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2.他称ロリコン軍人は不遇な毒舌少女を癒したい
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「あんたはなぁ、もっと自分を大事にすべきだ」
レンブラントの膝の上で、背中に微かな温もりを感じたと同時に、威圧的ではないが芯のある声が頭上から聞こえてきた。
そして脇に手を入れられ、身体が少し浮く。次に着席したときは、レンブラントと向き合う形になっていた。
「あんたは今、とても痛いんだ。のたうち回るくらいに。そして、本来なら病院に担ぎ込まれるほどの怪我を負っているんだ」
「まさか、大袈裟な」
「大袈裟なんかじゃない。ひどく痛いんだ」
「ちょっと勝手に決めつけないで」
強引すぎるレンブラントの物言いに、ベルの眉間に皺が寄る。
だがレンブラントの表情は変わらない。
何かに憂いているようで、それでいてとても大切なことを伝えようとしている真剣なそれ。
「いいか、良く聞け。痛みに慣れることと、感じないことは違う。理不尽な暴力に耐えることを当たり前だと思うな。心無い言葉を、ただ黙って受け入れるな」
「……でも」
ベルは次の言葉が見つからず唇を噛んだ。
レンブラントの言葉は正しい。自分だって、誰かが同じようになっていたら、レンブラントと同じことを言うだろう。
「ベル、俺はあんたのことを全部は知らない。でも、あんたが何かを必死に抱えているのはわかる」
「……えっ?」
「それはおいそれと人に話すことができないことで、安易に助けてと言えない事だっていうのもわかっている」
「……っ」
(この人はどこまで知っているのだろう)
そして今頃になって、どうしてレンブラントが背中と脇腹の傷のことまで知っているのかという疑問が生まれ、ベルは更に強く唇を噛んだ。
もしかしてあの時、すでにレンブラントは近くにいてクルトとのやり取りを聞いていたのかもしれない。
それともただ単にカマをかけて、自分から何かを聞き出そうとしているのだろうか。
(どちらにしても気を許してはいけない)
───……というベルの思考が顔に現れていたのだろう、レンブラントはふっと笑った。
思わずつられて笑いたくなるような、不安を打ち消すような柔らかいそれだった。
「だからな、ベル。俺は、あんたに何も聞かないことにする」
「へ?」
「あんたが軍人に知られては困ることをしているなら、ずっと黙っていろ。言いたくないことは言わなくて良い。助力を求められない状況にいるなら、そのままでいろ」
「……」
「俺はそんなあんたを守る。軍人である俺じゃなく、ただのレンブラントとして」
天気の話をしているような軽い口調ではあるが、その目は真剣な光を宿している。そして、ベルを捕らえて離さない。
「あんたは、これだけ覚えていればいい。どうにもならなくなっても、どうにかしてくれる奴が世界で一人だけいる、と」
そう言ってレンブラントはベルを怯えさせないようにゆっくりと手を伸ばす。次いでベルの頭を抱え込んだ。
……コツンと、ベルの額がレンブラントの胸に当たる。
温もりが伝わってくると共に、あの日と同じ、清々しくて微かに甘い香りがベルの鼻孔をくすぐる。
「……どうして」
「ん?」
くぐもった声でベルが呟けば、レンブラントは優しく続きを促す。
「ねぇ……ど、どうしてレンブラントさんは、お仕事以上のことをしようとしてくれるんですか?」
レンブラントは、遠回しに自分が粉砕した領印について見逃すと言ってくれている。
でも、それはかなり罪深いことだ。
見つけ次第、即刻処罰すべき案件だ。
逆に言えばそうしなければ職務怠慢ということで、レンブラントが処罰の対象になってしまう。
なのにレンブラントは己の保身よりも、出会って一ヶ月足らずの護衛対象の意思を尊重しようとしてくれている。
ベルは、まったくもって理解ができなかった。
「ねぇ、レンブラントさん、教えてください」
