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episode.35
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人というものはいくら危険な状態に陥っても目の前に自分の興味が惹かれるものがあれば見入ってしまう。
今のシルヴィはまさにその状況。
いつ剣が自分に刺さるか分からないのに、真剣な表情で剣を振るうアルベールに目と心が奪われている。
(こ、これは、まさに役得!!!!)
こんな俊敏な動きをするアルベールを見たことがあっただろうか。その答えは否だ。
機嫌が悪そうに薬を睨みつけている姿が定着している為か、本当にアルベール本人なのか疑ってしまう。
褒めたくはないが、パウルもシルヴィを抱えてアルベールを相手にしている時点で相当剣が立つということが窺える。
(っていうか、この人力強すぎない!?)
隙を見て逃げ出そうと思っているが、中々その隙ができない。
無理やり腕から抜け出そうとするが、力が強すぎてビクともしない。
「……動かんといてくれる?不意に首が飛んでもええっちゅうなら止めんけどな……」
ヒュッと息を飲むほど冷たい目で言われたら大人しくするしかない。だが、ただ抱かれているというのも疲れるのだよ。
(そろそろ限界なんですけど……)
そう思ったのと同時に、キーンッとパウルの剣が宙を舞った。
一部始終を見ていたマティアスは笑みを浮かべている。それを意味するのは……
「──私の勝ちだ」
アルベールの勝利。
「はぁ~……」
パウルは大きな溜息を吐くと、そのまま地面に崩れるように尻もちをついた。
シルヴィはようやく解放されてホッと息を吐いた。
そして、改めて辺りを見ると煌びやかな部屋は一変。豪華な調度品は派手に壊されていて使い物にならない。
壁やベッドもボロボロに斬られている。
勿体ないと思うのは貧乏の性。こればかりは致し方ない。
「シルヴィ」
忙しなく顔を動かしているシルヴィにアルベールが声をかけてきた。
「あ、総監様!!この度は色んな意味でありがとうございます!!」
先程まで危険に晒されていたなど微塵も感じさせない程の笑顔で深々と頭を下げた。
「ん?どうしました?」
アルベールからの返事が返ってこず、不思議に思ったシルヴィが頭をあげると、逞しい腕に力一杯抱きしめられた。
「はわわわわわ……!!!!!!」
力を込めすぎて若干苦しいが、この際息が止まってもいいと思ってしまう。
(な、な、な、な、これはなんに対するご褒美ですか!?)
「無事でよかった」
息を吸えば甘美な匂いが鼻を付き、耳元では甘い声が囁く。正気を保つのがやっとで言葉が出てこない。
(これはご褒美と言うより、拷問かもしれない!!)
もう、いっその事死んでもいいかも……と思ったところで
「あ~と、そろそろ解放してあげないと、その子本当に逝きそうだよ?」
シルヴィの様子に気がついたマティアスがアルベールに声をかけてくれ、九死に一生を得た。
「──ははっ、まさかあんたが剣の達人とはね。なんで騎士やのうて医者なんてやっとるん?」
「そんなもの。騎士に興味が無いからだ」
パウルが問いかけると、即答で返ってきた。
アルベールは今の仕事に誇りを持っていて、天職だと思っているらしい。
騎士は女性にモテたいと言う不純な理由の奴が多い。そんな者の相手をするより薬を相手にした方が数倍世の為になる。と、まあアルベールらしい答えだった。
「──さて、私の話が済んだところで、お前の話も聞かせてもらおう」
「おやおや、急かす男は嫌われるで?」
剣を突きつけるアルベールに軽口を言えるパウルは流石と言えるが、この男が易々と口を割るとは思わない。
「残念やけど、今回は僕の負けや」
「今回?」
「そう。今回」
ニヤッと不敵な笑みを浮かべたパウルに何かを察知したマティアスが叫んだ。
「伏せろ!!」
その言葉が合図となり、部屋の中に無数の矢が放たれた。
シルヴィはアルベールが庇ってくれて無傷だが、顔を上げた時にはパウルの姿は窓の外にあった。
「ほな、僕は帰るわ!!シルヴィ、またな!!」
「逃がすか!!──外だ!!追え!!」
マティアスが部屋の外に向けて叫び、騎士らを誘導した。
きっとパウルは捕まらない。それは分かっているが、もうシルヴィは色々と限界で立ったまま意識を失った。
最後に聞いた声は「安心して休め」と言う優しい声だった。
今のシルヴィはまさにその状況。
いつ剣が自分に刺さるか分からないのに、真剣な表情で剣を振るうアルベールに目と心が奪われている。
(こ、これは、まさに役得!!!!)
