15 / 26
15 》最後の文箱
しおりを挟む床の間に呼ばれた。
入れば父が居るのは分かる。呼んだ人だから。伝えに来たおタキさんがなんとなくウキウキしてたのは気になるところではあるが…。
母も…まぁ、分かる。兄たちも居ます。
家族会議?
深い色合いの紫檀の机の上にあるのは…。
「座りなさい」
入り口でぼんやりしてしまった。
父が声をかけてくれて、意識を戻せた。目が釘付けになって…気が遠くなってた。
死刑宣告のようなその時が来た気分だ。
兄たちの間に私の席がある。
勧められるままに座った。
鎮座している漆塗りの文箱に房付き組み紐が結えてある。
私はどこへ行くんだろうか…。
結局静さんからのお手紙は来なかった。来るまでこの家に居れるだろうか…。兄に止められたが、お別れのお手紙を書こうかな…。迷惑だろうか。お話したかった。
父が何か話そうとしてるが、「拝見します」と遮って文箱に手を伸ばした。
「そうでは…」
父が口ごもってる。何を今更…。ここまで頑張ってくれた事に感謝はしてる。潔くさせて欲しい。
文箱を手に取って家紋を確認する。
………?
えーと、公爵にこの家紋は…記憶にありません。んー、侯爵…に、似たのは有ったと記憶してますが、微妙に違うんですが…。ニセモノって言われるかも?
あっ、分家は本家の家紋に……もしかしてッ
組み紐を解く。
蓋を開けた瞬間香りが広がった。
「静さん…」
思わず声が漏れた。
あの時の紙と同じ。いつもの手紙の紙。彼が持ってる中で一番いい紙なのだと思う。
そっと取り出し広げる。
緊張感の感じられる文字。
いつもの手紙の書き出し。
字は堅い。クスッと笑ってしまった。
読み進めていくと、婚姻の申し込みをするとある。
婚姻? 結婚?
顔を上げると正面に座る父と目が合った。
無言で頷いてる。母は微笑んでるけど、泣きそうだ。苦労をかけてしまった。
いい知らせという事なんだけど…婚姻って役所への申し込みであって…私への?
言葉間違え?
静さんたら…。ん? まだ続きがある…訪問日時がある。直接返事を聞きたいって事か?
香り見合いの後のお見合い?
手順を踏んでくれるって事?
思い出にしては手が込んでるけど…。静さんが私と一緒になりたいって事?
でも…コレって何???
「あっ、今日は何日? 時間は?」
小兄さまがすかさず教えてくれた。
「あと1時間で来るじゃないかッ。な、何を着たらいい? ああ、どうしよう。髪跳ねてない?」
兄たちを交互に見遣るが、笑ってるだけ。
「跳ねてない。いつもの五鈴だ」
「十分可愛い」
話にならないッ!
「可愛いとか言って欲しい訳ではなくて、そもそも男の私に可愛いってなんですか。きちんとしてるかどうかなんですッ」
文を畳んで文箱に入れると組み紐も纏めて抱え立ち上がり、母の手を取った。
「お母さま、手伝って下さい。急がないと」
「なんでもいいじゃない」
母も頼りにならないらしいッ。
「分かりましたッ」
自室に戻るべく足早に部屋を出た。
大変です。久しぶりに静さんに会うというのに、しかもお返事を貰いに来てくれるんですよ。しかも断られると思ってないですよねコレって。理解が追いついてこない。出来てないと言った方が正しい。
私も断るつもりは…ないけど…静さんは、私を好きって事でいいの?
慣例通りにならないようにしてくれてるだけなのでは…。
みんなの優しさ?
足が重くなってしまった。廊下で立ちすくんでしまった。
文箱が腕の中で急に冷たい物に思えてきた。
とぼとぼと戻る。
最後の思い出にしては手が込んでる。みんなでお芝居?
それなら…衣装はしっかりしたいね。うん。
最近のお気に入りだったあの大島は洗いに出してる。まだ仕上がってないが、あの時を思い出させてしまうから、却下です。
お見合い…あの時に着ていたの…。
もう一度あの時に帰りたい。
初めて彼と会ったあの時に、彼とお見合いがしたかった。
季節は合わないかもだが、白っぽい黄みがかったスーツを着た。
姿見で全身を確認する。腕時計をして時間確認。まだ余裕。大体の時間だろうから大丈夫さ。静さんは時間にしっかりしてるからな…。
机の引き出しにしまっていたあのハンカチを出し、そっと懐にしまった。
部屋を出るとおタキさんが、忙しく応接間を準備してるようだ。私の姿を見て「ようございましたね」と言ってくれた。曖昧に返すしか出来なかった。
兄たちもきちんとした格好になってる。
ちょっと不満です。
目が合えば「まぁ、な?」と二人とも返ってくる辺り憎めませんが。
父と母は変わりなし。とは言え、初めからきちんとしてましたけどね。
大兄さまが言ってた『手紙』ってコレだったのでしょうか。
なんという事でしょう…ね。
玄関の呼び鈴が鳴りました。
腕時計を確認した。時間より早くない?
