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☆書籍化感謝☆
彼女曰く、それは元の世界では男のロマンらしい
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「……疲れた」
竜伯爵当主であるデュアロスことデュアロス・ラーグは帰宅の為に馬車に乗り込んだ途端、重い重い溜息を吐いた。
今日は散々な一日だった。
まず出勤してすぐに王太子であるラガートに捕まった。勤務中であることをこれ以上ないほどアピールしたのに、彼は「俺を匿ってくれ」としがみついてきた。
軽く蹴りを入れて振り払おうとしたけれど、ど根性でラガートは仕事部屋にくっついてきた挙句、長い時間居座りやがった。
どうやらお見合いの話が本格的に進んでいるらしい。是非とも早々に式を挙げて今以上に多忙を極めて欲しいと切に願うデュアロスだが、わずかばかりの情が残っていたので今回だけは昼過ぎまでラガートを匿うことにした。
急に元気になって自分の周りをちょこまかする王太子の顔面に拳を埋め込まなかった自分を褒めてやりたい。
それから遅い昼食を食べた後、今度は補佐のニベラドが壊れた。
いや正確に言うとニベラドは疲れがピークに達すると、無意識に駄洒落を呟く癖がある。それが発動したのだ。しかも絶え間なく神経を逆なでする駄洒落を口にする。逆にそっちの方が疲れるのでは?とツッコミたくなる。
だがしかし無くて七癖。そこまで疲れさせてしまったのは、全て上司である自分の責任だとグッと文句を堪えた自分に拍手を送りたかった。
最後に仕事を切り上げて自宅に戻ろうとしたところ、国王陛下に捕まった。
見合いの話が出る度に姿を消す息子を何とかしてくれと懇願された。あとそれらにまつわる愚痴まで聞かされた。
「知るか」という言葉をグッと飲み込み「善処します」と答えた自分は、守るべき家族を得て更に大人になったと実感した。
……というアレコレがあったせいで、デュアロスは披露困憊だった。
「アカネに会いたい。今すぐに会いたい」
ぐっと眉間に皺をよせて苦しそうに呟くデュアロスだが、あと数分で自宅に到着する。
そこまで苦悶の表情を浮かべなくてもと言いたくなるが、彼の唯一の癒しは妻であるアカネ。だから一分一秒でも早く自宅に戻りたいのである。
そんなデュアロスの思いが通じたのだろうか。今日は普段より2分ほど早く、自宅に帰りつくことができた。
馬車を降りたデュアロスは足早に玄関扉を開ける。
しかし玄関ホールに足を踏み入れてすぐに、ピタリと止まった。視界に映る光景に驚いたからだ。
「おかえりなさいませ!ご主人様」
明るく元気な声でデュアロスを出迎えたのは、彼の妻であるアカネだった。
「……っ……ん?」
アカネが出迎えてくれるのは今日に始まったことではない。
むしろデフォルトだ。だからそこに驚いているのではなく、もっと別のところ。はっきり言うとアカネの服装に、デュアロスは目を丸くしている。
なぜかアカネは膝下の黒いワンピースに真っ白なエプロン姿。頭にはひらひらのカチューシャが乗っかている。
まぁ、つまりメイド衣装でデュアロスを出迎えていたのだ。
「似合いますか?デュアロスさん」
悪戯が成功したような笑みを浮かべたアカネは、目を丸くするデュアロスに軽い足取りで近付く。
そして手を伸ばせば触れる距離まで来ると、くるんと回った。スカートの裾とエプロンの紐がふわりと揺れる。
「良く似合っている。……似合っている、が」
なぜそんな珍妙な格好をしているのか。
そう言葉にする前に、アカネが満面の笑みで答えてくれた。
「デュアロスさん、こういうの好きかなって思って。メイドさんに頼んで制服を貸してもらったんです!へへっ」
「……」
とりあえずデュアロスは無言を貫いた。
好きかどうかと言えば、控え目に言って好きだ。
だがしかし自分はメイドが好きというわけではなく、アカネが好きなだけ。とどのつまり、アカネがどんな格好をしていても自分に笑いかけてくれるなら何でも好きだ。大好物だ。ありがとう。
という言葉を口にして良いのか悩んだデュアロスは、言葉ではなく身体で伝えることを選んだ。
「ではメイドのアカネ嬢。このまま寝室まで付き合ってもらおうか」
「は、はい」
まさかこんな展開になるとは思っていなかったのだろう。アカネは耳まで赤くなる。
だがしかし煽ってくれたのは、ほかならぬアカネである。この責任はしっかり受け入れてもらおう。
そう決心したデュアロスは、アカネの腰に手を回して寝室へと足を向けた。
ただ向かう途中、足を止めずに柱の陰に隠れている人影に向かいこう告げた。
「ダリ、夕食は少し遅くなる」
すかさず人影は、心得たように深く頷いた。
