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第1章
第23話 幼少のころのお姉様の可愛らしさといったら!
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リリィが、ティアリースお姉様と始めて出会ったのはいつだったでしょう……?
ハッキリとは覚えていませんが、まだお互いが4~5歳ほどだったころ、何かの晩餐会で始めて引き合わされたのでした。
そのときのお姉様は、まるでお人形さんのように可愛くて……いえ、わたしが持っていたどんなお人形さんよりも美しかったのですから、この世に存在するありとあらゆる形容を用いても、お姉様の美しさは表現できないほどだったのです。
ですからわたしは……ハッキリと申し上げてしまえば……ぶっちゃけ、一目惚れでした……!
特に、幼少のころのお姉様の可愛らしさといったら! あ、いえ、今だってお姉様は可愛らしくも美しく、それでいて、儚げでありながらも内に秘めたる心は誰よりも力強くて……とにかくメチャクチャ好きですお姉様!
……っと、話が逸れましたわ。
だからわたしは、その可愛くて美しくて儚くて力強いそのお姿を後世に残そうと、お姉様の肖像画を何枚も何十枚も何百枚も描かせましたの!
肖像画の件は、アジノス陛下も大変に喜んでおられましたから制作はとても捗りました。陛下号令のもと、国内外から超一流の画家を招聘することも出来ました。
しかし次第に、お姉様は肖像画を描かれることを嫌がるようになってしまって。曰く「めんどい」「しんどい」「カネの無駄」とのことで……
まぁ……超一流画家を、とくに国外から招聘するのにはけっこうなお金が掛かりますから、徹底した合理主義でいらっしゃるお姉様にしてみればお金の無駄に見えたのかもしれません。それに、肖像画を描く間、お姉様はモデルとしてじっとしていなければなりませんし……
ですがお姉様の美しさを子々孫々・未来永劫広めていくには、肖像画をたくさん描くしかないのです。だから仕方が無かったのですよ、お姉様……
とはいえ肖像画の一件以外は、わたしたちはとても仲良く、それはもうまるで姉妹のように遊んでいました。ですのでわたしは、いつしか『殿下』ではなく『お姉様』と呼ぶようになって。
何しろお姉様呼びを許されているなんて、縁戚に名を連ねる中でも唯一わたしだけなのですからね!
そんな幼少期をわたしたちは過ごし──あ、そうそう。お姉様が気に入られていた遊戯は隠れんぼでした。お姉様ったらお隠れになるのがとても上手で、お姉様に隠れられるとまるで見つけられませんでした。いつも、侍女を総動員して丸一日探すというのに。それでいて、自室にいたりするのですから驚きです。
あとは城内の花園でおままごともよくやりましたわ。お姉様ったら『ちゃぶ台』なるテーブルをひっくり返すのがお好きで、わたしが草花や土で作った偽物のお料理を「こんなもの食べられますか!」と言って、ちゃぶ台をひっくり返してました。今にして思えば微笑ましいですわ。
さらには舞踏会でダンスをすることもしょっちゅうでしたわね。わたしからお誘いしても、お姉様はいつも殿方と踊られていて。お相手をちょっと絞め殺したい程度には妬ましく感じておりましたが、お姉様の美貌では致し方ないこと。さらに殿方が一巡すると、侍女とまでダンスをするのです。下々の人間を気に掛けてあげるなんて、お姉様ったらなんて慈悲深いのでしょう……!
そんな楽しい日々を過ごしていると、あるときお姉様が言いました。
「あなた、ここまでの扱いを受けて、どうしてまだわたしに付きまとうのです?」……と!
「だからわたしは答えたのです! お姉様が存在ところ、すなわちそれがわたしの居場所であると!!」
わたしとティアリースお姉様の思い出話をザッとしていると、牢屋に入っている男がゲンナリした様子で言ってきました。
「いやほんと……そこまでの扱いを受けて、今なお好意を寄せられるのは……大したものです……」
「でしょう!? お姉様に対するわたしの愛は無限なのです!!」
この男、お姉様をたぶらかした割にいいこといいますわ。
って!
なんでわたしは和んでいるんですか!
この男に、わたしとお姉様がどれほど相思相愛なのかを見せつけるために思い出話をしたというのに!
