交際ゼロ日からの、契約結婚 ~夫が抱える25の嘘~

当麻月菜

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華麗なる一族と、自称婚約者

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 真澄の運転で、菜穂子は都内の一等地にある大豪邸──柊木本家に到着した。

「なんか、老舗旅館みたい……」

 これ以上の表現が見つからず、あんぐり口を開ける菜穂子とは対照的に、真澄はコンビニに来たくらいの気楽さだ。

「庭だけでも、実家が三つ入る……」
「入れるな、比べるな」

 呆れ顔になる真澄は、外で待機していた使用人に車のキーを渡している。

 不思議に思った菜穂子がじっと見つめていると、真澄は「行くぞ」と先を歩き出す。

「まさかいつも駐車場に停めさせてるんですか?」
「いつもじゃない」

 へぇー、ふぅーん、そぉーですかぁーと、菜穂子は雑な返事をしながら、真澄を盗み見る。

「……お坊ちゃま」
「やめろ」

 心底嫌な顔をした真澄は、菜穂子の手をつないで歩き出す。

「真澄さん、あのぉー……」
「意地悪を言った罰だ。あと真澄さんってなんだ?」
「あなたのお名前です」
「いつも通りでいい」
「……そっすか」

 手を繋ぐのがなんで罰になるのかわからないし、呼び方だってこの場に相応しくない。

 けれども、緊張でガチガチになっている菜穂子には、真澄の手の温かさは有り難い。

「まぁ君、私ねヘタこかないように頑張るから」

 菜穂子が繋いだ手に力を入れると、真澄も同じくらいの力で握り返す。

「頼もしいな。とりあえず菜穂ちゃんにお願いしたいのは……」

 足を止めた真澄は、菜穂子と向き合う。男性にしては長くほっそりした指を伸ばして、菜穂子のほつれたおくれ毛を直しながら顔をグッと近づける。

「あまり飲みすぎるなよ」
「っ……!!」

 ドキッとしたし、ギグッともした菜穂子は、顔を赤らめながらぎこちなく頷いた。

 頬の熱が早く冷めるようにと祈りながら、菜穂子は真澄と日本庭園風の庭を通って玄関に入る。

 待ち構えていたのは、武田信玄の甲冑と真澄によく似た青年だった。

「兄さん、おかえり」
「……ああ」
「あと、あけましておめでとう」
「……ああ」
「外、寒かったよね。早く中に入って!みんな待ってるよ」
「……ああ」
 
 二十歳前後に見えるから、多分、真澄の弟なのだろう。

 塩対応の真澄にめげずに、必死に笑顔で話しかけている。よほどのお兄ちゃん子なんだろうと菜穂子は微笑ましい気持ちになる。

 とはいえ、いじらしいほど兄に愛を伝えている真澄の弟だが、菜穂子のことはガン無視だ。

「幹久」

 真澄が厳しい声で名を呼ぶ。途端に真澄の弟──幹久は笑みを消し、ビクッと身体を震わせた。

「彼女は菜穂子さん。俺の妻だ」

 肩を抱き寄せられた菜穂子は、とりあえず小さく会釈をする。

「はじめまして、幹久さん。菜穂子です」
「……どうも」

 ブスくれた幹久を見ても、菜穂子は寛容に微笑む。

 歓迎されないのは覚悟してたし、同じ兄をもつ者として、お兄ちゃん子の幹久は菜穂子にとったら、ただ可愛いだけである。でも──

「幹久、真澄さん。二人とも、こんなところで立ち話しないで中に入りなさい」

 そんなふうに声をかけながら姿を現したのは、色無地の着物に身を包んだ大輪の花のような中年の女性だった。話し方からして、おそらく真澄と幹久の母だろう。

 彼女もまた幹久と同じように、菜穂子を綺麗に無視して真澄にだけ笑みを向けている。

「母さん、紹介する。この女性は俺の──」
「あっ!いけないっ。持永様がいらっしゃったみたいだわ」

 パン!と手を叩いて真澄の言葉を遮った真澄の母親は、草履を履いて庭へと出ていってしまった。

 突風のように消えてしまった母親に真澄と幹久は唖然としているが、菜穂子は半目になっている。

 なぜならすれ違う瞬間、真澄の母親にこう囁かれたのだ。

「よく本家に顔を出せたわね。厚かましい……!」

 これは控えめに言って、宣戦布告である。
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