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耐え難きを耐え 忍び難きを忍び……

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 ミレニアの強い否定は、父親に確かに伝わった。ただ街の噂と、現実があまりに違い過ぎるため、娘にどういうことなのかと詰め寄った。

 ……悩んだ挙句、ミレニアは観念して全てを父に話した。

 そして宰相からニーゲラット家に注意をしてもらうよう願った。しかし、父の答えは【否】だった。

「相手は侯爵家。こちらに拒否権は無い。それに宰相殿はミレニアとヘンリー様の結婚を快く思っている」

 深い息を吐いた父親だったが、一応、親同士で話し合いの場を作るようにしてみる、とは言ってくれた。

 しかし翌日、父の口から出た言葉は「諦めろ」だった。




 あの時───最初に、出来損ないのポエムのような手紙を受け取った時、父に伝えていれば何かが変わったのだろうか。

 公開プロポーズで、顔の形が変わるほどビンタでもしておけばヘンリーから逃れることができたのだろうか。


 ミレニアはそのことをずっと考えていた。

 婚約が正式に決まった時も、結婚した後も。でも、答えはきっと「変わらない」の一択だろう。


 なぜならヘンリーは、最初から自分の思い通りにしたいだけだったのだ。

 相手がどんな気持ちでいるのか、どんなことをしたら喜ぶのか、悲しむのか、怒るのか、楽しいのか、そんなことなどはなから頭に無かったのだ。

 自分の描く形にならないことに焦れ、嘆き、悲しむことはできるが、諦めることは絶対にしない。なぜなら「自分の言動が間違っているかもしれない」という発想がないからだ。


 その歪んだ考えにミレニアが最初に気付いたのは、結婚式の直前───もう、後戻りができない場所に立っていた。




***




 強引な形で婚約となってしまったが、ミレニアは気持ちを切り替えた。

 そもそも貴族社会では結婚は親同士が決めることであり、娘には選択権は無い。

 だから怖気が走るようなポエムを押し付けられた過去があっても、公開プロポーズという公開処刑をくらったとしても、それでもミレニアはヘンリーの良いところを探した。

 んで、あったのか?と聞かれたら返答に困る。だが、少なくともヘンリーはミレニアを一途に愛していることは間違いなかった。

 そして母親からの「女は求められて結婚するのが一番幸せになれる」という言葉を信じ、ミレニアはヘンリーの妻になる気持ちを固めた。




 婚約が正式に決まった半年後───


 ミレニアは、王都の大聖堂の新婦控室にいた。純白のドレスに身を包んで。

(今日から私はあの人の妻になる)

 それを実感するミレニアは、感無量という言葉は胸に浮かんではこないけれど、行き遅れの娘がいるのかと周りから両親が後ろ指さされることはなくなったことは嬉しかった。

 数少ない友人たちも、今日の式に出席してくれている。

 祝福の鐘の音が響き、色とりどりの花が飾られているのが窓から見える。幸い配色は白を基調としているので、毒々しさは無い。

 大きな柱時計はチクタクと針を進め、式の開始時間をもうすぐ告げようとしている。

 そんな中、ノックの音と共に新郎であるヘンリーが顔を覗かせた。

 彼はウェディングドレスに身を包んだミレニアを褒め称え、今日という日をどれだけ待ち望んだのか、熱く語った。

 しかし、最後はこんな言葉で締めくくった。
 
「ああ、そうそう。新婦側の参列客があまりに少なくて見苦しいから、僕の友人たちを新婦側に移動させておいたから」
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