だからわたしは気合いを入れ直して言いました。
「ですからそこな間男! わたしとお姉様の間に割って入ることなど出来ないのですよ!」
すると間男は困り顔で言ってきます。
「いや……間に割って入るも何も、オレはそんなつもり毛頭ないのですが……」
「お姉様を穢しておいて今さら何を!?」
「け、穢してなんていませんよ!? まぁ……昨日はちょっと危うかったけど……」
「ちょっと危うかった!?」
「ち、違います! (元)衛士の誓いに掛けて王女殿下に手なんか出してません!」
「お姉様に魅力がなかったと侮辱する気!?」
「んなこと誰も言ってないだろ!?」
「なんて無礼な口の利き方! もういいです! お前達、この間男をやっておしまいなさい!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!?」
間男は牢屋の奥まで逃げると、手枷を填められた両手をワタワタ振っていますが無駄なあがきです! 連れてきた衛士は魔法士でもありますから、密閉した牢屋の中でこんがり焼いてもらいましょう!
しかし制止の声は意外なところから出てきました。
「リリィ様、少しお待ちください」
わたしの横に控えていたラーフルが、静かな面持ちで言ってきました。
「ご立腹なのは我々とて同じ想いですが、しかしあの男には真相を確かめる必要があります。真相が明らかになるまで、短慮は控えて頂けないでしょうか」
「短慮も何も、あの間男は絶対やらかしたに決まっています! 即刻打ち首決定です!!」
「打ち首!?」
間男が悲鳴を上げていますが、そんな事どうでもいいわたしは話を進めます。
「そもそも、お姉様を連れ回しただけでも万死に値します!」
「ですが、もし我々の懸念事項が本当だったとしたら国家の一大事です。万が一にも子供を授かっていたりすると──」
「こ、子供!?」
その単語に、わたしは悲鳴を上げました。
しかしラーフルは淡々と言ってきます。
「ええ、子供です。だとしたら、その男の処分は王女殿下の意向も賜らねばなりません」
「ぐ……た、確かにそうではありますが……」
このラーフルは、お姉様直属の親衛隊隊長ですから、わたしに指揮権はありません。それにラーフルの言う通り、万が一のことでもあれば……お姉様のご意向を賜らねばなりませんし……
なのでわたしは、断腸の思いで言いました。
「わ、分かりました……今すぐにでもこの男を八つ裂きにしたいところですが致し方ありません……真相が分かるまでこの件はラーフルに任せます」
「ありがとうございます。身命を賭して真相を明らかに致します」
「ええ……よろしくお願いしますわ」
わたしは身を焦がしそうになる怒りを押し込めて、ラーフルに一任するのでした。
ハッキリとは覚えていませんが、まだお互いが4~5歳ほどだったころ、何かの晩餐会で始めて引き合わされたのでした。
そのときのお姉様は、まるでお人形さんのように可愛くて……いえ、わたしが持っていたどんなお人形さんよりも美しかったのですから、この世に存在するありとあらゆる形容を用いても、お姉様の美しさは表現できないほどだったのです。
ですからわたしは……ハッキリと申し上げてしまえば……ぶっちゃけ、一目惚れでした……!
特に、幼少のころのお姉様の可愛らしさといったら! あ、いえ、今だってお姉様は可愛らしくも美しく、それでいて、儚げでありながらも内に秘めたる心は誰よりも力強くて……とにかくメチャクチャ好きですお姉様!
……っと、話が逸れましたわ。
だからわたしは、その可愛くて美しくて儚くて力強いそのお姿を後世に残そうと、お姉様の肖像画を何枚も何十枚も何百枚も描かせましたの!
肖像画の件は、アジノス陛下も大変に喜んでおられましたから制作はとても捗りました。陛下号令のもと、国内外から超一流の画家を招聘することも出来ました。
しかし次第に、お姉様は肖像画を描かれることを嫌がるようになってしまって。曰く「めんどい」「しんどい」「カネの無駄」とのことで……
まぁ……超一流画家を、とくに国外から招聘するのにはけっこうなお金が掛かりますから、徹底した合理主義でいらっしゃるお姉様にしてみればお金の無駄に見えたのかもしれません。それに、肖像画を描く間、お姉様はモデルとしてじっとしていなければなりませんし……
ですがお姉様の美しさを子々孫々・未来永劫広めていくには、肖像画をたくさん描くしかないのです。だから仕方が無かったのですよ、お姉様……
とはいえ肖像画の一件以外は、わたしたちはとても仲良く、それはもうまるで姉妹のように遊んでいました。ですのでわたしは、いつしか『殿下』ではなく『お姉様』と呼ぶようになって。
何しろお姉様呼びを許されているなんて、縁戚に名を連ねる中でも唯一わたしだけなのですからね!