◇◆◇◆おわり◆◇◆◇
読んでいただきありがとうございました(o*。_。)oペコッ
竜伯爵当主であるデュアロスことデュアロス・ラーグは帰宅の為に馬車に乗り込んだ途端、重い重い溜息を吐いた。
今日は散々な一日だった。
まず出勤してすぐに王太子であるラガートに捕まった。勤務中であることをこれ以上ないほどアピールしたのに、彼は「俺を匿ってくれ」としがみついてきた。
軽く蹴りを入れて振り払おうとしたけれど、ど根性でラガートは仕事部屋にくっついてきた挙句、長い時間居座りやがった。
どうやらお見合いの話が本格的に進んでいるらしい。是非とも早々に式を挙げて今以上に多忙を極めて欲しいと切に願うデュアロスだが、わずかばかりの情が残っていたので今回だけは昼過ぎまでラガートを匿うことにした。
急に元気になって自分の周りをちょこまかする王太子の顔面に拳を埋め込まなかった自分を褒めてやりたい。
それから遅い昼食を食べた後、今度は補佐のニベラドが壊れた。
いや正確に言うとニベラドは疲れがピークに達すると、無意識に駄洒落を呟く癖がある。それが発動したのだ。しかも絶え間なく神経を逆なでする駄洒落を口にする。逆にそっちの方が疲れるのでは?とツッコミたくなる。
だがしかし無くて七癖。そこまで疲れさせてしまったのは、全て上司である自分の責任だとグッと文句を堪えた自分に拍手を送りたかった。
最後に仕事を切り上げて自宅に戻ろうとしたところ、国王陛下に捕まった。
見合いの話が出る度に姿を消す息子を何とかしてくれと懇願された。あとそれらにまつわる愚痴まで聞かされた。
「知るか」という言葉をグッと飲み込み「善処します」と答えた自分は、守るべき家族を得て更に大人になったと実感した。
……というアレコレがあったせいで、デュアロスは披露困憊だった。
「アカネに会いたい。今すぐに会いたい」
ぐっと眉間に皺をよせて苦しそうに呟くデュアロスだが、あと数分で自宅に到着する。
そこまで苦悶の表情を浮かべなくてもと言いたくなるが、彼の唯一の癒しは妻であるアカネ。だから一分一秒でも早く自宅に戻りたいのである。
そんなデュアロスの思いが通じたのだろうか。今日は普段より2分ほど早く、自宅に帰りつくことができた。
馬車を降りたデュアロスは足早に玄関扉を開ける。
しかし玄関ホールに足を踏み入れてすぐに、ピタリと止まった。視界に映る光景に驚いたからだ。
「おかえりなさいませ!ご主人様」
明るく元気な声でデュアロスを出迎えたのは、彼の妻であるアカネだった。
「……っ……ん?」
アカネが出迎えてくれるのは今日に始まったことではない。
むしろデフォルトだ。だからそこに驚いているのではなく、もっと別のところ。はっきり言うとアカネの服装に、デュアロスは目を丸くしている。
なぜかアカネは膝下の黒いワンピースに真っ白なエプロン姿。頭にはひらひらのカチューシャが乗っかている。
まぁ、つまりメイド衣装でデュアロスを出迎えていたのだ。
「似合いますか?デュアロスさん」
悪戯が成功したような笑みを浮かべたアカネは、目を丸くするデュアロスに軽い足取りで近付く。
そして手を伸ばせば触れる距離まで来ると、くるんと回った。スカートの裾とエプロンの紐がふわりと揺れる。
「良く似合っている。……似合っている、が」
なぜそんな珍妙な格好をしているのか。
そう言葉にする前に、アカネが満面の笑みで答えてくれた。
「デュアロスさん、こういうの好きかなって思って。メイドさんに頼んで制服を貸してもらったんです!へへっ」
「……」
とりあえずデュアロスは無言を貫いた。
好きかどうかと言えば、控え目に言って好きだ。
だがしかし自分はメイドが好きというわけではなく、アカネが好きなだけ。とどのつまり、アカネがどんな格好をしていても自分に笑いかけてくれるなら何でも好きだ。大好物だ。ありがとう。
という言葉を口にして良いのか悩んだデュアロスは、言葉ではなく身体で伝えることを選んだ。
「ではメイドのアカネ嬢。このまま寝室まで付き合ってもらおうか」
「は、はい」
まさかこんな展開になるとは思っていなかったのだろう。アカネは耳まで赤くなる。
だがしかし煽ってくれたのは、ほかならぬアカネである。この責任はしっかり受け入れてもらおう。
そう決心したデュアロスは、アカネの腰に手を回して寝室へと足を向けた。
ただ向かう途中、足を止めずに柱の陰に隠れている人影に向かいこう告げた。
「ダリ、夕食は少し遅くなる」
すかさず人影は、心得たように深く頷いた。
◇◆◇◆おわり◆◇◆◇
読んでいただきありがとうございました(o*。_。)oペコッ
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