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16 》震える
しおりを挟む嬉しいですけど、とっても嬉しいのですが、なんなのですか?!
父の咳払いで、なんとか戻ってきましたが、まだ、混乱してます。
「いつまでも呆けてないで、しっかり聞きなさい」
「はい…」
叱られちゃった…。
目の前に広げられたのは戸籍の資料だった。
あっ、静さんのところって曾祖父さまの代で籍を分離したんだ。
あれ?
あの人、復籍がどうのって言ってなかった?
復籍も何も籍抜いてるじゃないか…。あの家門は自分のところの戸籍も管理してないのか?
戸籍は改正されてんだぞ…。
「おい、お前の事だぞ。婚姻で除籍にして静司くんの籍に妻として入籍させる」
コクコクと大きく頷いてるが聞いてませんでした。なんかすごい単語を聞いたような……妻……妻?!
「妻?!」
声にも出てた。
「入籍だから当たり前だよ?」
爽やかに小兄さまがニッコリ。
「その際ちょっと書き間違えが起きるが、そう言う事だ」
父が静かに言ってるが、危ない事をしようとしてる気がする。
「静司くん、役所で彼から声が掛かる手筈だ。彼以外とは手続きしないように。清春も」
「はい」
小兄さまが涼しい顔で返事してる。
一緒に行くんだ。
私は、婚姻で除籍されるんだ…死亡じゃなくて…。
静さんはこの事を知ってるから、私と結婚してくれる気に?
男性Ωが世の中にいないのは戸籍がないから…。生きていても存在しない。それが私の調べた結論。多分皆はそこへ行き着く。
「戸籍上は三男が三女に変わる」
これは今までΩを道具としてきた人たちの手法と変わらないかもだけど、私が生きれる道だと思う。
「今、世の中は変わろうとしてるわ。女性も意見が言えるようになる。Ωだって自由に結婚できるわ。その時、ここを訂正しましょうね」
書類の字の上を母の指が愛おしそうに撫でている。
母が自分の目と耳で見聞きしてきての実感だろう。
きっと変わって行く。ラジオや新聞はそんな事を伝えていたじゃないか。
未来は明るい。
「では…」
「行ってきます」
またぼんやりしてしまってた。座ったまま二人を見送る。手元の赤いガーベラの花の小さな花束が私を見ている。
「五鈴、幸せにね」
母に抱きしめられる。花束が潰れないようにそっと机に移動させる。
「私は、今までと変わりなくでいいのでしょうか…」
私の言葉に母が離れてくれた。
「ん?」
残った家族に変な顔をされた。
「女装とかしなくていいのですか?」
だって『女』で『妻』でしょ?
「はぁぁ、『戸籍上は』と言ったぞ」
今日は父に一生分のため息をさせてる気がする。眉間の皺が深いです。肩を落としてため息を吐かせてる姿は老け込んだように見える。ありがとうございます。
「今度『歌劇団』の公演を観に行きましょう。観劇されるお嬢さん方も素晴らしいのよ」
キラキラとした目で話す母の圧がちょっと強い。確か母がレコードを嬉しそうにかけていたが、アレは歌劇団のですか?
