婚姻適齢限界(過ぎたら無理矢理って…嫌に決まってる)

アキノナツ

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2》文箱の香り見合い

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 組み紐を解いて開けて、サッと目を通して戻し、次に手を伸ばす。

 何度もしてると、この遠回りな仕来りの裏を考えてしまう。
 多分だが一般的な見合いで顔合わせをすれば事故が起きて『つがい』にでもなれば、嫁ぎ先として相応しくなくても婚姻が進められてしまうだろう。
 華族や士族にとってはこの構造を長く続ける上でも、家の格や繋がりは重要だと思う。

 如何にいい血を残し繋げて行くか…。

 そんなこんなを思いながら、だが真剣に、文箱を次々と開けて行く。

 一応香り的にはコレって思う候補はちょっと位置を変えて置いてある。文はイマイチです。
 今、両親が目を通している。私はほとんど読んでないけど、両親も途中で畳んでるから私と同じ感想だと思われる。

 本当に好みの香りに出会えるのだろうか。そもそも私の香りは相手に好ましいのだろうか。血が近しいと香りの本質的なものが似ると言われてる。実際そうだ。
 兄たちの香りは仄かに甘い香りを基本にそれぞれに違う。父は甘い感じではないから、母の桜餅ような香りを受け継いだのだろう。父の薬草のような香りも感じるから両方ですね。

 自分自身の香りを感じる事が出来ないからなんとももどかしい。自身の香りを感じる事はほぼ無いらしいので気にはしてないが、この儀式って一方通行のような気もしてしまう。元々対等ではないのだから仕方がないか。

 何も自分では選べないΩへのせめてもの施しだろうか。
 封建社会が憎たらしいが、私もその一員なのだから仕方がないのだろうな。

 自分の香りに近い匂いの物を兄たちに教えては貰ったが、私のイメージとはかけ離れてる気がする。家族は皆『私らしい』と言う。家族の誰よりも甘ったるい。確かに容姿には合ってるとは思うけどね。

 ん?

 いい香り…。

 丁度一服したい気分だったからだろうか。コーヒーの深い香りが鼻腔をくすぐり抜けていった。

 兄たちが両親に何か合図を送ってる。いつもなら気になるそんな雑音も気にならない。指を文に伸ばす。文箱の底に私の手にしっくりくる紙質の文。広げればさっきの香りが漂う。心が解放されるように綻ぶ。穏やかな気持ちで文字を追う。

 文字から緊張を感じる。
 字は堅いがきっちりとした誠実な人柄を表す様な雰囲気。
 文面は必要な事柄を簡潔的に書かれていた。

 事務的にならない様に気を配っている様だが、書かなければならない事を過不足なく書くとこうなるのだろう。

 読み易くて好感度は『優』です。秘書に雇いたくなる。あっ、伴侶選びでしたね。あはは、うっかり、うっかり。

「この方に会ってみたいです」
 文を畳みながら初めて声を出した。残りは…取り敢えず開けて見はするが…この人に会ってみたいと、この文箱儀式で初めて思った。

「文通は?」
 母が身を乗り出して抗議してきた。

「えーっ、お母さまも『文通ふみがよい』してないでしょう」
 眉が寄ってしまった。
「ほぼ恋愛結婚の二人に言われたくないですよ」
 横合いから伸びてきた手が額に。私の眉間をおお兄さまが指でクニクニと揉んでくる。鬱陶しいので、手を払って自分で撫でる。

 眉間にシワでも刻まれたら商品価値を下げるわな。これから顔合わせだから舐められる訳にいかない。けど、この文の主にそういうのは感じない…たぶん。漂う残り香をそっと吸い込む。

 両親は、貿易商の取引先の会合で知り合ったのだ。正確には父が見初めた。
 母は士族の令嬢だった。華族と知り合う事など無かったのに会合の会場になった邸宅の取り仕切りを母がしてたらしいのだ。会食もあったので台所などで采配してたのだろう。その姿が凛々しかったと…父が惚気ていた。

 しかし、その姿を見たのが裏方というか邸宅の奥ってのが問題だと思う。

 上位αのなのに時々方向音痴になる父。その行き着いた先でいい情報を掴んでくるから、ただの方向音痴ではない気がしないでもない。

 それで唐突に文箱を送る父もどうかと思う。舞い上がってたと言ってたが、勢いも必要だととも言える。策略だ。無意識か?
 実際、上流の士族とは言え、華族の侯爵からの文箱。青天の霹靂でまともな判断が出来なかっただろう。

 受け取った家の混乱が目に見えるようだ。そして受け取った母は、即座に承諾の返事をしたためたらしい。肝が据わってる。

 士族でも名もある家だったようだが、華族からの実質の求婚だ。身分違いだよね。母はメロメロになったというから余程相性が良かったのだろう。 お会いしたくてね、と母が頬を染めて言う姿は乙女です。

 母方の親戚は、商家のような家柄だと言って今でも我が家とは距離をとっている。程々の付き合い。身分制度がそうさせてるのだが、分をわきまえてると言われている。いい仕事仲間として付き合ってるが良好な関係だ。

 繰り返し聞かされる二人の話。
 顔を合わせてすぐに婚約となってトントン拍子。Ωの人で良かったですねと言いたいが、ちい兄さま曰く、父は母の香りに誘われたのだとか。

 この時の文の内容は秘密らしいが、子ども前で二人の世界を作ってぽわぽわとしている。俗に言うイチャイチャという状態だろうと思う。いつまでも仲良しさんだ。

 香りに誘われるというのがどういう事か分からなかったが、初めてこの『香り』に強く惹かれた事で納得してしまった。もしかしたら、小兄さまは番を見つけているのかもしれない。

 αの世界はΩには分からない。

 ΩはΩにしか分からない事もあるが、人それぞれ違う事もあるだろう。私は母ではない。母も私ではない。

「そうね。それで、会ってみたいって方は?」

 手が差し出されてる。その手に文を乗せ、空の文箱を滑らすように父に押し遣った。

 文箱の家紋を目にして和かな顔が、一瞬曇った。文箱は事前に選別はされてたと思うのだが、意にそぐわない物が混ざっていたのだろうか。

 私が男性Ωという存在だから婚姻を急いだ弊害だろうか…。両親も出来れば嫁に出したくないと奔走してくれてたのは知っている。

 適齢期とされる年齢を過ぎれば、高爵位の誰かに嫁がされる慣例らしい。今の時代に沿わない気もしなくはないが、あり得ない事に誰とも婚約してないΩだ。しかも男のとなれば、希少価値とでもいうのだろう。このまま独り身を続ければ、慣例に従わなければならなくなる。

 男色家でもなければ私を娶る気も起きないと思うが…。必ずαを産む存在と言われる者を手に入れられるなら、目を瞑ればいい話かも知れない。下世話に言えば、穴に突っ込んで孕ませればいいだけだ。我が家の爵位では、上から命じられたら断れない。

 私としては、適当な事案で裁判でも起こして時間稼ぎしてる間に他国に飛んでやってもいいかともと思ってる。とは言え、ヒートもあるから環境の整ったここから離れたくはない…。困ったね。

 私だって番いになるなら気の合う人とがいいに決まってる。

 父の表情が固い。何か問題があるのだろうか…。
 母から文を渡されて目を通してる。

「………分かった」

 文を畳みながら重い返事が返ってきた。






==================


さて、お見合いですよ~。
短編にしようとして、なんとなく時代物を書いてみたくなって、やってみるかと書き出したら案の定長くなりました。
とは言え、長編にはなりませんが(^◇^;)たぶん。。。


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