街に居るかというと、理由は単純明快で、明呉の誕生日祝いの為だった。
 きっかけはいつもの開かずの踏切でのこと。
 冬も本格的になっているというのに、チャリに乗って疾走するはずの明呉はマフラーと手袋のみという軽装備だ。電車通学の渡來はダッフルコートの襟を立てて首まで完全防備しているというのに。

 いつも通り開かずの踏切はすぐには開かない。あと二週間ほどしたら今年も終わるのか、と思った渡來がふと疑問を口にした。

『そう言えば明呉の誕生日っていつ?』
『十二月二十四日。クリスマスイブ』
『え! 今週末じゃん』
『そうだけど……』

 明呉は自身の誕生日に左程興味がない。顔も殆ど覚えていない母親が自分を産んだ日なのだなあ、程度の認識だ。勿論家で祝われた記憶はない。だから他人が誕生日が来る度に大事のように祝い喜んでいる姿を見て、そういうのを普通というのだな、とどこか疎外感を感じていた。

『なんでもっと早く言ってくれなかったの! 土曜日どっか行こう、あ待って、シフト入ってる? ちょっと待って、名黒さんに聞いてみるから』
『いつの間に連絡先交換してたんだ』
 何故かむすっとしている渡來が目にも止まらぬ速さでフリック入力を行い、名黒と連絡を取り始める。

『あっ、OKだって。じゃあ土曜日は俺と遊びに行こう』
『展開が速すぎる』
 渡來がサムズアップしたのと同時に名黒から連絡が来る。『渡來から話は聞いた。楽しんで来いよ』という男前な文章と共に、可愛らしいマスコットのスタンプが送られてきている。

『どこがいいかな。明呉は色気より食い気だから色々食べられる方が良いよね。何か食べたいものある?』
『いや、なんでも……。てか、その、なんでそんなに張り切ってるんだ?』
『え? だって大切な友達が生まれた日はめでたいじゃない』

 コートの襟に埋もれたまま無邪気に笑う顔が可愛らしくて。ああ、だから人は誕生日というものに浮かれるのかもしれないと思った。



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