「何でも欲しがる妹に、嫌いな婚約者を押し付けてやりましたわ。ざまぁみなさい」という姉の会話を耳にした婚約者と妹の選択

当麻月菜

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セルードの企み

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 リリーナの目は赤かったけれど、ぎゅっとスカートの裾を握る指先は白く強い決意を表していた。

「私は……自分がどこまで愚かな人間なのか知りたいのです。だからセルード様……どうか私の知らない現実を教えてください」

 わずかに声を震わせながら願い出たリリーナに、セルードは憐憫の目を向ける。

「やめておけ。貴方が思っているより辛い現実だ」
「そうかもしれません。でも……知りたいのです」
「はっ」

 思わず鼻で笑ってしまった。

 話せばこの少女はきっと泣く。下手をしたらこの先、生きていくのに支障をきたすだろう。

 ただでさえ、内気で何でもかんでも自分が悪いと思い込む面倒くさい性格だ。

 そんな彼女にありのままに伝えてしまえば、それこそもっと面倒くさい状況になる。それは家同士の問題云々ではないーー個人的に放っておけなくなるから。

「現実を知るより、さっさと家に帰って荷物をまとめた方が良い」
「え?」

 端的に助言をすれば、きょとんとした顔を返されてしまった。やっぱり面倒くさい。

 しかし気付けば、セルードは言葉を重ねていた。

「どこか友人の屋敷にでも……もしくは母方の親戚のところにでも身を寄せろ」
「……え?……あの……」

 更に意味が分からないと言いたげにリリーナは、首を傾げてその場から動かない。

 セルードは苛立った。

 もう一人の自分がこんな説明じゃ納得できるわけないだろうと呆れているが、それでも苛立つ気持ちが強くなる。

 それがとても不思議で、不快だった。

 けれども、実に不本意ながらリリーナを引きずって馬車に戻る気にもなれない。

「……くそっ」

 つい感情のまま舌打ちすれば、リリーナがびくっと身体を震わせる。

「この程度で怖がるなら、聞かない方が良い」
「いえ」

 気丈に答えるリリーナに、セルードはぐっと彼女に近づき顎を掴んだ。

「知れば後悔するぞ?」
「そうかもしれません……でも、無知な自分が嫌なんです。知らずに後悔するより、知って後悔することを選ばせてください」
「ったく、強情だな」
「ごめんなさい……でも教えてもらえる機会は……きっと今しかないですから」 

 そっと目を伏せるリリーナに、セルードは露骨に息を吐いた。根負けの溜息だった。

 セルードはリリーナの顎を掴む手を離し、反対の手で眼鏡を外す。次いで、鬱陶しい前髪をかき上げた。

「わかった。なら話そう」
「ありがとうござい……っ」

 笑みこそ浮かべていないが、感謝の意を表そうと顔を上げたリリーナは小さく息を呑んだ。

 眼鏡を外したセルードは、野暮ったさが消えてまるで別人だったから。
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