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被害者の仮面を被った、あなた。※またの名を【ご褒美事件】
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『何かご用がありましたか?』
夜会前なら「ん?どうしたの?」と笑って、おいでおいでとモネリとアネリーを手招きするのに、今日は初日に戻ったような口調になってしまった。
その言葉遣いが、侍女たちに距離感を置いていることを如実に伝えてしまい、二人は心外だと言わんばかりの表情を浮かべた後、くしゃりと顔を歪ませた。
傷付けるつもりなんてこれっぽっちもなかったユリシアは、慌てて二人の元に駆け寄ろうとしたーーが、その前にモネリとアネリーにタックルをかまされてしまった。
「ぅわぁああああーーーーん!ユリシア様、もうっ、もうっ、酷いです!!」
「ふぇえええーん。もうっ、殿下から聞きましたよ!なんで今更他人行儀になるんですかぁー」
尻もちをついたユリシアに、モネリとアネリーはぎゅーっとしがみつきながら思いの丈をぶつける。
「……っ……ご、ごめんなさい」
「もう、やだぁー」
「ひどいですよぅ」
思ってもみなかったリアクションに、ユリシアは目を白黒させながら謝るが、モネリとアネリーはいやいやと子供みたいに首を横に振る。
「ユリシア様を憎んでなんかいませんよぉー。そりゃ、初日はちょっと……ほんのちょっとだけどうして良いのかわからなかったけど、でもそんなの昔の話ですっ。あんなに一緒にお茶した仲なのにぃー」
「そうですよぅ。小説読みまわしした仲じゃないですかぁー」
本気でわんわん泣き始めた侍女二人は、感極まってユリシアをぎゅうぎゅう抱きしめる。
控え目に言って苦しい。窒息死しそうだ。でも、ユリシアはそれを甘んじて受け入れ、なんとか両手を伸ばして二人を抱き返した。
そうすれば、モネリとアネリーは同時にこう言った。
「だいたい憎んでいたら、逃亡するとき連れてってなんて言わないですよぅ!……あ」
「憎んでいる相手と、三人一緒にくっついて寝れば良いだなんて言いません!……あ」
言い方は違えど、逃亡事件の後に約束したことを語ったモネリとアネリーは顔を見合わせる。次いで、これまた同時に「ね!?」とユリシアに同意を求めた。
「……っう……ううっ」
そんな嬉しい事を言われてしまえば、今度はユリシアが泣く番だった。
そうだ、そうだった。ちょっと考えればわかることだった。
ここは大公爵の屋敷だ。使用人たちは、かつての主人を見殺しにした国の人間がやってくることを事前に知らされていたはずだ。
なのに小雪がチラつく中、使用人達は皆、温かく出迎えてくれた。
その後も、誰一人敵意を向けることなく親切に接してくれた。あの日の使用人達の笑顔を今でも鮮明に覚えている。答えなんて探す必要なかった。こんなすぐそばにあった。
でも、この胸にある罪の意識は消えることは無い。
「……私、どうしたら償えるのかな」
ずびっと鼻を啜りながら勇気を出して率直に問えば、モネリとアネリーは口を揃えて言った。
「償う必要なんてないです!もうっ、そんなふうに暗く考えないでください!」
「で、でも……」
「ないんですってば!」
癇癪を起こした子供のようにモネリがくわっと叫べば、アネリーが言葉を引き継ぐ。
「ユリシア様がリンヒニア国で過ごした時より、ここで幸せになればそれで良いんです!あーマルグルス最高って思ってもらえれば、私たちの心は救われます!お仕えして良かったって思えます!わかりましたか!!」
「は、はい!」
ものすごい剣幕で言い切られ、ユリシアは反射的に返事をしてしまった。
すぐに罪悪感でチクリと胸が痛むが、モネリとアネリーはキラッキラの笑顔でハイタッチを求めてくる。
……この流れで拒絶する勇気はなかった。
というわけでユリシアは仲直り(?)のハイタッチで、モネリとアネリーとの距離を戻した。
なんだか言いくるめられた感はあったけれど、やっぱり二人が傍に居てくれるのは嬉しい。
そして早速別邸でお茶を飲もうと移動しようとしたが、ここで開いたままのフリーシアの手紙にアネリーが気付いてしまい、急遽女子3人によるDV被害者の対処会議が始まった。
重い議題であったが、会議は5分で終了。
「ーーんじゃ、ユリシア様。殿下は今日も執務室にいますので」
「別邸でお茶を用意しときますね。もちろんお菓子も」
そう言いながらユリシアを廊下に押しだすモネリとアネリーは、いつぞやの【ダンス事件】の時と同じくグレーゲルに直接聞くことを勧めている。
多少は予期していたことではあるが、それでもユリシアは僅かばかりの抵抗で「……でも、こんなこと殿下に頼めるわけが」とごねてみる。
返って来た返事は、前回同様これだった。
「ユリシア様、万が一……いえ億が一、いいえ兆が一、殿下が取り合わなかったらこう仰って下さい。”じゃあ、もういいです”と」
「それか”そっか。残念ね”って、肩を竦めてみるのもアリです!とにかく大丈夫です!がんばです!!」
やっぱり、兆が一っていうフレーズはトオン領で流行ってるんだぁー。
と、思う自分は間違いなく現実逃避していると気付いたユリシアだが、その足は確実に執務室に向かっていた。
夜会前なら「ん?どうしたの?」と笑って、おいでおいでとモネリとアネリーを手招きするのに、今日は初日に戻ったような口調になってしまった。
その言葉遣いが、侍女たちに距離感を置いていることを如実に伝えてしまい、二人は心外だと言わんばかりの表情を浮かべた後、くしゃりと顔を歪ませた。
傷付けるつもりなんてこれっぽっちもなかったユリシアは、慌てて二人の元に駆け寄ろうとしたーーが、その前にモネリとアネリーにタックルをかまされてしまった。
「ぅわぁああああーーーーん!ユリシア様、もうっ、もうっ、酷いです!!」
「ふぇえええーん。もうっ、殿下から聞きましたよ!なんで今更他人行儀になるんですかぁー」
尻もちをついたユリシアに、モネリとアネリーはぎゅーっとしがみつきながら思いの丈をぶつける。
「……っ……ご、ごめんなさい」
「もう、やだぁー」
「ひどいですよぅ」
思ってもみなかったリアクションに、ユリシアは目を白黒させながら謝るが、モネリとアネリーはいやいやと子供みたいに首を横に振る。
「ユリシア様を憎んでなんかいませんよぉー。そりゃ、初日はちょっと……ほんのちょっとだけどうして良いのかわからなかったけど、でもそんなの昔の話ですっ。あんなに一緒にお茶した仲なのにぃー」
「そうですよぅ。小説読みまわしした仲じゃないですかぁー」
本気でわんわん泣き始めた侍女二人は、感極まってユリシアをぎゅうぎゅう抱きしめる。
控え目に言って苦しい。窒息死しそうだ。でも、ユリシアはそれを甘んじて受け入れ、なんとか両手を伸ばして二人を抱き返した。
そうすれば、モネリとアネリーは同時にこう言った。
「だいたい憎んでいたら、逃亡するとき連れてってなんて言わないですよぅ!……あ」
「憎んでいる相手と、三人一緒にくっついて寝れば良いだなんて言いません!……あ」
言い方は違えど、逃亡事件の後に約束したことを語ったモネリとアネリーは顔を見合わせる。次いで、これまた同時に「ね!?」とユリシアに同意を求めた。
「……っう……ううっ」
そんな嬉しい事を言われてしまえば、今度はユリシアが泣く番だった。
そうだ、そうだった。ちょっと考えればわかることだった。
ここは大公爵の屋敷だ。使用人たちは、かつての主人を見殺しにした国の人間がやってくることを事前に知らされていたはずだ。
なのに小雪がチラつく中、使用人達は皆、温かく出迎えてくれた。
その後も、誰一人敵意を向けることなく親切に接してくれた。あの日の使用人達の笑顔を今でも鮮明に覚えている。答えなんて探す必要なかった。こんなすぐそばにあった。
でも、この胸にある罪の意識は消えることは無い。
「……私、どうしたら償えるのかな」
ずびっと鼻を啜りながら勇気を出して率直に問えば、モネリとアネリーは口を揃えて言った。
「償う必要なんてないです!もうっ、そんなふうに暗く考えないでください!」
「で、でも……」
「ないんですってば!」
癇癪を起こした子供のようにモネリがくわっと叫べば、アネリーが言葉を引き継ぐ。
「ユリシア様がリンヒニア国で過ごした時より、ここで幸せになればそれで良いんです!あーマルグルス最高って思ってもらえれば、私たちの心は救われます!お仕えして良かったって思えます!わかりましたか!!」
「は、はい!」
ものすごい剣幕で言い切られ、ユリシアは反射的に返事をしてしまった。
すぐに罪悪感でチクリと胸が痛むが、モネリとアネリーはキラッキラの笑顔でハイタッチを求めてくる。
……この流れで拒絶する勇気はなかった。
というわけでユリシアは仲直り(?)のハイタッチで、モネリとアネリーとの距離を戻した。
なんだか言いくるめられた感はあったけれど、やっぱり二人が傍に居てくれるのは嬉しい。
そして早速別邸でお茶を飲もうと移動しようとしたが、ここで開いたままのフリーシアの手紙にアネリーが気付いてしまい、急遽女子3人によるDV被害者の対処会議が始まった。
重い議題であったが、会議は5分で終了。
「ーーんじゃ、ユリシア様。殿下は今日も執務室にいますので」
「別邸でお茶を用意しときますね。もちろんお菓子も」
そう言いながらユリシアを廊下に押しだすモネリとアネリーは、いつぞやの【ダンス事件】の時と同じくグレーゲルに直接聞くことを勧めている。
多少は予期していたことではあるが、それでもユリシアは僅かばかりの抵抗で「……でも、こんなこと殿下に頼めるわけが」とごねてみる。
返って来た返事は、前回同様これだった。
「ユリシア様、万が一……いえ億が一、いいえ兆が一、殿下が取り合わなかったらこう仰って下さい。”じゃあ、もういいです”と」
「それか”そっか。残念ね”って、肩を竦めてみるのもアリです!とにかく大丈夫です!がんばです!!」
やっぱり、兆が一っていうフレーズはトオン領で流行ってるんだぁー。
と、思う自分は間違いなく現実逃避していると気付いたユリシアだが、その足は確実に執務室に向かっていた。
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