こんな俊敏な動きをするアルベールを見たことがあっただろうか。その答えは否だ。
機嫌が悪そうに薬を睨みつけている姿が定着している為か、本当にアルベール本人なのか疑ってしまう。
褒めたくはないが、パウルもシルヴィを抱えてアルベールを相手にしている時点で相当剣が立つということが窺える。
(っていうか、この人力強すぎない!?)
隙を見て逃げ出そうと思っているが、中々その隙ができない。
無理やり腕から抜け出そうとするが、力が強すぎてビクともしない。
「……動かんといてくれる?不意に首が飛んでもええっちゅうなら止めんけどな……」
ヒュッと息を飲むほど冷たい目で言われたら大人しくするしかない。だが、ただ抱かれているというのも疲れるのだよ。
(そろそろ限界なんですけど……)
そう思ったのと同時に、キーンッとパウルの剣が宙を舞った。
一部始終を見ていたマティアスは笑みを浮かべている。それを意味するのは……
「──私の勝ちだ」
アルベールの勝利。
「はぁ~……」
パウルは大きな溜息を吐くと、そのまま地面に崩れるように尻もちをついた。
シルヴィはようやく解放されてホッと息を吐いた。
そして、改めて辺りを見ると煌びやかな部屋は一変。豪華な調度品は派手に壊されていて使い物にならない。
壁やベッドもボロボロに斬られている。
勿体ないと思うのは貧乏の性。こればかりは致し方ない。
「シルヴィ」
忙しなく顔を動かしているシルヴィにアルベールが声をかけてきた。
「あ、総監様!!この度は色んな意味でありがとうございます!!」
先程まで危険に晒されていたなど微塵も感じさせない程の笑顔で深々と頭を下げた。
「ん?どうしました?」
アルベールからの返事が返ってこず、不思議に思ったシルヴィが頭をあげると、逞しい腕に力一杯抱きしめられた。
「はわわわわわ……!!!!!!」
力を込めすぎて若干苦しいが、この際息が止まってもいいと思ってしまう。
(な、な、な、な、これはなんに対するご褒美ですか!?)
「無事でよかった」
息を吸えば甘美な匂いが鼻を付き、耳元では甘い声が囁く。正気を保つのがやっとで言葉が出てこない。
(これはご褒美と言うより、拷問かもしれない!!)
もう、いっその事死んでもいいかも……と思ったところで
「あ~と、そろそろ解放してあげないと、その子本当に逝きそうだよ?」
シルヴィの様子に気がついたマティアスがアルベールに声をかけてくれ、九死に一生を得た。
「──ははっ、まさかあんたが剣の達人とはね。なんで騎士やのうて医者なんてやっとるん?」
「そんなもの。騎士に興味が無いからだ」
パウルが問いかけると、即答で返ってきた。
アルベールは今の仕事に誇りを持っていて、天職だと思っているらしい。
騎士は女性にモテたいと言う不純な理由の奴が多い。そんな者の相手をするより薬を相手にした方が数倍世の為になる。と、まあアルベールらしい答えだった。
「──さて、私の話が済んだところで、お前の話も聞かせてもらおう」
「おやおや、急かす男は嫌われるで?」
剣を突きつけるアルベールに軽口を言えるパウルは流石と言えるが、この男が易々と口を割るとは思わない。
「残念やけど、今回は僕の負けや」
「今回?」
「そう。今回」
ニヤッと不敵な笑みを浮かべたパウルに何かを察知したマティアスが叫んだ。
「伏せろ!!」
その言葉が合図となり、部屋の中に無数の矢が放たれた。
シルヴィはアルベールが庇ってくれて無傷だが、顔を上げた時にはパウルの姿は窓の外にあった。
「ほな、僕は帰るわ!!シルヴィ、またな!!」
「逃がすか!!──外だ!!追え!!」
マティアスが部屋の外に向けて叫び、騎士らを誘導した。
きっとパウルは捕まらない。それは分かっているが、もうシルヴィは色々と限界で立ったまま意識を失った。
最後に聞いた声は「安心して休め」と言う優しい声だった。
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