そんな幼少期をわたしたちは過ごし──あ、そうそう。お姉様が気に入られていた遊戯は隠れんぼでした。お姉様ったらお隠れになるのがとても上手で、お姉様に隠れられるとまるで見つけられませんでした。いつも、侍女を総動員して丸一日探すというのに。それでいて、自室にいたりするのですから驚きです。
あとは城内の花園でおままごともよくやりましたわ。お姉様ったら『ちゃぶ台』なるテーブルをひっくり返すのがお好きで、わたしが草花や土で作った偽物のお料理を「こんなもの食べられますか!」と言って、ちゃぶ台をひっくり返してました。今にして思えば微笑ましいですわ。
さらには舞踏会でダンスをすることもしょっちゅうでしたわね。わたしからお誘いしても、お姉様はいつも殿方と踊られていて。お相手をちょっと絞め殺したい程度には妬ましく感じておりましたが、お姉様の美貌では致し方ないこと。さらに殿方が一巡すると、侍女とまでダンスをするのです。下々の人間を気に掛けてあげるなんて、お姉様ったらなんて慈悲深いのでしょう……!
そんな楽しい日々を過ごしていると、あるときお姉様が言いました。
「あなた、ここまでの扱いを受けて、どうしてまだわたしに付きまとうのです?」……と!
「だからわたしは答えたのです! お姉様が存在ところ、すなわちそれがわたしの居場所であると!!」
わたしとティアリースお姉様の思い出話をザッとしていると、牢屋に入っている男がゲンナリした様子で言ってきました。
「いやほんと……そこまでの扱いを受けて、今なお好意を寄せられるのは……大したものです……」
「でしょう!? お姉様に対するわたしの愛は無限なのです!!」
この男、お姉様をたぶらかした割にいいこといいますわ。
って!
なんでわたしは和んでいるんですか!
この男に、わたしとお姉様がどれほど相思相愛なのかを見せつけるために思い出話をしたというのに!
だからわたしは気合いを入れ直して言いました。
「ですからそこな間男! わたしとお姉様の間に割って入ることなど出来ないのですよ!」
すると間男は困り顔で言ってきます。
「いや……間に割って入るも何も、オレはそんなつもり毛頭ないのですが……」
「お姉様を穢しておいて今さら何を!?」
「け、穢してなんていませんよ!? まぁ……昨日はちょっと危うかったけど……」
「ちょっと危うかった!?」
「ち、違います! (元)衛士の誓いに掛けて王女殿下に手なんか出してません!」
「お姉様に魅力がなかったと侮辱する気!?」
「んなこと誰も言ってないだろ!?」
「なんて無礼な口の利き方! もういいです! お前達、この間男をやっておしまいなさい!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!?」
間男は牢屋の奥まで逃げると、手枷を填められた両手をワタワタ振っていますが無駄なあがきです! 連れてきた衛士は魔法士でもありますから、密閉した牢屋の中でこんがり焼いてもらいましょう!
しかし制止の声は意外なところから出てきました。
「リリィ様、少しお待ちください」
わたしの横に控えていたラーフルが、静かな面持ちで言ってきました。
「ご立腹なのは我々とて同じ想いですが、しかしあの男には真相を確かめる必要があります。真相が明らかになるまで、短慮は控えて頂けないでしょうか」
「短慮も何も、あの間男は絶対やらかしたに決まっています! 即刻打ち首決定です!!」
「打ち首!?」
間男が悲鳴を上げていますが、そんな事どうでもいいわたしは話を進めます。
「そもそも、お姉様を連れ回しただけでも万死に値します!」
「ですが、もし我々の懸念事項が本当だったとしたら国家の一大事です。万が一にも子供を授かっていたりすると──」
「こ、子供!?」
その単語に、わたしは悲鳴を上げました。
しかしラーフルは淡々と言ってきます。
「ええ、子供です。だとしたら、その男の処分は王女殿下の意向も賜らねばなりません」
「ぐ……た、確かにそうではありますが……」
このラーフルは、お姉様直属の親衛隊隊長ですから、わたしに指揮権はありません。それにラーフルの言う通り、万が一のことでもあれば……お姉様のご意向を賜らねばなりませんし……
なのでわたしは、断腸の思いで言いました。
「わ、分かりました……今すぐにでもこの男を八つ裂きにしたいところですが致し方ありません……真相が分かるまでこの件はラーフルに任せます」
「ありがとうございます。身命を賭して真相を明らかに致します」
「ええ……よろしくお願いしますわ」
わたしは身を焦がしそうになる怒りを押し込めて、ラーフルに一任するのでした。
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