〚完結〛アポカリプスまで宜しく

狗空堂

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04:取り急ぎその関係で凍らせて

聖夜の更新 2

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 そうして二人の目的地になったのが赤レンガ倉庫のクリスマスマーケット、並びに横浜中華街だった。

 誕生日という概念がない明呉には当たり前にクリスマスという概念も無いので、これを機に二つのお祝いムードを一気に浴びせさせてやろうというのが渡來の魂胆だった。

 誕生日なんだから、と交通費から食費まで全額出そうとする渡來を必死で説得し、何とか食費だけを持ってもらうことに成功した。それでも男子高校生の食欲を思うと食費だけでも相当な出費になると思うのだが、渡來は大分不服そうな顔をしながらそれに頷いた。


「ここで食べようか。船も見えるし、ベンチもある」
 横浜港沿いに作られた公園は、夕方を過ぎて薄暗くなってきているというのにまだまだ活気で溢れている。とは言え、大体が赤レンガ倉庫の方へと移動し始めている時間帯だ。港が一望できる位置のベンチは日中よりは空いていた。

 それぞれが買ってきたものをベンチに広げて、少し早めの夕飯を取ることにした。
 小籠包、肉まん、大鶏排。昼に食べた杏仁ソフトや角煮まんも美味かった。どれも香辛料が効いていて独特な旨味があり、本場の味ってこんなものなのかな、なんて思ったりもする。

 寒さで凍える身体に染みわたっていく旨さに、長い間列に並びお預けを喰らっていた男子高校生二人は黙々とすごいスピードで胃に収めていく。
 夜に差し掛かって来た暗い水面が怖いねとか、遠くに見えるマーケットのイルミネーションが綺麗だねとか、そういう会話は一切なかった。色気より食い気、渡來の予想通りだった。


「流石にお腹いっぱい。残り食べちゃっていいよ」
 食が細めの渡來は顔よりも大きい大鶏排の油に五口目で敗北した。まだ三分の一も減っていないのに。

「じゃあ、有難く頂戴します」
 神妙な顔でサクサクの肉に齧りつく明呉を見る渡來の視線は柔らかい。気まずくなって目の前に広がる真っ黒な水面を見つめた。

「…………デート、なのか、これ」
 お昼過ぎに集合して、公園を散策して気になったものを買い食いして。デートコースにしては健全すぎる気もするが、確かに周りを歩くのは殆どカップルだった。
 何せ今日は恋人たちの夜、クリスマスイブだ。街中に満ちるのが恋人たちであるのは当たり前だろう。

 だけど、ナンパを追い払う為とは言えあんな言い訳を使うなんて。渡來は背を向けていたから気づかなかっただろうが、明呉には見えていた。完全に「え、マジ?」という雰囲気の美女の二人の顔が。

「俺はデートだと思って誘ってみたよ。明呉がどうかは分からないけど」
「俺たちは別に付き合ってない」
「うん、そうだね」
 うん、そうだね? さらりと肯定されて余計混乱する。

 店長や名黒、白塚から祝福の一杯を貰ったあの秋の日の後も、二人は結局曖昧なまま友人関係を続けている。
 キスをされて嫌じゃなかった明呉と、「恋バナでいいんじゃない?」と告げた渡來。完成形はもうすぐそこまで見えているというのに、最後のピースが見つからないままた未完成の関係を続けている。

 その最後のピースを掌の中に隠し持っているのは渡來なのか、或いは、見ないふりをして自分のポケットに仕舞いこんでいるのか。いずれにせよ最後のピースが嵌められた時、二人の関係は今まで通りではいられない。それが少しだけ怖かった。


「明呉は、先に進みたい?」
 最後のひとかけらを口に放り込んだ時、目を細めた渡來はそう問いかけてきた。べたべたの手のまま目を見開く明呉にウェットティッシュと、「この関係に名前を付けたい?」と形を変えた問いも差し出した。

 先に進みたい。関係をはっきりさせたい。本当にそうなのだろうか。

 こういう風に二人で居るのは楽しいし、楽だ。お互い欠けている部分があるからこそ、必要以上にその欠けに気を使わなくて済む。ああ、お前も欠けてるんだな、俺もだよ。それくらいの気楽さで居られるのは心地よい。

 突然心の傷に指を突っ込まれて呻き声を上げた時、大概の欠けていない人間はたじろぐか、謝ってよそよそしくなるか、ため息をついて立ち去るか、大概がそんなものだ。明呉はそれで何人もの相手と気まずくなって自然に関係を絶っていた。

 渡來にはそれが無い。例え呻き声を上げたとしても、過剰に反応せず「そっか」「分かった」だけを返して傍に居てくれる。その接し方がどれだけ明呉の呼吸を楽にさせているか、きっと渡來は知らないだろう。

 でも、明呉は知っている。欲を出して多くを望んでしまうと必ず痛い目にあうことを。
 明呉は他の人間よりも不足している人間だ。普通の家庭とか、普通の価値観とか、普通の青春とか。そういうのが足りてない人間は、他と同じようになろうとしたって偽物にしかなれないのだ。

 分かっているならやらない方がマシ。傷つくことが分かっているなら触らない、それは生存本能に従った正しさだと思っている人間だった。

 渡來と一緒に居るのは楽しくて、楽。だけど痛い目にあうことを覚悟して、生存本能に逆らってまで誰かの本物になろうとする程には、彼に向き合える自信がない。

 黙り込んだ明呉を見て渡來が薄く笑う。

「俺は止めといた方がいいと思うな。だって、あと八か月くらいしかない」
「…………?」
「“終わり”まで」
 綺麗な微笑みだった。あ、死んでいる、と思った。美しくて、それ以上の成長がない完璧なもの。

 そこで漸く明呉は分かった。
 渡來は完成しているから美しくて死んでいる訳じゃない。
 『これから完成すること』を理解しているから、もう既に美しいのだ。

 来年の八月三十一日に、世界が終わると信じているから。

「俺は、明呉と一緒にこうやって遊んだりするの好きだよ。明呉を揶揄うのも面白くて好き。仲良くて、似た者同士で、ちょっと距離が近すぎるだけの友達。そのままじゃ駄目かな」

 それがお互いにとって一番楽な選択だと分かっていた。必要以上に踏み込まず、甘い蜜だけ啜ってお互いの現状から目を逸らす。麻酔の様な愛である今の関係値が、一番二人にとって望ましいものなのだと。

「これが名前の付いたものになると、この先きっと心を痛めると思う。明呉は真面目だから……」
「……世界滅亡は、避けられないものなのか」
「どうかな。人によるんじゃない? 終わる人もいれば、逃げ延びる人もいるかも」

 曖昧な答えだ。どれだけこちらが踏み込もうとしても、いつも上手くはぐらかされて、肝心なことは何も分からないまま日々が過ぎ去ってしまう。
 はぐらかされた時に「誤魔化すな」と一歩踏み出して腕を掴んだら、きっとその先に行けるだろう。だけどまだ、そこまでは。


 暗くなった海と空の境目が分からない。遠くの方でオレンジ色に染まる街並みは、迫りくる終末に抗う灯台の様に見えた。

 自分の事さえも儘ならない明呉が、誰かの人生の責任なんて背負えるわけも無くて。小さく「分かった」、とだけ呟いて、薄墨が広がる濃紺の空を見上げた。



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