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彼女が王子の恋人になったわけ
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アンナがカイロスに抱き上げられたまま、ひっそりと過去の甘酸っぱい出来事を思い返していても、現状は何も変わっていない。
それどころか不良生徒を踏んづけて歩き始めたカイロスの足は、どんどん女子寮から遠ざかっていく。
てっきり安全な場所まで送り届けてくれると思い込んでいたアンナは、ここでようやく違和感を覚えた。
ただアンナが何処に行くのかと尋ねる前にカイロスの足が止まる。
視界に映るのは無く取り壊しが決まっている旧図書館だった。
もう使われていないここは、入口扉は鍵が壊れているようで難なく開いた。勝手知ったる我が家のように中に進んだカイロスは、一旦アンナを床に降ろすと、カーテンを勢いよく開けた。
途端に薄暗かったそこは、夕日が差し込みオレンジ色に染まる。
嫌な予感がしなくも無いが、アンナは一先ずカイロスに感謝の言葉を伝え、次に何かしらのお礼をしたいと申し出た。下心皆無の純粋な感謝だけの気持ちで。
しかし相手は違った。待ってましたと言わんばかりに、こう言った。
「じゃあ、俺の恋人になれ」
「は?」
意味が分からなかった。
金品を要求するならいざ知らず、彼から告白されるなんて皆目見当がつかなかった。
思わぬ要求にアンナは目を白黒させる。ニスが剝がれてしまった古い床にへたり込んで。
「……あの……恋人と」
「ああ。お前は俺の恋人になる。今さっきのお礼に」
「それはお礼になるのでしょうか?」
「なる」
きっぱり断言されても、アンナは納得できるわけがない。
だって彼はマルグネス国の第三王子だ。しかも容姿は申し分ない。望めば……いや、望まなくても恋人なんてすぐにできるだろう。実際にこの学園には、彼の婚約者候補が数名いる。
対して自分は領地も持たない田舎貴族。そんな自分がカイロスの恋人になっても得るものなんて無いはずだ。むしろ迷惑でしかないだろうに。
何より彼と自分は初対面。こちらの名前すら知らないはずだ。
「助けていただいたのにこんなことを言うのは失礼ですが、名前すら知らない私と恋人になるなど……あの、からかっておられますか?」
「まさか。俺は真面目な話をしている。あと俺はカイロス・フェル・ロークランジャ。魔法科の五年。で、お前は?」
「あ、アンナ・ロフェンスです。教養科の三年生です」
なし崩しに自己紹介をしてしまったけれど、だからどうしたという状況だ。
なのにカイロスは生真面目な表情で「よし。これで付き合うことで良いな」と迫ってくる。
長年彼を見つめ続けたアンナであるがーーこのぶっ飛んだ思考はどうしたって理解できなかった。
それどころか不良生徒を踏んづけて歩き始めたカイロスの足は、どんどん女子寮から遠ざかっていく。
てっきり安全な場所まで送り届けてくれると思い込んでいたアンナは、ここでようやく違和感を覚えた。
ただアンナが何処に行くのかと尋ねる前にカイロスの足が止まる。
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もう使われていないここは、入口扉は鍵が壊れているようで難なく開いた。勝手知ったる我が家のように中に進んだカイロスは、一旦アンナを床に降ろすと、カーテンを勢いよく開けた。
途端に薄暗かったそこは、夕日が差し込みオレンジ色に染まる。
嫌な予感がしなくも無いが、アンナは一先ずカイロスに感謝の言葉を伝え、次に何かしらのお礼をしたいと申し出た。下心皆無の純粋な感謝だけの気持ちで。
しかし相手は違った。待ってましたと言わんばかりに、こう言った。
「じゃあ、俺の恋人になれ」
「は?」
意味が分からなかった。
金品を要求するならいざ知らず、彼から告白されるなんて皆目見当がつかなかった。
思わぬ要求にアンナは目を白黒させる。ニスが剝がれてしまった古い床にへたり込んで。
「……あの……恋人と」
「ああ。お前は俺の恋人になる。今さっきのお礼に」
「それはお礼になるのでしょうか?」
「なる」
きっぱり断言されても、アンナは納得できるわけがない。
だって彼はマルグネス国の第三王子だ。しかも容姿は申し分ない。望めば……いや、望まなくても恋人なんてすぐにできるだろう。実際にこの学園には、彼の婚約者候補が数名いる。
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何より彼と自分は初対面。こちらの名前すら知らないはずだ。
「助けていただいたのにこんなことを言うのは失礼ですが、名前すら知らない私と恋人になるなど……あの、からかっておられますか?」
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「あ、アンナ・ロフェンスです。教養科の三年生です」
なし崩しに自己紹介をしてしまったけれど、だからどうしたという状況だ。
なのにカイロスは生真面目な表情で「よし。これで付き合うことで良いな」と迫ってくる。
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