「何でも欲しがる妹に、嫌いな婚約者を押し付けてやりましたわ。ざまぁみなさい」という姉の会話を耳にした婚約者と妹の選択

当麻月菜

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姉アンジェラの仕返し

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 なんの努力もしないで人のものを手に入れようとする妹リリーナのことを煩わしく思っていたアンジェラであったが、婚約者となったセルード・ダッヒのことも内心嫌っていた。

 否、自分には相応しい相手ではないと思っていた。

 ダッヒ家はネリム家と同様、広い領地を持つ名門貴族であり、確かに家柄は良い。
 
 だがしかしセルードは長男だ。

 貴族として生まれた男性は長男が家督を継ぎ、その後次男や三男は聖職者や騎士、またはどこかの貴族の婿養子に入るのが一般的だ。

 それなのにセルードは長男でありながら、婿養子に入る。ダッヒ家の家督は弟が継ぐ。

 これがどういうことなのか......頭の出来が悪くないアンジェラはすぐにわかった。

 セルードは出来損ないで、現当主から次期当主失格の烙印を押された存在なのだ。

 そんな男を家門を維持する為だけに夫にしなければならないアンジェラは、とても屈辱的だった。

 しかもセルードは、見映えも悪かった。

 だらしなく伸びた髪。ひょろりとした身長。分厚いレンズの丸眼鏡はダサイの権化。加えて服装は、清潔感こそあるが、恐ろしいまでに趣味が悪い。

 身体に合っていないブカブカの上着に、目がチカチカするような派手な色のタイ。

 いつぞやの夜会では、薔薇の中に蛇がとぐろを巻いている柄のタイを平気で着けて会場に姿を表した。

 既に彼との婚約発表を済ませていたアンジェラは、彼のそれを一目見るなりドン引きを通り越して殺意すら芽生えた。

 普段の会話だってボソボソと喋るだけで何を言っているのかわからないし、婚約者に向けて気の利いた台詞を吐くという配慮すら無い。

 アンジェラは夜会や茶会など貴族の集まりに顔を出せば、これまで称賛の眼差しを受けていた。

 なのに今では一変して、嘲りや同情の視線を受ける。

 ーーこれが生まれてきてずっと努力を重ねてきた私の結果なの!?

 アンジェラは、一人自分の部屋で毎晩泣き崩れた。あまりに自分が惨めすぎて。暗い未来しか想像できなくて。

 本来なら女性として一番華やかで美しい時間を過ごすはずなのに、アンジェラは婚約してから破棄するまでの三ヶ月間ずっと苦痛で苦痛で仕方がなかった。

 そんな中、苦労など一度もしたことが無い妹から、無邪気な笑顔で「おめでとうお姉さま。幸せになってね」と言われ、いっそ首を締め上げたいとすら思ってしまった。

 妹であるリリーナは16歳。社交界デビューを終えると同時に、連日、沢山の男性から結婚の申し込みが入っている。

 そう。リリーナは選べる立場にある。自分なんかとは違って。

 その現実に気付いてしまった時、アンジェラは思い付いてしまったのだ。

 これまでずっと人のものを奪い続けてきた憎くて憎くてたまらない妹に、仕返しをしてやろう、と。
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