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本編
11】決行前夜のヤケっぱち(前)
しおりを挟むクンティンとぶつかった。
腹が減ったので、厨房を覗こうと廊下を歩いてたら、向こうから勢いよく走ってくる小柄な人影と遭遇した。よく知ってるその影がクンティンだとすぐに分かったのだが。
「よっ…」と声を掛けかけて、不味いと思った。
彼は前を見てない。下を向いて全力だ。
えーと、俺が避けたところで、アイツ、どこかにぶつかるかコケるぞ。これから大仕事をするってのにッ。
ヨシ! ドンと来いッ!
「クンティンッ!」
気合いを入れて受け止める。
名を呼ばれて反応した。いい反応だ。顔を上げ、俺を見た。これで、受け身は取れるだろう。
酷ぇ顔。涙でぐちゃぐちゃだなぁ…。
俺ってなんでこんなのに遭遇するかなぁあ~。ぐへぇッ!
「サムエルぅぅうううう…ぐぅわぁぁああああ…」
鳩尾が濡れる。
構えたから衝撃は鳩尾じゃなかったが、姿勢を戻せば、位置がな。
うう…冷たい…。
額が胸筋下をグリグリ。顔を押し付けてくる。俺の服で拭かないでくれ…。胸で泣いてくれた方がまだ可愛い感じなんだが…。
割り当ててくれてた部屋に連れてった。廊下で泣いてるのもなんだかだしな…。
「どうした?」
並んで座れるイスも無いので、ベッドに並んで座る。
うぐぅうぐぅと声を抑えるような泣き方になってる。泣き止もうとしてるようだ。腕で、手の甲で、涙を拭ってる。酷い泣き方だな。鼻水まで垂れてやがる。
背中や肩をポンポンと叩く。
ハンカチなんて気の利いた物も無いので、置いてあったタオルを渡す。
顔を覆った。また泣き出してるよ…。
「ダロンがぁ…」
「ん? 魔王にでも襲われてたか?」
俺、こういう空気弱いんだよ。茶化しちまう。
顔を押さえたまま、ブンブン首を振る。
笑いが取れなかった。
「それの方が良かったぁあ…」
よくないだろう…。
ポンポン…
「キスしてた」
「ん?」
「アリスンとキスしてたッ。あれは、彼女からじゃないよ。覆い被さるみたいに、抱きしめて…。彼からキスしてたんだ。悔しいぃぃ…」
え? そこは、おめでとうでは?
あああああああ! そうだった!
えーと、こうりゃ、どうしたらいいんだ???
失恋? 失恋ってヤツだよな?!
「あー、両想いみたいだったし…。おめでとうって言ってやろうや…」
あー、俺は、苦手なんだよ。気の利いた言葉を持ち合わせてない。
騎士だった時は、ヤケ酒に付き合ってたが…。
「うぐぅぅううゔうゔうう…」
地を這うような音がしてる…。おいおい…。
「酒飲むか? 付き合うぞ?」
決行は明日の夜だ。ひと眠りしたら酒も抜けるだろう。クンティンも結構いけた口だった。
「いやぁぁあ…失恋みたいで、イヤだぁああ…」
なんちゅう意地の張り方。なんだかクンティンらしいがな。んー、どうしようかね…。
「そうか…。泣け。付き合ってやる」
「ありがどゔぅぅううゔゔ…」
ひどい声で泣いてる。
泣き疲れるまで泣け…そして、寝ろ。
しっかし、疲れ切って寝てたのに、トイレにでも起きたのかな…。
ま、すぐ寝るだろう。
ポンポン…ポンポン…
えーと、寝ないな…。目が溶けないか…?
ポンポンと背中叩きながら、俺が眠くなってきた。ああ…もうダメだ…。
クンティンを抱き抱えたまま、気づいたら横になってた。クンティンが俺の胸の上で泣いてる。惰性で手が動いてる。
ポンポン…ポンポン…
腹の上に乗っけて、ラッコのようにして、ポンポンしてる内に、完全に俺が寝てた。
寒いなぁ…。
腹出して…寝てたか?
ん?腹の上は温かい…?
重い瞼を押す上げると、目の前の光景に面食らって、目が覚めた。
うへッ?!
俺の腹の上に乗せたのは覚えてる。
適度な重さと温もりに、当初の目的を忘れて寝てしまったようだなッ!
ご立腹のクンティンだと思って見遣れば、そうは見えない。真剣に俺の胸を撫でてる、否、ゴシゴシ拭いてる。俺のシャツを捲ってな…。
「クンティンさんよぉ~、俺は襲われてんのか?」
彼も泣き疲れて寝てしまったのだろう。目は冷やさないとみんなに合わす顔がないとか言いかねない状態だが、幾分スッキリした顔をしている。
「あ、起きた…。むぅ…襲ってない…」
俺の声に起きた事に気づいて、頬を赤ながら唇を尖らせて、ぶつぶつ言いながら、シャツの首を無理やり通されて、腕が固定される状況に襲われてる感が増す。
えーと…。
「ヤるのもヤられるのも一応経験済みだから、どっちでもいいぜ?」
クンティンも状況に気づいたのか、慌ててる。
「あ、違うッ。その…、申し訳なくて、拭いていただけだッ」
乱暴にシャツを引き抜くと広げて見せた。
真っ赤な顔が可愛らしい事でッ。
俺のシャツ、涙と鼻水と…ヨダレですな。寝てたようだからね…。ベタベタだぁ~。寝にくかっただろう。
ん? 手が冷たいなぁ…。
「クンティン、まだ魔力が回復してないのか?」
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