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しんと静まった夜更け……ラヴィアは冷たい夜風に吹かれ目が覚めた。窓は閉まっているはずなのに何で?と眠気まなこにゆっくり体を起こすと、風でカーテンが揺れている。
やはり窓を閉め忘れていたようだと、眠い目を擦りながら窓を閉めようとベッドから足を着いた所で気がついた。カーテンの奥に人の影がある事に。
(だ、誰!?)
あまりの恐怖に体が硬直したように動けないし、声も出ない。こうなっては気づかれないように息を潜めるしかないのだが、こういう危機的状況が非常に苦手なラヴィア。
「は、は……くちゅっ!!!!」
夜風に当たって冷えた体は正直で、静まり返った部屋に可愛らしいくしゃみが響いた。そのくしゃみに反応した人影がゆっくりこちらに近づいて来るのが分かり、自然と体が震える。
(……ん?)
近付く人影が月明かりに照らされた時、何となく見覚えあるような気がして、目を凝らして見つめてみるとやはり見覚えある者だった。
「貴方!!どうして──!!」
「シッ!!大声はまずいでしょう」
口に手を当てて黙るように言ってくるのは、牢に囚われるはずのシャオ。
フェリックスから聞いていた通り、医者に見てもらって大分顔色も良くなったし、ここまでの距離を動けるようになった事に嬉しくも思えるが、それはそれ。
「どうしてここに!?貴方、城にいるはずじゃ……!?」
「お嬢さんに会いたくなってさ」
声を抑えながら問いかけると、そんなふざけた様な言葉が返ってきた。
「冗談は顔だけにして下さい。牢を抜けるなど、罪を重くしているのですよ!?そもそも見張り番がいたはずです!!」
ただですら目をつけられているのに、これ以上騒ぎを起こしたとなれば酷い目にあうのは目に見えて分かってる。それなのに目の前の男は気にする素振りもなく笑っている。
「なに?俺を心配してくれるの?」
「……いい加減にしないと、どつき倒しますわよ」
「ははは、冗談だよ」
キッと睨みつけるラヴィアをよそに、シャオは目の前にあった椅子にドカッと腰掛けた。
「あの程度じゃ見張りとは言わないよ。俺も随分と舐められたもんだよねぇ。まあ、お嬢さんの顔を見たらちゃんと戻るつもりではいるよ」
そう言うが折角自由になった身で、誰が好き好んで自ら牢に戻ると言うのだ。そんな奇特な者見た事も聞いたことも無い。この人はこのまま逃げ切るつもりだろうと思ってる。
「ヤダなぁ。本当だって」
ラヴィアは何も言っていないが、顔色を見て察した様ですぐに反論してきた。
「さて、お嬢さん。俺の正体については知ってるよね?」
「……ええ」
「本職は盗賊だけど、今回ある筋からどうしても断れない依頼で密猟に手を出した訳よ」
「ちょっと待って。それ以上は私が聞いていい話ではありませんよね?無関係の人間を巻き込まないでいただきたいんですけど」
何となく雲行きが怪しくなってきたので、慌てて言葉を遮って耳を塞いぎ、聞く気はないと主張するがシャオはその手をゆっくり解いた。
「まあまあ、そう言わないで聞いてよ。それにお嬢さんにも関係してることだと思うよ?」
「……どう考えてもデメリットしかないように感じますけど……」
「はは、それは聞いてみてから考えてよ」
そこまで言うのならと、ラヴィアも覚悟を決めてシャオの話を聞くことにした。
「お嬢さん達は密猟が単独で行われていると思っているだろ?」
「……違うんですの?」
「違うよ。ある組織が絡んでる」
「は?」
シャオの話はこうだった──
表向きは獣の肝を取る為の密猟とされているが、本当の目的は生態系の破壊と崩壊。
そんな事をしてなんの得が!?と思ってしまうが、少し考えれば理由など容易に想像がつく。
今や万病の妙薬とまで呼ばれる肝。噂とは怖いもので、人々は全く疑う事をせず、色んな噂が刷り込まれ洗脳状態にある。獣の肝にその様な効能はないと宣言した所で信じる者はいないだろう。
そんな状況下で、この国から獣が消えたら?豊かな森がなくなったら?
この国はたちまち立ち行かなくなる。そこを狙っているのだろう。弱った国は藁にもすがる思いで周辺国に助けを求める。その対価に土地を奪われても……
更に、その組織は繁殖にも手を染めているらしいが、上手くいっていないらしい。
「異種交配ってやつで新しい生き物を生み出してるらしいんだよね。そいつらが結構いい値で取引されてるらしい。まあ、売られてもすぐに死んじまうらしいけどね」
「そんな事……外道のする事ですわ……」
あまりの事実にラヴィアは怒りを通り越して悲しくなっていた。
何故、何もしていない子達がそんな酷い扱いを受けなければいけないんですの!?彼らはただのんびり平和に暮らしたいだけですのに……!!