「……あんた、それ言葉で聞くか?」
居心地が悪そうにそう言ったレンブラントの表情は、苦虫を噛みつぶしたようだった。
レンブラントの膝の上で、背中に微かな温もりを感じたと同時に、威圧的ではないが芯のある声が頭上から聞こえてきた。
そして脇に手を入れられ、身体が少し浮く。次に着席したときは、レンブラントと向き合う形になっていた。
「あんたは今、とても痛いんだ。のたうち回るくらいに。そして、本来なら病院に担ぎ込まれるほどの怪我を負っているんだ」
「まさか、大袈裟な」
「大袈裟なんかじゃない。ひどく痛いんだ」
「ちょっと勝手に決めつけないで」
強引すぎるレンブラントの物言いに、ベルの眉間に皺が寄る。
だがレンブラントの表情は変わらない。
何かに憂いているようで、それでいてとても大切なことを伝えようとしている真剣なそれ。
「いいか、良く聞け。痛みに慣れることと、感じないことは違う。理不尽な暴力に耐えることを当たり前だと思うな。心無い言葉を、ただ黙って受け入れるな」
「……でも」
ベルは次の言葉が見つからず唇を噛んだ。
レンブラントの言葉は正しい。自分だって、誰かが同じようになっていたら、レンブラントと同じことを言うだろう。
「ベル、俺はあんたのことを全部は知らない。でも、あんたが何かを必死に抱えているのはわかる」
「……えっ?」
「それはおいそれと人に話すことができないことで、安易に助けてと言えない事だっていうのもわかっている」
「……っ」
(この人はどこまで知っているのだろう)
そして今頃になって、どうしてレンブラントが背中と脇腹の傷のことまで知っているのかという疑問が生まれ、ベルは更に強く唇を噛んだ。
もしかしてあの時、すでにレンブラントは近くにいてクルトとのやり取りを聞いていたのかもしれない。
それともただ単にカマをかけて、自分から何かを聞き出そうとしているのだろうか。
(どちらにしても気を許してはいけない)
───……というベルの思考が顔に現れていたのだろう、レンブラントはふっと笑った。
思わずつられて笑いたくなるような、不安を打ち消すような柔らかいそれだった。
「だからな、ベル。俺は、あんたに何も聞かないことにする」
「へ?」
「あんたが軍人に知られては困ることをしているなら、ずっと黙っていろ。言いたくないことは言わなくて良い。助力を求められない状況にいるなら、そのままでいろ」
「……」
「俺はそんなあんたを守る。軍人である俺じゃなく、ただのレンブラントとして」
天気の話をしているような軽い口調ではあるが、その目は真剣な光を宿している。そして、ベルを捕らえて離さない。
「あんたは、これだけ覚えていればいい。どうにもならなくなっても、どうにかしてくれる奴が世界で一人だけいる、と」
そう言ってレンブラントはベルを怯えさせないようにゆっくりと手を伸ばす。次いでベルの頭を抱え込んだ。
……コツンと、ベルの額がレンブラントの胸に当たる。
温もりが伝わってくると共に、あの日と同じ、清々しくて微かに甘い香りがベルの鼻孔をくすぐる。
「……どうして」
「ん?」
くぐもった声でベルが呟けば、レンブラントは優しく続きを促す。
「ねぇ……ど、どうしてレンブラントさんは、お仕事以上のことをしようとしてくれるんですか?」
レンブラントは、遠回しに自分が粉砕した領印について見逃すと言ってくれている。
でも、それはかなり罪深いことだ。
見つけ次第、即刻処罰すべき案件だ。
逆に言えばそうしなければ職務怠慢ということで、レンブラントが処罰の対象になってしまう。
なのにレンブラントは己の保身よりも、出会って一ヶ月足らずの護衛対象の意思を尊重しようとしてくれている。
ベルは、まったくもって理解ができなかった。
「ねぇ、レンブラントさん、教えてください」
「……あんた、それ言葉で聞くか?」
居心地が悪そうにそう言ったレンブラントの表情は、苦虫を噛みつぶしたようだった。
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