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3》お見合い
しおりを挟む間に合わなかったのか…。
父の様子に不安になって小兄さまに尋ねたところ、次期当主が長男から次男になっていたらしい。儀式の直前に仕入れた情報のようで選別には間に合わなかったようだ。実に間が悪い。
あの家紋は頭に入ってる。付き合いとしては良好とは言えないが、悪くはなかったはず。だから文箱が並んでたのだろう。
家業の繋がりもあるので知らない訳ではなかったが、…次男の顔が思い出せない。マズったな。次期当主だと思ってた方は、温厚な感じの方だと記憶していた。
あの父の顔色からあまりいい感じではないかも。
αとΩの文箱は香りの見合いなので、事前に中を改める事は出来ない。文にしっかり香りが移ってるはずだが、先方も封入の際は傍にいる者も触れる事になっている。
次期当主の名前は…ぼんやりとしか覚えてないな。総宮 勝彦って書いてあったが…。
空では苗字と肩書きで事足りてたから下の名前は、名鑑を見ないと思い出せない。アレは弟の名前だったのか。思い出せないという事は、大した事がないって事だな、と判断して、その時は確認をしなかった。
香りに気を良くしてたからか、気楽に考えていた。会ってから考えるかと思っていた。私とした事が怠った。
香りは好みだったし、大丈夫ではないだろうか……と、考えていた自分を打ちのめしたい。
すぐに父に「やめる」と言えばここに座る事もなかった。顔合わせの見合いなんて初めてで、仕事以外で人と会う事に、どちらかと言うと浮ついた気分だった事は否めない。
好みの香りのお相手だから、会って話が出来たら伴侶としても友人としてもいい関係が築けるのではと期待してた面があった。『友人』という関係に飢えていたのかもしれない…。
ため息が出そう。顔には出してないが、もう帰りたい。無表情でも柔和になってる顔に感謝。
嗚呼、ウンザリ…。
目の前の男が次期当主だとしたら、この家門は駄目かも…。相性が良くても沈みゆく船に乗りたくはない。しかも、香りが…微妙なんですが…???
仕立てのいいスーツでキッチリとしてはいるが滲み出してくるものが、肌を撫でてきて気持ち悪い。顔立ちも良く品良く見えるのに勿体ない。なぜこの男に変更になったのだろうか…。ちゃんと調べれば良かった。前次期当主の事故って…。
帰りたい…。でも…。
後ろに控えてる男が肝だろうか。あっちの方が仕事とか出来そうな気がする。
側仕えか…。もしかしたら、前の時期当主から仕えていてそのまま異動になったのだろうか。お目付け役でもあるのかな。年齢もあちらの方が兄に近い感じだ。
影のように気配を消してるが、私はこっちの方が気になる。
大柄で全体に四角い印象。伏せ目がちにしてるが、入ってくる時、目が合っちゃったのだよ。大きい人だから見下ろされてる位置関係。つい、見上げちゃった。
睨みだけで殺しそな目つきだった。ゾクっとしたね。気持ちいいゾクっと感。いつか読んだ怪奇小説を思い出す震えだった。
大きな身体なのに存在を消してる。主従関係か。いい従者だな。同じαだが格の違いか。惜しいな。
私が上位Ωだと知っているはずなのに、見合い相手の男の目は値踏みするように私を見ている。意味が分かってないのか…。嫌な目だ。
私を尊重する気はないようだ。男性だからか…否、この感じだと女性でもΩに対してもこうなのだろう。この男がというより総宮家が前時代的考えなのだろう…やっぱり無いな…。
この男と床を共にするなんて考えるだけでも吐きそうだ。隣りに座るのも触れられるなんて耐えられそうにない。香りは良いとしても嫌だな…。
それにしても違和感だらけだ。あの文面と目の前の男と齟齬を感じる。気の所為と言われてしまえばそれまでだが…。
香りは同じ(?)のがしてるが…微妙に合わない。帰って貰いたいが、同じ侯爵だがウチがちょっと下に見られてるので帰れとは言えない。
αとしてもこっちが上なのに父は意に介してないから是正もしてないからな…。上位αの余裕だろうか。経済的にもウチの方が上な気もするが、向こうは、外側から見れば羽振り良く見えてるからな…。
困ったなぁ。自慢話を右から左に流しながら、そっと後ろの男を観察していた。
こっち見ないかなぁと思っていた。あのゾクゾクを再び味わいたい。アレは癖になる感覚だった。
父は適当なところで帰った。相手の両親も来ていないし、当人の顔合わせの見合いだから居ない事もあるかもだが…。そんな状態なので適当なところで席を外したのだ。
母は挨拶の時に顔を見せたが無視されたので、適当に言い繕ってさっさと奥に引っ込んでしまった。今は、大兄さまが横にいてくれてる。
襖の向こうには、小兄さまが隣室で控えてくれてる。問題は起きないと思うが、αの男が二人だ。腕力ではどうにも敵わない。
後ろの男は、襖の向こうを気にしてる気配がする。小兄さまは気配を消してるはずだ。兄の消え方は普通気づかれないのだが…。
現に目の前の男は気づいてない。私をいやらしい目で見てくるのに忙しいようですね。男だが外見は綺麗だから女装でもさせれば良いかぐらいに考えてそうな顔だ。嫌気がさしてくる。
「顔合わせはこれで終わるか。疲れただろう」
話が途切れたところで、兄が口を開いた。私を気遣うように促してくる。意図を汲む。
ここでは一番の年長だ。仕切って当然だろう。
「はい。…申し訳ありませんが、今日はこれで下がらせていただきたいです…」
『深窓の令息』発動です。別に病弱でもないんですが、とっとと帰りたい。母はたぶんカフェでゆっくりしてるはずだから合流したいよぉ~。
色白で伏せ目がちにしていれば、いいように取ってくれるだろう。
案の定、「ああ、そうですね」と返って来た。
チラッと後ろの男を盗み見る。
ゾクッ!
目が合った。丁度顔を上げたところだったようだ。あちらは予期してなかったようだ。黒い瞳。真っ直ぐな目力だった。
身体の奥が燃え上がる様に熱が上がった。背中を全身を震わせる。ゾクゾクが続いて気が遠くなりそうだ。
今すぐに駆け寄って間近でその目を見詰めたい。もっとこの感覚を味わいたい。
動悸が激しくなって頭がふわふわしてくる。その眼光最高ッ!
「熱?」
変な息遣いになっていた様だ。肩に手が添えられて支えられていた。額に兄の手が当てられてる。
「私たちはこれで…」
私の様子に見合い相手が慌てて退席しようとしている。お前のα圧にやられた訳ではないが勘違いさせてしまった様だが、シメシメだ。早よ帰れ。
でも、急にこの発汗はなんだ?
兄の手で彼の視線が遮られてしまったが、また見たくなった。怖いもの見たさというヤツだろうか。あの怪奇小説も途中でやめる事ができなかった。
兄の手を避けたくて、腕を掴んだところで、あの香りが鼻腔をくすぐった。
目の前にきっちり畳まれたハンカチが差し出されていた。
近くに見合い相手と従者がいる。退出途中の様だが、側仕えの男が差し出していた。
「お使い下さい」
心地いい低音の声が降って来た。
変な動悸で震える手で受け取った。
礼の言葉が出て来ない。汗が吹き出してきて滝のように流れてくる。息も苦しい。
汗を拭うのに使って欲しいという事だろう。頭を下げて礼を示して、口元に当てたところで記憶を失った。
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さてさて、出会いましたが~(⌒-⌒; )
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