「髪はねてない? 変じゃない?」
みんなに聞いて回った。お芝居だとしても、綺麗に演じたいじゃないですか。
おタキさんたちは既に準備はしてたようで、仕上げでバタついてただけだったみたい。
私だけが緊張してる。
腕を引かれてソファに座らされる。いつかのようです。肩を抱かれてトントンです。あの時と同じです。
香りが酷い有り様ですね…。
「いい香りだ…不安になるな。大丈夫だから」
私の心は筒抜けです。香りは嘘をつけないのですね。
「ありがとうございます」
思い出をありがとうと心を込めて…。
静さんが緊張した面持ちで入ってきた。手に赤い花が何輪か淡い色合いの和紙に包まれたのを持たれてる。花束?
「五鈴さん」
緊張した声。あの時のスーツ。
「ひゃいッ」
声に押されて学校のように起立してしまった。しかも変な返事だぁ~。
「西洋では、求婚には花を贈るらしいので…」
差し出されるそれを受け取った。受け取ったら『承諾』なのだろうなと思いながらも受け取っていた。
手の中の赤いガーベラが彼の心のようで嬉しかった。
「ありがとうございます」
ぽつりと言葉が溢れる。涙が出そうだが、それは今じゃない。別れる時だって笑っていたい。
懐にしまっていたハンカチを取り出し、差し出した。
「お返しします」
『思い出をありがとう』と気持ちを込めた。思い出だけで大丈夫だと伝えたかった。だから、この関係は終わり。さようならと。笑顔は作れてるだろうか…。
彼が不思議そうな顔をしてる…。
ん?
んん???
「五鈴、今から手続きの説明をする。静司くんと『めおと』になるでいいな?」
父が机の上に書類を広げてる。厳格な口調。えーと、仕事が始まるんですか?
兄たちに引っ張られ座った。
「ハァ、驚かせすぎたか…。お前たちの話に乗るんじゃなかった」
兄たちを睨みつけてる。
「何か変な事を考えてるようだな。だから、反対したんだ…。ハァ…」
盛大にため息。
「勘違いしてるようだから、はっきり言うが、お前は静司くんの『籍』に入る」
何か呆れられてる…。
私のしんみりとしてる気分はどうしたらいいの???
「本当に結婚するの?!」
やり場のない気持ちを叩きつけた。
「さっきからそう言ってるッ」
「結婚だよ? 結婚できるの?!」
呆れ顔に怒りが滲んできた。これ以上はまずい。静さんに向きを変える。彼の意志を確認しないと…ッ!
「静司さんは私でいいの? 男だよ?」
混乱の大混乱。
この場で混乱してるのは私だけだった。
静さんが厳つい顔を柔和に崩してる。目尻の皺がクシュっとなってる。
え????
頷かれてるんですが?!
「私の事、好きなの? 恋愛感情の好きなの?」
「はい、好きです」
え、え、えーーーーーッ?!
=============
長かったあと少し。
コレ短編じゃなく、中編の長さですよね( ̄▽ ̄;)
前置き長すぎたσ(^_^;)
続きが気になる方、お付き合いして頂ける方、お気に入りに登録やしおりは如何でしょう?
感想やいいねを頂けたら、さらに嬉しいです。
↓下の方にスタンプや匿名でメッセージ送れるの設置してあるので、使ってみて下さい。
ちなみにURLはコレ↓
https://wavebox.me/wave/8cppcyzowrohwqmz/
15
あなたにおすすめの小説
余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません
ユッキー
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。
全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?
カワウソの僕、異世界を無双する
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
本編完結いたしました♡コツメたん!無双おめでとう㊗️引き続きの番外編も完結しました💕
いつも読んでいただきありがとうございます♡ ほのぼのとワクワク、そしてコツメたんの無双ぶりを楽しんで下さい!
お気に入り1200越えました(new)❣️コツメたんの虜になった方がこんなにも!ʕ•ᴥ•ʔキュー♡
★★★カワウソでもあり、人間でもある『僕』が飼い主を踏み台に、いえ、可愛がられながら、この異世界を無双していく物語。
カワウソは可愛いけどね、自分がそうなるとか思わないでしょ。気づいたらコツメカワウソとして水辺で生きていた僕が、ある日捕まってしまった。僕はチャームポイントの小さなお手てとぽっこりお腹を見せつけながら、この状況を乗り越える!僕は可愛い飼い主のお兄さん気分で、気ままな生活を満喫するつもりだよ?ドキドキワクワクの毎日の始まり!
BLランキング最高位16位♡
なろうムーンで日間連載中BLランキング2位♡週間連載中BLランキング5位♡
イラスト*榮木キサ様
中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと
mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36)
低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。
諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。
冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。
その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。
語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。
双子のスパダリ旦那が今日も甘い
ユーリ
BL
「いつになったらお前は学校を辞めるんだ?」「いつになったら俺らの仕事の邪魔をする仕事をするんだ?」ーー高校二年生の柚月は幼馴染の双子と一緒に暮らしているが、毎日のように甘やかされるも意味のわからないことを言ってきて…「仕事の邪魔をする仕事って何!?」ーー双子のスパダリ旦那は今日も甘いのです。
何故か男の僕が王子の閨係に選ばれました
まんまる
BL
貧乏男爵家の次男カナルは、ある日父親から呼ばれ、王太子の閨係に選ばれたと言われる。
どうして男の自分が?と戸惑いながらも、覚悟を決めて殿下の元へいく。
しかし、殿下は自分に触れることはなく、何か思いがあるようだった。
優しい二人の恋のお話です。
※ショートショート集におまけ話を上げています。そちらも是非ご一読ください。
※画像は男の子メーカーPicrewさんよりお借りしています。
不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる