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どんな精神状態でも美味しいと感じる食べ物は本当の好物だと言い切れる(検証済み)

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 ウェルドが満を持してヴァネッサにお勧めするアラン・ディスティールは金髪碧眼の美青年だ。

 夜会に出席すれば女性達から熱い視線を一身に浴びて、護衛騎士として無理矢理連れていかれたウェルドが邪魔者扱いされるくらいに。

 言っておくが、ウェルドだって負けず劣らずの美丈夫だ。

 たくましい身体に、騎士らしい隙のない身のこなし。意志の強さを表す凛々しい顔は、騎士の中ではダントツにカッコいい。

 しかしアランと並べば、なぜか一変して障壁扱いされる現実にティスタは納得いかない。だからといって、ウェルドまできゃあきゃあ言われたら、それはそれで面白くはない。

 面倒臭いと思わないで欲しい。これが乙女心というヤツだ。

 ちなみにアランにはシャロンという名の妹がいる。交流はほとんどないけれど、同性の厳しい目で見ても彼女は天使にしか見えない。

(そんな妹まで完璧なディスティール家に、あんな秘密があるなんて……)

 ティスタは貴族社会のダークサイドを垣間見てしまい、ウェルドに抱きしめられたまま遠い目をする。

「……ご理解いただけましたか?ティスタさん」
「ええ、まぁ。はい。とっても」

 こくこくと頷きつつ、もそもそとウェルドの腕から逃れたティスタは、ずっと置き去りにされていたエッグサンドを手に取った。

「……とりあえず、これ食べよっか」
「ああ、そうだな」

 完璧なキャパオーバーから脈絡が無い提案をしたティスタに、ウェルドは訝しむ様子もなく同意する。

 幸いエッグサンドは2切れあったので、一切れウェルドに手渡し、残りの一切れをティスタはもぐもぐと咀嚼する。

 既に時間が経って、チーズが硬くなってしまったそれでも、充分に美味しい。

「ウェルドさん、いい天気だね」
「ああ、そうだな」

 本日は曇りであるが、ウェルドは否定せず頷く。

 ティスタはエッグサンドを頬張りながら、話を続ける。今は沈黙が何よりも怖い。

「ところで”もぐら亭”で事件にあった被害者の騎士様たちに、お詫びの品を贈りたいんだけど、何が良いかなぁー」
「いや、いらんだろ。俺ら日頃から急な襲撃にあっても対応できるよう鍛錬してるから、あれ程度で動じる奴らじゃないし。むしろあのおかげで飲み会が早めに切り上げることができたから、良かったんじゃね?」
「そっか。お姉さまもたまには人の役に立つのね。でも、団長には申し訳ないなぁー。もっと愚痴を吐きたかったかもしれないし……。なんか、心癒されるモノを贈りたいんだけど……」
「あー、んなもん気にするな。団長さぁ、一昨日捨て猫を拾ってきて、今はすっかり子猫にメロメロになってるから、メンタル面の心配もしなくて良いさ」
「そっか。良かったね」
「ああ、良かった良かった」

 とりとめのない会話をしながら、ティスタはどんな精神状態でも美味しいと感じる食べ物は、本当の好物だと思った。

 



 ─── そうして、10日後。

 ウェルドが考えた秘策が決行されることになった。
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