ラヴィアは拳を強く握り震えているのを見て、シャオが口角を吊り上げながら言った。
「そこでだ、お嬢さん。俺と取り引しない?」
やはり窓を閉め忘れていたようだと、眠い目を擦りながら窓を閉めようとベッドから足を着いた所で気がついた。カーテンの奥に人の影がある事に。
(だ、誰!?)
あまりの恐怖に体が硬直したように動けないし、声も出ない。こうなっては気づかれないように息を潜めるしかないのだが、こういう危機的状況が非常に苦手なラヴィア。
「は、は……くちゅっ!!!!」
夜風に当たって冷えた体は正直で、静まり返った部屋に可愛らしいくしゃみが響いた。そのくしゃみに反応した人影がゆっくりこちらに近づいて来るのが分かり、自然と体が震える。
(……ん?)
近付く人影が月明かりに照らされた時、何となく見覚えあるような気がして、目を凝らして見つめてみるとやはり見覚えある者だった。
「貴方!!どうして──!!」
「シッ!!大声はまずいでしょう」
口に手を当てて黙るように言ってくるのは、牢に囚われるはずのシャオ。
フェリックスから聞いていた通り、医者に見てもらって大分顔色も良くなったし、ここまでの距離を動けるようになった事に嬉しくも思えるが、それはそれ。
「どうしてここに!?貴方、城にいるはずじゃ……!?」
「お嬢さんに会いたくなってさ」
声を抑えながら問いかけると、そんなふざけた様な言葉が返ってきた。
「冗談は顔だけにして下さい。牢を抜けるなど、罪を重くしているのですよ!?そもそも見張り番がいたはずです!!」
ただですら目をつけられているのに、これ以上騒ぎを起こしたとなれば酷い目にあうのは目に見えて分かってる。それなのに目の前の男は気にする素振りもなく笑っている。
「なに?俺を心配してくれるの?」
「……いい加減にしないと、どつき倒しますわよ」
「ははは、冗談だよ」
キッと睨みつけるラヴィアをよそに、シャオは目の前にあった椅子にドカッと腰掛けた。
「あの程度じゃ見張りとは言わないよ。俺も随分と舐められたもんだよねぇ。まあ、お嬢さんの顔を見たらちゃんと戻るつもりではいるよ」
そう言うが折角自由になった身で、誰が好き好んで自ら牢に戻ると言うのだ。そんな奇特な者見た事も聞いたことも無い。この人はこのまま逃げ切るつもりだろうと思ってる。
「ヤダなぁ。本当だって」
ラヴィアは何も言っていないが、顔色を見て察した様ですぐに反論してきた。
「さて、お嬢さん。俺の正体については知ってるよね?」
「……ええ」
「本職は盗賊だけど、今回ある筋からどうしても断れない依頼で密猟に手を出した訳よ」
「ちょっと待って。それ以上は私が聞いていい話ではありませんよね?無関係の人間を巻き込まないでいただきたいんですけど」
何となく雲行きが怪しくなってきたので、慌てて言葉を遮って耳を塞いぎ、聞く気はないと主張するがシャオはその手をゆっくり解いた。
「まあまあ、そう言わないで聞いてよ。それにお嬢さんにも関係してることだと思うよ?」
「……どう考えてもデメリットしかないように感じますけど……」
「はは、それは聞いてみてから考えてよ」
そこまで言うのならと、ラヴィアも覚悟を決めてシャオの話を聞くことにした。
「お嬢さん達は密猟が単独で行われていると思っているだろ?」
「……違うんですの?」
「違うよ。ある組織が絡んでる」
「は?」
シャオの話はこうだった──
表向きは獣の肝を取る為の密猟とされているが、本当の目的は生態系の破壊と崩壊。
そんな事をしてなんの得が!?と思ってしまうが、少し考えれば理由など容易に想像がつく。
今や万病の妙薬とまで呼ばれる肝。噂とは怖いもので、人々は全く疑う事をせず、色んな噂が刷り込まれ洗脳状態にある。獣の肝にその様な効能はないと宣言した所で信じる者はいないだろう。
そんな状況下で、この国から獣が消えたら?豊かな森がなくなったら?
この国はたちまち立ち行かなくなる。そこを狙っているのだろう。弱った国は藁にもすがる思いで周辺国に助けを求める。その対価に土地を奪われても……
更に、その組織は繁殖にも手を染めているらしいが、上手くいっていないらしい。
「異種交配ってやつで新しい生き物を生み出してるらしいんだよね。そいつらが結構いい値で取引されてるらしい。まあ、売られてもすぐに死んじまうらしいけどね」
「そんな事……外道のする事ですわ……」
あまりの事実にラヴィアは怒りを通り越して悲しくなっていた。
何故、何もしていない子達がそんな酷い扱いを受けなければいけないんですの!?彼らはただのんびり平和に暮らしたいだけですのに……!!
ラヴィアは拳を強く握り震えているのを見て、シャオが口角を吊り上げながら言った。
「そこでだ、お嬢さん。俺と取り引しない?」
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