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彼女が王子の恋人になったわけ
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困惑したアンナだけれど、それを言葉にしてはいない。
でも、もろに顔に出ていたのだろう。カイロスは「一度しか言わないから良く聞け」と前置きして口を開いた。
「俺は知っての通り、この国の王子だ。卒業すれば成人の儀があって、その後は兄上の補佐としてガッチガチに縛られた王宮生活が待っている。ここまではわかるか?」
「はい」
「つまり、自由を謳歌できるのは学生の間だけだ。ここまでもわかるな?」
「はい」
「ってことで、お前は俺が悠々自適な学園生活を送るために恋人になる。わかったな?」
「え、ちょっとわかんな」
「わかれ」
「えー」
一番知りたいところを端折られ脅された自分は、不満の声くらい上げても良いと思う。
でも、カイロスはとてもご不満そうだ。もっと詳しく教えて貰うのが難しいことをアンナは肌で感じ取った。
「あ、あの……言葉を選ばなければ、私は殿下の」
「カイロスだ」
「はぁ……えっと、カイロス様は私を利用してご自分にまとわりつく婚約者候補を引き剝がしたいってことでしょうか?」
「察しの良い女は嫌いじゃない。これから仲良くやれそうだな」
褒めてるんだか、貶しているんだか。
あと、こんな失礼な予測を言外にそうだと言われた自分は、どこに気持ちを持っていけば良いのだろうか。
決して手が届かない相手と仮初でも恋人になれたことを喜ぶべきなのだろうか。
それとも利用されることに対して怒れば良いのか。
アンナの心はとても複雑だった。
「おい、俺にはお前が不満いっぱいのように見えるが?」
「……あ、いえ。まぁ……はい……っ!?」
少し離れた場所からギロっと睨まれ、アンナはもごもごと不明瞭な言葉を紡ぐ。
その態度が気に入らなかったのだろうか。カイロスは大股で距離を詰めてアンナの顎を掴んだ。
「俺はお前の窮地を救った。お前はそんな俺にお礼がしたいと言った。だから俺は遠慮なく提案した。でも、お前は俺の提案が気に入らないということか?」
「……」
「無言は肯定と受け取る。だけど俺はこの提案を覆す気は無い。お前がどうにかして折り合いをつけろ。いいな?」
至近距離で凄まれて、アンナは半泣きだった。
好きな人と密着しているという夢のようなシチュエーションなのに、心の大半は恐怖で占められている。とても悲しい。
しかし、ここまでの恐怖はまだ可愛いものだった。
更なる恐怖がアンナを襲う。
「まぁお前がどうしても嫌だというならこっちにも考えがある。そうだなぁ……たとえば恋人だと否が応でも言わなければならない状況にするとか」
中途半端なところで言葉を止めたカイロスは、おもむろに制服の上着を脱ぎ捨てネクタイを外した。
その動作でアンナは、彼が何をするつもりなのか瞬時に理解してしまった。
理解なんて、これっぽっちもしたくなかったけれど。
でも、もろに顔に出ていたのだろう。カイロスは「一度しか言わないから良く聞け」と前置きして口を開いた。
「俺は知っての通り、この国の王子だ。卒業すれば成人の儀があって、その後は兄上の補佐としてガッチガチに縛られた王宮生活が待っている。ここまではわかるか?」
「はい」
「つまり、自由を謳歌できるのは学生の間だけだ。ここまでもわかるな?」
「はい」
「ってことで、お前は俺が悠々自適な学園生活を送るために恋人になる。わかったな?」
「え、ちょっとわかんな」
「わかれ」
「えー」
一番知りたいところを端折られ脅された自分は、不満の声くらい上げても良いと思う。
でも、カイロスはとてもご不満そうだ。もっと詳しく教えて貰うのが難しいことをアンナは肌で感じ取った。
「あ、あの……言葉を選ばなければ、私は殿下の」
「カイロスだ」
「はぁ……えっと、カイロス様は私を利用してご自分にまとわりつく婚約者候補を引き剝がしたいってことでしょうか?」
「察しの良い女は嫌いじゃない。これから仲良くやれそうだな」
褒めてるんだか、貶しているんだか。
あと、こんな失礼な予測を言外にそうだと言われた自分は、どこに気持ちを持っていけば良いのだろうか。
決して手が届かない相手と仮初でも恋人になれたことを喜ぶべきなのだろうか。
それとも利用されることに対して怒れば良いのか。
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「おい、俺にはお前が不満いっぱいのように見えるが?」
「……あ、いえ。まぁ……はい……っ!?」
少し離れた場所からギロっと睨まれ、アンナはもごもごと不明瞭な言葉を紡ぐ。
その態度が気に入らなかったのだろうか。カイロスは大股で距離を詰めてアンナの顎を掴んだ。
「俺はお前の窮地を救った。お前はそんな俺にお礼がしたいと言った。だから俺は遠慮なく提案した。でも、お前は俺の提案が気に入らないということか?」
「……」
「無言は肯定と受け取る。だけど俺はこの提案を覆す気は無い。お前がどうにかして折り合いをつけろ。いいな?」
至近距離で凄まれて、アンナは半泣きだった。
好きな人と密着しているという夢のようなシチュエーションなのに、心の大半は恐怖で占められている。とても悲しい。
しかし、ここまでの恐怖はまだ可愛いものだった。
更なる恐怖がアンナを襲う。
「まぁお前がどうしても嫌だというならこっちにも考えがある。そうだなぁ……たとえば恋人だと否が応でも言わなければならない状況にするとか」
中途半端なところで言葉を止めたカイロスは、おもむろに制服の上着を脱ぎ捨てネクタイを外した。
その動作でアンナは、彼が何をするつもりなのか瞬時に理解してしまった。
理解なんて、これっぽっちもしたくなかったけれど。
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