「は、はい、お供させていただきます」
でも、歌劇団と私は何の関係があるのでしょう…。
男装のお嬢さま方や歌劇団の歌やお芝居を観たり、私がサインを求められたりするのは先の話。。。
「静司さんはこれで良かったのですか?」
全ての手続きを終えて帰ってきた静さんと並んで私の庭を一緒に見てる。
雀がパン屑を啄んでる。
「五鈴さんは嫌なんですか?」
質問が質問で返ってきてしまった。
「私は嬉しいです。今も信じられません。好きな人と一緒に居れるなんて…幸せです。たぶん、来年の年明け早々、もしかしたらもっと早くに何処かに連れて行かれて、顔も名前も知らない人に無理矢理一緒にされるんだと思ってました。だから、それまではいっぱい楽しくあろうと思って…静司さんを巻き込んでしまいました」
啄む愛らしい姿を見つめたまま呟く。パン屑を投げてやるとそっちにチョンチョンと移動して行く。
「それの方が良かったですか?」
静さんはこっちを見て話してるのは分かる。低音の声が心地いい。
「……嫌に決まってるじゃないですか…」
また投げてやる。チョンチョン…
「五鈴さん…」
ふわっと香りが強くなった。声が切なく聞こえる。でも…彼を見れずに居た。
太ももが触れ合う距離で座ってるのに、それ以上近づけずに居た。
肩を抱かれて、やっと彼に頭を預けれた。彼の鼓動が聞こえる。私も同じだ。きっと私の香りもむせ返るようになってるだろう。甘ったるいのかなぁ…。
「五鈴さん…」
なんだろう…胸が締め付けられる…切なく感じてしまう。
固くなったパン屑を指先で捏ねながら、雀を見てる。
丸い黒い目がこっちを見てる。クルッとこっちを向いて、きゅるんと小首を傾げてる。次のエサのおねだりだろうか…。
愛らしい姿に自然と緩く口角が上がってしまう。
「こっちを…向いて下さい」
顎に大きな手が添えられて…向かされてしまいました。
間近で静さんが見つめてくれてます。キリッとした黒い目に引き込まれそう…。背中をゾクゾクとしたさざなみが駆け上がってくる。
「嫌ですか?」
顔が近づいてきて、唇に柔らかいものが触れ、離れ、触れたソレから低い声が紡がれた…。
……気を失うかと思った…ッ!
息が出来ない…。顔が熱いッ。唇が触れた。彼のッ。
「五鈴さん、接吻は嫌でしたか?」
『大切にし過ぎ…』兄の声がこだまする。
頬を大きな手で優しく撫でられる。
彼の目に捕まって目が離せない。
指先がちくりとします。パン屑を指先で潰していた。
息をはけた。止まってた…。
息は出来るようにはなったんですけど。耳の中がうるさい。心臓が飛び出そうに跳ねてます!
接吻…ッ。これって『口づけ』って本の中にあったアレ?
私が応えずに固まってると、再び何も言えずに微かに動く唇に静さんの唇が重なった。
ぷにゅっと押し付けられる感触に唇が細かく震えしまう。私が、接吻してるという状況に頭が茹る…。頭の中がぐるぐると回ってる。苦しくて…手が彼の胸に触れていた。パン屑は何処かに行った。
震える唇が彼の唇にふにっと挟まれ離れた。ぷるっと引っ張られて戻る。はわわぁぁああああ…
思わず熱くなってる口を手で抑えて俯いてしまう。
「嫌?」
頭の上で声がする。緩く抱え込まれるように大きな腕が背中に巻かれ抱かれていた。
ふるふると頭を振った。唇が熱く感じて、全身が熱くて…。嫌じゃないですけどぉぉぉ……。
厚い胸板に額を押し付ける。恥ずかしい。でも、応えなきゃ。なんとか呼吸を落ち着けて、ゆっくり言葉を紡ぐ。
「嫌じゃありません。…静司さんこそ…無理をしてませんか?」
喋れた…。
「あなたは無理をしてるんですか?」
また質問で返ってきた。優しい人だから、私にお伺いばかりです。
「私が可哀想だから、静司さんは優しいから、……戸籍を汚してごめんなさい…」
さっきまでつっかえてたもやもやを言葉にできた。
私は世の中から切り離された場所で息をひそめて生きていくと思っていた。西洋人形のようにじっとして遊ばれられるだけだと思ってたのに…。道具になろうと思ってたのに…。
「俺は…優しくないです。一度はあなたを拒否したのに、今は独占できる歓喜に震えてる。今、あなたを俺だけのにできた。独占できる喜びで…あなたに…酷い事をしそうです」
==============
ゆっくりで申し訳ないです( ̄◇ ̄;)
これからのあれこれを心置きなくですね…あはは…
やっと ※ を使えそうです( ̄▽ ̄;)えへへ
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