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第4章
第4話 二度と来ないからな!?
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アルデが首を傾げていると、ティスリは、視線を彷徨わせながらも聞いてきた。
「そ、それで、その………………ユイナスさんの様子は……どうですか?」
ああ……なるほど。
ティスリがオレをこの場に引き留めていた理由に、オレはようやく気づく。
結局のところティスリは、ユイナスの心境を探りたいらしい。
とはいえここで嘘をついても仕方がないので、オレは正直に答えることにした。
「ぶっちゃけ……めっちゃ怒ってる」
「………………!?」
「お前のダル絡みが、相当にイヤだったらしい」
「………………!!」
「そもそもユイナスは酒を呑んでいないからな。シラフの人間が、酔っ払いの相手をするだけでも苦痛だってのに、あのダル絡みだろ? そりゃあ、一晩経ったくらいじゃ怒りが収まらないのは分かるし、そもそもアイツの気性からしてそう簡単には──」
「ど、どうすればいいんですか!?」
ユイナスの様子を克明に伝えていると、ティスリは再び涙目になって身を乗り出してきた。
「どうすればユイナスさんの許しを得られるのです!?」
「う~~~ん……そうだなぁ……」
「アルデ! ちゃんと考えてくださいよ! もはやこうなっては、兄であるあなただけが頼りなのですよ!?」
なんか、ティスリに頼られるって初めてな気がするが、それが妹の対応だなんて、なんともバカらしくてどぉでもよくなってくるな……
しかしティスリは至って必死で、オレの両肩を掴んで前後に揺すってくるものだから、目が回りそうになる。
「おいティスリ……! 考えるから揺するのはやめろって!」
「あなたの脳では、こうでもしないと血流が回らないでしょう!?」
「あっそ。なら考えるのやめるわ。血流回らないし」
「やめないでくださいよ! ねぇちょっと!?」
「わ、分かったから! 縋りつくなよ!?」
まだ酒でも残ってるんじゃないかと思えるほどに滑稽なティスリを引き離し──ちょっと触れた胸の感触はもうちょっと味わいたかったがそれはともかく、オレは真面目な表情を作って考えてみた。
さすがにティスリには伝えないがが、ユイナスは元々ティスリを嫌っているからなぁ……そもそも何をしたって元から手遅れな気がしなくもないが……
となるとあとは、モノで吊るしかないかな?
ユイナスは昔から、即物的なところがあったからな。オレが王都に旅立つときも「学校を卒業したら絶対わたしも王都に行くから!!」と言っていたし。
王都での生活に、よほど憧れていたと見える。
お貴族様のような生活……とまでは言わないが、平民なりのオシャレでハイソな生活を夢見ているのかもしれない。
となると、それを叶えるためにどうすればいいのかと言えば……身も蓋もなくいってしまえばカネなんだが。
粗相の詫びにカネを払うってのも、さすがになぁ……
だからオレは物品を考えることにした。
「そうだなぁ……何か詫びの品でもあれば、あるいは。ユイナスは、オシャレでハイソな生活を夢見ている節があるから、例えば──」
「なるほど分かりました!」
オレがまだ言い切っていないのに、ティスリは拳を握ってふんすと息巻いた。
「であれば、わたしの屋敷を進呈しましょう! 王都にある! とーぜん執事と侍女付きで、もちろんそれら維持費諸経費は気にする必要ありません!」
「………………はいぃ?」
「もし王都にご不満があるようでしたら、風光明媚な各地の都市にも別荘がありますので、そのどれでも構いません! いっそすべてを差し上げてもいいですよ!?」
「ちょ、ちょっと……」
「あ! ユイナスさんは魔動車に興味がありそうでしたから、魔動車も付けます! もちろん新車を、何台でも構いません! もういっそ、その独占販売権も付けましょうか!?」
「ちょっと待て待て!? おまいはいったい何を言ってるんだ!?」
「何をって……お詫びの品が必要なのでしょう?」
きょとんとした顔つきで首を傾げるティスリに、オレは本気で呆れながら言った。
「どこの世界に、悪酔いしただけで家屋敷や車を渡すヤツがいるんだよ!? いわんや販売権ってなんだ!?」
「ここにいますが? ちなみに販売権というのは──」
「説明はいい! オレたちの世界にそんな人間はいないっつーの!」
「ですが……わたしが掛けた迷惑を考えれば、それでも足りないくらいではないかと……」
「足りすぎて釣りが払えんわ!!」
「でも……」
「ユイナスにそんな大金掴ませたら、何をしでかすか分からないし、そもそも自堕落極まりない人間になるからやめてくれ!」
王都に屋敷とか、風光明媚な都市に別荘とか、いわんや魔動車の販売権とか手にしたら、アイツは絶対に働かなくなる!
そもそも今だってこじれた性格だというのに、いちど贅沢を覚えたら、一体どうなってしまうのか……もはや想像するにも恐ろしい!
オレがゾッとしていると、ティスリが不満げに聞いてきた。
「ならアルデは、どんな品物ならいいというのですか?」
「そうだなぁ……オレも詳しくはしらんが、ちょっとオシャレな文房具とか鞄とか? あと……値は張るかもしれないが服もいいかもだけど……でもそこまで高価なものを贈ってもなぁ……」
オレが悩みつつも例を言うと、ティスリは唖然としていた。
「いや、そんな粗末なものでは、むしろ怒らせるでしょう?」
「お前にとっては粗末でも、オレたちにとっては高級品なの」
「そうでしょうか……」
「そうなんだよ。いいかティスリ? 身の丈に合わないものを渡されても、当人の為にならないんだぞ?」
「それはそうかもしれませんが……しかし……」
その後もオレたちは、ああだこうだとアイディアを出し合っていたのだが、けっきょく、オレの案にティスリは納得しなかった。
だからオレは、半ば呆れてティスリに言った。
「ああもう、分かった分かった。なら詫びの品はユイナスに直接聞いてみるってことでいいな? あとその場にはオレも立ち会うからな?」
ユイナスに詫びるとき、ティスリが別荘とか販売権とかのいらん例を挙げて、ユイナスがそれに食いつく恐れは大いにあったので、オレは念を押す。
するとティスリは、渋々ながらも頷いた。
「分かりました。ではお詫びの品はユイナスさんに確認するということで……それでその……お詫びのタイミングですが……」
「そりゃなるべく早くのほうがいいだろ?」
「で、ですよね……では今からわたしは身なりを整えるので──」
そういって立ち上がろうとしたティスリだったが、あっさりとよろめいて倒れそうになる。だからオレは咄嗟にティスリを受け止めた。
「おい、大丈夫か?」
「うう……まだ酒精が残っているようで……」
「なら詫びは、お前が完全に回復してからでいいよ」
「ですが……少しでも早い方が……」
「調子悪いのに詫びようとしても、誠意が伝わらないかもしれないだろ。お前が謝りたがっていることは、オレからそれとなく伝えておくから」
「そうですね……ではそのようにお願いします」
ティスリはなんとか納得したので、オレはティスリをベッドに寝かせた。
「じゃ、オレはユイナスに話を付けてくるわ」
退室しようと扉に手を掛けるオレに、ティスリが声を掛けてきた。
「あの……アルデ……」
振り返ってティスリが横たわるベッドを見ると、ティスリは、また布団で顔半分を隠してオレを見ていた。
「なんだよティスリ。まだ何か用があるのか?」
「ユイナスさんに話をしたら……」
「話をしたら?」
「戻ってきてください」
「戻ってこいって、この部屋にか?」
ティスリの意図がいまいち分からずオレが聞き返すと、ティスリはコクンと頷いた。
しかしそれ以上の説明をしようとしないので、オレは疑問符しか浮かばない。
「戻れって……いったいなんで?」
そもそも、ティスリと同じ部屋にずっといたら、ユイナスの機嫌を損ねる気がするんだよなぁ……だから、この部屋に長居しないほうがいいと思うんだが……
そんなことを考えていたら、ティスリがぽつりとつぶやいた。
「一人でいると……後悔で押し潰されそうになるんです……でも……」
「ああ……なるほど」
弱々しいティスリの視線に、オレは思わずドキリとする。
だから思わず視線を逸らし……頬を掻きながらも答えた。
「ま、まぁ……そういうことなら仕方が──」
「でも、あなたのアホ面を見ているとホッとするんです。だから──」
「二度と来ないからな!?」
「ああ!? ちょっとアルデ──」
ティスリの悲鳴に近い声を黙殺し、オレは部屋を出てバタンッ!と扉を閉める。
だが結局のところ──
──ユイナスに話を付けてから、オレはティスリの部屋に戻らざるを得ないわけだが。
オレが風邪を引いたとき、看病してくれたしな、あいつは。
これで貸し借りなしということにしておこう、うん。
ってか……オレが風邪を引いたのも、ティスリが二日酔いで苦しんでいるのも、みんなアイツのせいなんだがなぁ……?
「そ、それで、その………………ユイナスさんの様子は……どうですか?」
ああ……なるほど。
ティスリがオレをこの場に引き留めていた理由に、オレはようやく気づく。
結局のところティスリは、ユイナスの心境を探りたいらしい。
とはいえここで嘘をついても仕方がないので、オレは正直に答えることにした。
「ぶっちゃけ……めっちゃ怒ってる」
「………………!?」
「お前のダル絡みが、相当にイヤだったらしい」
「………………!!」
「そもそもユイナスは酒を呑んでいないからな。シラフの人間が、酔っ払いの相手をするだけでも苦痛だってのに、あのダル絡みだろ? そりゃあ、一晩経ったくらいじゃ怒りが収まらないのは分かるし、そもそもアイツの気性からしてそう簡単には──」
「ど、どうすればいいんですか!?」
ユイナスの様子を克明に伝えていると、ティスリは再び涙目になって身を乗り出してきた。
「どうすればユイナスさんの許しを得られるのです!?」
「う~~~ん……そうだなぁ……」
「アルデ! ちゃんと考えてくださいよ! もはやこうなっては、兄であるあなただけが頼りなのですよ!?」
なんか、ティスリに頼られるって初めてな気がするが、それが妹の対応だなんて、なんともバカらしくてどぉでもよくなってくるな……
しかしティスリは至って必死で、オレの両肩を掴んで前後に揺すってくるものだから、目が回りそうになる。
「おいティスリ……! 考えるから揺するのはやめろって!」
「あなたの脳では、こうでもしないと血流が回らないでしょう!?」
「あっそ。なら考えるのやめるわ。血流回らないし」
「やめないでくださいよ! ねぇちょっと!?」
「わ、分かったから! 縋りつくなよ!?」
まだ酒でも残ってるんじゃないかと思えるほどに滑稽なティスリを引き離し──ちょっと触れた胸の感触はもうちょっと味わいたかったがそれはともかく、オレは真面目な表情を作って考えてみた。
さすがにティスリには伝えないがが、ユイナスは元々ティスリを嫌っているからなぁ……そもそも何をしたって元から手遅れな気がしなくもないが……
となるとあとは、モノで吊るしかないかな?
ユイナスは昔から、即物的なところがあったからな。オレが王都に旅立つときも「学校を卒業したら絶対わたしも王都に行くから!!」と言っていたし。
王都での生活に、よほど憧れていたと見える。
お貴族様のような生活……とまでは言わないが、平民なりのオシャレでハイソな生活を夢見ているのかもしれない。
となると、それを叶えるためにどうすればいいのかと言えば……身も蓋もなくいってしまえばカネなんだが。
粗相の詫びにカネを払うってのも、さすがになぁ……
だからオレは物品を考えることにした。
「そうだなぁ……何か詫びの品でもあれば、あるいは。ユイナスは、オシャレでハイソな生活を夢見ている節があるから、例えば──」
「なるほど分かりました!」
オレがまだ言い切っていないのに、ティスリは拳を握ってふんすと息巻いた。
「であれば、わたしの屋敷を進呈しましょう! 王都にある! とーぜん執事と侍女付きで、もちろんそれら維持費諸経費は気にする必要ありません!」
「………………はいぃ?」
「もし王都にご不満があるようでしたら、風光明媚な各地の都市にも別荘がありますので、そのどれでも構いません! いっそすべてを差し上げてもいいですよ!?」
「ちょ、ちょっと……」
「あ! ユイナスさんは魔動車に興味がありそうでしたから、魔動車も付けます! もちろん新車を、何台でも構いません! もういっそ、その独占販売権も付けましょうか!?」
「ちょっと待て待て!? おまいはいったい何を言ってるんだ!?」
「何をって……お詫びの品が必要なのでしょう?」
きょとんとした顔つきで首を傾げるティスリに、オレは本気で呆れながら言った。
「どこの世界に、悪酔いしただけで家屋敷や車を渡すヤツがいるんだよ!? いわんや販売権ってなんだ!?」
「ここにいますが? ちなみに販売権というのは──」
「説明はいい! オレたちの世界にそんな人間はいないっつーの!」
「ですが……わたしが掛けた迷惑を考えれば、それでも足りないくらいではないかと……」
「足りすぎて釣りが払えんわ!!」
「でも……」
「ユイナスにそんな大金掴ませたら、何をしでかすか分からないし、そもそも自堕落極まりない人間になるからやめてくれ!」
王都に屋敷とか、風光明媚な都市に別荘とか、いわんや魔動車の販売権とか手にしたら、アイツは絶対に働かなくなる!
