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あの時は、そんなつもりじゃなかった。なのに気付けば恋に落ちていた
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魔法は、精霊の恩恵を受けて使えるもの。
対して呪いは人を羨み蔑む負の感情から生み出されたもの。しかし魔法であることには変わらない。
また魔法は生まれながらに魔力を持つものだけが扱えるが、受ける側は相手を選ばない。
でも世界にたった一人だけ魔法を受けない存在がいる。それは精霊姫の生まれ変わりであるノアだ。
もともと精霊だった魂を持つノアは、精霊にもっとも近い人間だ。立ち位置的には人に魔法を与える側にいるので、人間が作り出した魔法は通用しない。
だからこそ人が考えた魔法文字はてんで理解できないし、覚えることも本能が拒絶する。
それに加えてノアは、精霊を統べる精霊王の娘の魂でもある。
強く望んだその言葉は、強烈な力となる。人間風情が生み出した呪いなどいとも簡単に跳ね返すほどに。
ちなみにノアが城に誘拐された時に声が出なかったのは、グレイアスが魔法をかけたわけじゃない。
万が一を考えたグレイアスの手によって声帯を麻痺させるキャンディーを口に放り込まれたから。ま、暴れるのに忙しかったせいで本人は全く覚えていないけれど。
……などということをアシェルは、後から知った。
あの時は、ただただ失った権力を取り戻す為だけに、精霊姫の生まれ変わりという肩書を持つノアを妻に迎えるつもりだった。
しかし予想外のことがおこった。精霊姫の生まれ変わりであるノアは、人間にとって魔力の塊だった。だからアシェルは、ノアと過ごすうちに僅かに目が見えるようになった。精霊たちの声も、かつてのように聞こえるようになった。
そうして精霊達との何気ない会話の中で、ノアを上手く誘導すれば呪いを跳ね返すことができることに気付いた。
結果として、自分を呪った第一王子に呪い返しをする計画を立てるのは、至極当然の流れだった。
とどのつまり、ノアはアシェルにとってこれ以上ないほど都合の良い存在だった。
見目も可愛らしく、どこぞの貴族令嬢のように野心も無い。いじらしくワガママ一つ言わないし、素直で扱いやすい駒だと思っていた。
でも気付けば、アシェルはノアに振り回されていた。
今となっては、彼女を利用することに罪悪感を覚え、嫌われること恐れている。去ってしまうことを考えるだけで気が狂いそうになるし、手放すなんて冗談でも口にしたくない。
(でも、復讐をしないという決断はできなかった)
アシェルは生まれながらにして王族だ。ローガンが王の器ではない事など、誰よりもわかっている。
王位継承争いは、兄弟喧嘩なんかじゃない。
多くの人々の命と人生が左右するもの。その自覚をもって挑まなければならないものだ。
だからアシェルは、ローガンに復讐した。二度と王位を狙うことができないよう、完膚なきまでに叩きつぶす必要があった。
それが恋い慕う相手を利用する結果になっても。
「ーーノア、あんなの見なくていい。見ちゃ駄目だ」
気が触れたように床で転げまわるローガンの盾になるように、アシェルはノアを抱き寄せようとする。
しかしノアは両手を突っぱねて、それを拒んだ。
すぐに心臓に無数の槍を刺されたような痛みが走る。
(やはり、嫌われてしまったか)
華麗に魔獣を退治したのにノアの心を射止めることはできなかったアシェルは、ここがどんな場なのか忘れて顔を歪ませる。けれども、
「んっ」
ノアは突っぱねた両腕を降ろさず、アシェルに突き出す。その姿はまるで抱っこをねだる子供にしか見えない。
「……ノア?」
「んっ」
恐る恐る尋ねれば、ノアは焦れたように唇を尖らせて再び両腕を突き出した。
(……触れて良いのだろうか?)
