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7》蜂蜜は心の色
しおりを挟む見合いが不成立となった話はすぐに広まったようで、また文箱が送られてくるようになった。今回は私が改める事もなく返してるようだ。
全く開けてないのは失礼かと母が気を利かせて開けてたようだが、その内開けるのも面倒になったのか、そのまま返してるようだ。
私の見合いの期限も近づいてるからだろう。
見合いの申し込みだけだったら下位の貴族にもチャンスがあるからと駄目元で送ってるような節があるようだ。
ここまで見合いにまで発展しないとなると、高位貴族への強制婚姻への道が確定ではないかとの噂も流れているようだ。どこかの妾となるだろうとも。自分の事なのに他人事な気分。
今の私はそんな噂もなんのそのです。
私はそわそわしている。返事が来たのだ。
何度も読み返して封筒にしまう事もなくなってる始末。机の上で広げたまま。封筒はお手製で私が送った洋風に合わせてくれていた。長い横封筒。
紙は前回の文箱の時と同じ物だった。手元にあった一番良質な紙を使ったのだと思う。筆で書かれた手紙。
封筒の裏書は住所なしで『静』としか書かれてなかったがすぐに分かった。
表書きは縦封筒のような形式で不思議な物になってたがそんな事も気にしない。お返事を送ってくれた事が嬉しい。それに秘密のお手紙みたいで更に嬉しい。遊び心もお持ちの様です。ん~、ただ合わせてくれたとか? 別にいいや。嬉しいんだもの。
郵便を受け取ると自室で丁寧に開封して読んだ。
急いで書いてくれたんだろうか、あの時のような固さはない字が、少し乱れて綴られていたが気にならない。短い文章で受け取りに行く事と日時が書かれていた。お休みの日なのか、私は会えるだけで嬉しいのでなんだって構わない。
文箱の文と同じ香りに顔が綻ぶ。
私は静司さんと番になりたい。どこの誰とも知らない方ではなく。名前と容姿しか知らない人だけど、この人以外考えられない。
でも、番になるのはどうしたらいいんだろう…。
ゴロンと腕を枕に寝転がり天井を眺める。
浮ついた気持ちが少し落ち着いてきた。
落ち着いてくると現実に目が向いてきたきた。いつもの自分の状態に近づいてきた気分。
香りが気持ちを掻き乱すなんて無いと思ってた。
今のこの状態は、…恋愛小説の乙女のような気持ちというヤツだ。多分ソレだ。目にする物が今までと違って見えるとはよく言ったものだ。見え方感じ方が、全てが異なってきたと感じていた。
あの時から、あの香りに直に当てられて気を失ってしまったあの瞬間から、自分が変わって行ってる。
自分がΩなのだと認識し始めていた。今更だ。
もし、彼と一緒になれなければ、誰かと結婚もしくは妾になって子を産むのか…。この平らだとばかり思っていた腹が膨れて、子が宿る…。
Ωはいつまで経っても子を成す道具としての位置付けだ。良き血を残す。
私は恵まれていたのだな。これまでの人生の思い出で、これからの人生…余生を道具として生きていける…と思いたい。
来年の今頃は、此処には居ないと思う。
年が明けて1年が私に残された時間。1年丸々が猶予としてもらえる訳ではないようだ。来年には決めてしまわないと…。
私が心に決めたとて静司さんが私を好いてくれないとこの縁はなくなる。
彼は分家の方だから、高爵位の家門としては強要する事も出来るかもだが、私はしたくない。私の我儘だと分かってる。分かってるけど…。
ゴロンと腕枕のまま横向きになって吐き出し窓から見える庭の緑と空をぼんやり見ていた。桟で切り取られた風景がじんわり目に染みる。目に映る全てが歪んでいった。
肘を寄せて腕で顔を挟む。膝を寄せて小さく丸まる。声を殺して耐える。どうせ殺す心なら今は心をときめかせてもいいよね…。
今日来る。来る。来る。
玄関に続く廊下をウロウロしてる。玄関を見たところでそこに静司さんが居てくれる訳でもなく…。まだ来ない。革バンドの腕時計を見ても針は全然進んでない。止まってる訳ではないのは、秒針の動きで分かってはいるんだけど…。
時間が進むのが遅い。
「五鈴、部屋に…居ても落ち着かんか…。一緒に応接室で待つか?」
大兄さまが手を差し出してる。手を取れば良いと分かってはいるのだが、此処を離れたくない。
「五鈴、落ち着け。香りが濃く漂ってるんだよ。こっちに来なさい」
困った顔で私の腕を掴んで引き摺るようにその場から引き剥がされた。
応接間は和洋折衷。畳の上に控えめな色合いだけど複雑な模様の絨毯が敷かれてその上にソファが設置されている。その中央には陶器製の灰皿が置かれた座卓のような洋風の背の低い小ぶりの机が置かれている。私は滅多に入らない場所だ。
私が関わる商談などは父の書斎や床の間が多いから…。
父や兄たちはここを使ったりしてる。
3人掛けのソファに私を抱えるように抱っこ座りで兄の脚の間に座らせられてる。めっちゃぎゅうぎゅうに抱きしめられて耳元で「落ち着け」「深呼吸」と言われて頭を撫でられた。
αやΩの香りは感情の起伏で変化する。自分の香りは分からないからよく分からないが余程強く香ってるのだろう。
αはバース性が確定して早い段階で香りの起伏がなくなるらしいが、Ωは香りにムラが出るらしい。成熟すると香りは芳しくなるらしいが私はさっぱり分かりません。
ただ、私の香りは特に変わってるらしいと教えて貰った。だから、特に気をつけないといけない。
私の手の上に置かれた小瓶を思い出す。蜂蜜の小瓶だった。
『百花蜜』
それが私の香りと似ているらしい。しかも感情の起伏で蜜の香りが変化するらしいのだとか。
蜂蜜は集まる蜜によって味も香りも変わるのだとか。私の香りは可憐にも苦みにも変わる。花の香りが変わるかのように…。
「今の私の香りはどうなのですか?」
じっと撫でなれながらポツリと尋ねてみた。
「そうだな…甘いが棘があるような感じだな。そうだな…薔薇の香りとでも言えば良いかな。栗の味のようなほっこりした感じもあるなぁ…」
和菓子好きの大兄さまらしい。栗羊羹は私も好きだ。薔薇か…あれが強く匂ってるなら臭いのではないだろうか…。静司さんに嫌われたくないな…。『落ち着け、落ち着け…』と心の中で呟く。
「むせ返る香りでは彼も辛いだろう…がんばれぇ」
笑いを含むような声音にちょっとムッとしてしまったが、力が入ってしまってた肩の力が抜けた。
「そうそう、その調子。番えれば、相手にしか強く感じなくなるから、他のαを惑わせる事もなくなる。上位バースの性質だと自分で抑制は出来るから普段の生活では問題ないかったのに。不便は感じなかっただろうけど、最近のお前は不安定だな…」
優しい手つきで頭を撫でられて蕩ける気分。包まれるように抱っこしてくれてる兄に体重の全てを預ける。
このままでは迷惑をかけたり問題を起こしたりするかもなのだろうか。平常心でいないと…。
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次回、顔合わせッ( ̄∇ ̄)
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