そもそも今だってこじれた性格だというのに、いちど贅沢を覚えたら、一体どうなってしまうのか……もはや想像するにも恐ろしい!
オレがゾッとしていると、ティスリが不満げに聞いてきた。
「ならアルデは、どんな品物ならいいというのですか?」
「そうだなぁ……オレも詳しくはしらんが、ちょっとオシャレな文房具とか鞄とか? あと……値は張るかもしれないが服もいいかもだけど……でもそこまで高価なものを贈ってもなぁ……」
オレが悩みつつも例を言うと、ティスリは唖然としていた。
「いや、そんな粗末なものでは、むしろ怒らせるでしょう?」
「お前にとっては粗末でも、オレたちにとっては高級品なの」
「そうでしょうか……」
「そうなんだよ。いいかティスリ? 身の丈に合わないものを渡されても、当人の為にならないんだぞ?」
「それはそうかもしれませんが……しかし……」
その後もオレたちは、ああだこうだとアイディアを出し合っていたのだが、けっきょく、オレの案にティスリは納得しなかった。
だからオレは、半ば呆れてティスリに言った。
「ああもう、分かった分かった。なら詫びの品はユイナスに直接聞いてみるってことでいいな? あとその場にはオレも立ち会うからな?」
ユイナスに詫びるとき、ティスリが別荘とか販売権とかのいらん例を挙げて、ユイナスがそれに食いつく恐れは大いにあったので、オレは念を押す。
するとティスリは、渋々ながらも頷いた。
「分かりました。ではお詫びの品はユイナスさんに確認するということで……それでその……お詫びのタイミングですが……」
「そりゃなるべく早くのほうがいいだろ?」
「で、ですよね……では今からわたしは身なりを整えるので──」
そういって立ち上がろうとしたティスリだったが、あっさりとよろめいて倒れそうになる。だからオレは咄嗟にティスリを受け止めた。
「おい、大丈夫か?」
「うう……まだ酒精が残っているようで……」
「なら詫びは、お前が完全に回復してからでいいよ」
「ですが……少しでも早い方が……」
「調子悪いのに詫びようとしても、誠意が伝わらないかもしれないだろ。お前が謝りたがっていることは、オレからそれとなく伝えておくから」
「そうですね……ではそのようにお願いします」
ティスリはなんとか納得したので、オレはティスリをベッドに寝かせた。
「じゃ、オレはユイナスに話を付けてくるわ」
退室しようと扉に手を掛けるオレに、ティスリが声を掛けてきた。
「あの……アルデ……」
振り返ってティスリが横たわるベッドを見ると、ティスリは、また布団で顔半分を隠してオレを見ていた。
「なんだよティスリ。まだ何か用があるのか?」
「ユイナスさんに話をしたら……」
「話をしたら?」
「戻ってきてください」
「戻ってこいって、この部屋にか?」
ティスリの意図がいまいち分からずオレが聞き返すと、ティスリはコクンと頷いた。
しかしそれ以上の説明をしようとしないので、オレは疑問符しか浮かばない。
「戻れって……いったいなんで?」
そもそも、ティスリと同じ部屋にずっといたら、ユイナスの機嫌を損ねる気がするんだよなぁ……だから、この部屋に長居しないほうがいいと思うんだが……
そんなことを考えていたら、ティスリがぽつりとつぶやいた。
「一人でいると……後悔で押し潰されそうになるんです……でも……」
「ああ……なるほど」
弱々しいティスリの視線に、オレは思わずドキリとする。
だから思わず視線を逸らし……頬を掻きながらも答えた。
「ま、まぁ……そういうことなら仕方が──」
「でも、あなたのアホ面を見ているとホッとするんです。だから──」
「二度と来ないからな!?」
「ああ!? ちょっとアルデ──」
ティスリの悲鳴に近い声を黙殺し、オレは部屋を出てバタンッ!と扉を閉める。
だが結局のところ──
──ユイナスに話を付けてから、オレはティスリの部屋に戻らざるを得ないわけだが。
オレが風邪を引いたとき、看病してくれたしな、あいつは。
これで貸し借りなしということにしておこう、うん。
ってか……オレが風邪を引いたのも、ティスリが二日酔いで苦しんでいるのも、みんなアイツのせいなんだがなぁ……?
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