迷ったのは一瞬。気付けばアシェルはノアを抱き上げていた。そっとそっと……壊れ物を扱うかのように。
対して呪いは人を羨み蔑む負の感情から生み出されたもの。しかし魔法であることには変わらない。
また魔法は生まれながらに魔力を持つものだけが扱えるが、受ける側は相手を選ばない。
でも世界にたった一人だけ魔法を受けない存在がいる。それは精霊姫の生まれ変わりであるノアだ。
もともと精霊だった魂を持つノアは、精霊にもっとも近い人間だ。立ち位置的には人に魔法を与える側にいるので、人間が作り出した魔法は通用しない。
だからこそ人が考えた魔法文字はてんで理解できないし、覚えることも本能が拒絶する。
それに加えてノアは、精霊を統べる精霊王の娘の魂でもある。
強く望んだその言葉は、強烈な力となる。人間風情が生み出した呪いなどいとも簡単に跳ね返すほどに。
ちなみにノアが城に誘拐された時に声が出なかったのは、グレイアスが魔法をかけたわけじゃない。
万が一を考えたグレイアスの手によって声帯を麻痺させるキャンディーを口に放り込まれたから。ま、暴れるのに忙しかったせいで本人は全く覚えていないけれど。
……などということをアシェルは、後から知った。
あの時は、ただただ失った権力を取り戻す為だけに、精霊姫の生まれ変わりという肩書を持つノアを妻に迎えるつもりだった。
しかし予想外のことがおこった。精霊姫の生まれ変わりであるノアは、人間にとって魔力の塊だった。だからアシェルは、ノアと過ごすうちに僅かに目が見えるようになった。精霊たちの声も、かつてのように聞こえるようになった。
そうして精霊達との何気ない会話の中で、ノアを上手く誘導すれば呪いを跳ね返すことができることに気付いた。
結果として、自分を呪った第一王子に呪い返しをする計画を立てるのは、至極当然の流れだった。
とどのつまり、ノアはアシェルにとってこれ以上ないほど都合の良い存在だった。
見目も可愛らしく、どこぞの貴族令嬢のように野心も無い。いじらしくワガママ一つ言わないし、素直で扱いやすい駒だと思っていた。
でも気付けば、アシェルはノアに振り回されていた。
今となっては、彼女を利用することに罪悪感を覚え、嫌われること恐れている。去ってしまうことを考えるだけで気が狂いそうになるし、手放すなんて冗談でも口にしたくない。
(でも、復讐をしないという決断はできなかった)
アシェルは生まれながらにして王族だ。ローガンが王の器ではない事など、誰よりもわかっている。
王位継承争いは、兄弟喧嘩なんかじゃない。
多くの人々の命と人生が左右するもの。その自覚をもって挑まなければならないものだ。
だからアシェルは、ローガンに復讐した。二度と王位を狙うことができないよう、完膚なきまでに叩きつぶす必要があった。
それが恋い慕う相手を利用する結果になっても。
「ーーノア、あんなの見なくていい。見ちゃ駄目だ」
気が触れたように床で転げまわるローガンの盾になるように、アシェルはノアを抱き寄せようとする。
しかしノアは両手を突っぱねて、それを拒んだ。
すぐに心臓に無数の槍を刺されたような痛みが走る。
(やはり、嫌われてしまったか)
華麗に魔獣を退治したのにノアの心を射止めることはできなかったアシェルは、ここがどんな場なのか忘れて顔を歪ませる。けれども、
「んっ」
ノアは突っぱねた両腕を降ろさず、アシェルに突き出す。その姿はまるで抱っこをねだる子供にしか見えない。
「……ノア?」
「んっ」
恐る恐る尋ねれば、ノアは焦れたように唇を尖らせて再び両腕を突き出した。
(……触れて良いのだろうか?)
迷ったのは一瞬。気付けばアシェルはノアを抱き上げていた。そっとそっと……壊れ物を扱うかのように。
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