悪霊令嬢、渋々生まれ変わったら悪霊になるきっかけになった元婚約者の孫に溺愛されました

甘寧

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白スズメ飼い始めました

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大粒の涙を流しながらここに住まわしてくれと言われたら、辛うじて残っている良心が痛むってもんだ。

(──って言うか、本当に追い出されたのか……)

天界に興味はなかったが、神様を追い出す天界に少し興味が湧いた。

「……はぁ~、分かった。ここに置いてあげる」

「本当か!?助かった!!私の事はライと呼んでくれ」

降参とばかりに両手を上げここに残ることを承諾すると、突っ伏していたスズメが顔を上げ小さな目を輝かせながら喜んだ。

しょうがないよね。一応神様だし、恩を売っておいて損はない。

この状況をいい方向に考えようとしていた所で、扉が開き兄のイアンが入ってきた。

「──シア、ちょっといいかい?」

「ええ。どうしたの?」

慌てて肥満スズメを後ろに隠した。

「実は紹介したい人がいるんだ」

「……えっ?」

物凄く嫌な予感がする。
アイザックは何しにこの屋敷にやって来た?お父様に訪問?いや、私は一度もブロンド家の名を聞いたことがない。
じゃあ、何しに……?

「──先程ぶりだね。シンシア嬢」

一番会いたくない人物が私の目の前に現れた。

私は思わずライを握っている事も忘れ、全力で握り締めてしまった。後ろから「グエッ」という鳴き声で正気に戻ったが

「シンシア、この方は僕の上司で副団長のアイザック様だ」

「わざわざこの男爵家に足を運んでくださったんだ」と興奮しながらも誇らしげに言ってくる兄が恨ましい。

私はどうにか気持ちを落ち着かせようと必死で、会話なんてしている場合ではないと言うのに。

「……シンシア?どうしたんだい?」

「いえ……なんでもありませんわ。……ようこそお越しくださいました。私はシンシア・マクスヴェルと申します。……ごゆっくりお過ごし下さい」

笑顔が引き攣ってないだろうか?ちゃんと出来ただろうか?

「……おい、大丈夫か……?」

後ろから小声で私を心配するライの声が聞こえたが、答えている余裕が無い。
アイザックの顔を見る度に思い出す、元婚約者ダロンの裏切りの言葉、私の死を喜ぶ笑顔。そして、最期の姿……

ブワッと何かが込み上げてきた。その瞬間目の前が真っ暗になり、私は気を失った。

気を失う時に見たライは、本来の姿になっていたような気がした……


◇◇◇


『……貴方はまだあの男が許せないの?』

『当たり前じゃない。私を裏切った男よ?生まれ変わっても許さないわよ』

『……あの男は死んだの。継母も義姉も、もういない。何をそんなに恐れるの?』

『恐れてなんかいないわ。ただ、私は──……』




「ハッ」とベッドの上で目が覚めた。
気付けば外は暗く、時間的に真夜中だろう。

「……夢か……」

夢の中でに自問自答してきた。

(……言われなくなって分かってるわよ……)

憎かった継母も義姉も、元婚約者のダロンもこの世にはもういない。
でもね、悪霊になるほど人を恨んでしまえばその恨みの念は簡単には消えないのよ……

「──……まったく、簡単に闇に呑まれおって」

声がした方を振り向けば、本来の姿でライが窓際に立っていた。
月夜に照らされたライの姿は、ムカつくほど美しかった。

「……その姿ムカつくから肥満スズメに戻ってくれない?」

女の私より美しい姿より、肥満スズメの方がまだ可愛げある。

「お前ぐらいだぞ、私をそんな風に言う奴は……まあ、この姿も長くはもたんのでな」

そう言うと、ポンッと見慣れた肥満白スズメ戻り、重い体で必死に羽ばたせながら私の膝の上へとやって来た。
その姿に、忘れかけていた感情が湧き上がってきた。

「……可愛い……」

無意識に呟き、息切れしているスズメを撫で回した。
特にでっぷりとしたお腹周りを重点的に。

「……お前は自分の感情ぐらいコントロール出来んのか?」

ライが呆れながら説教をしてくるが、このお腹のせいで真剣味が半減されてる。

「仕方ないじゃない。私はそんなに出来た人間じゃないのよ」

「このままでは、お前はまた悪霊に戻ってしまう。そうなれば私の手には負えなくなり、今度こそ魂が消滅してしまうぞ?」

軽く聞いていたが、結構重要な話をしていることに気づいた。

「……じゃあ、私にどうしろって言うのよ?」

消滅したくなくて転生したのに、消滅してしまったら本末転倒だ。

「まずは自分で感情をコントロール出来なければ意味が無い。──そこでだ、一日に一度……いや、二日に一度でもいい。アイザックと言葉を交わせ。荒療治だが、これが一番手っ取り早い」

……簡単に言ってくれるなこの不摂生スズメは。

「都合がいい事に、アイザックはしばらくこの屋敷に滞在するらしいしな。挨拶から始めてみよう」

挨拶からって子供か?それより気になる単語が聞こえた。滞在だと?

「あの人自分の屋敷持ってるよね?何でわざわざ滞在する必要があるの?」

貴族が貴族の家に滞在することは良くあること。
だが、それは地方へ行った時に宿泊施設として借りる為だ。
同じ王都にいる人間がわざわざ滞在する意味がわからない。

「それはな、お前の兄が引き止めたからだな。お前、明日誕生日だろ?その為にアイザックを呼んだらしい。こちらが招待したのだから、ゆっくりしていってくれってな」

忘れてた……明日は私の成人を祝う夜会が開かれるんだった。

なるほど。妹の成人の日を華やかに彩ろうと副団長であるアイザックを招待したのか。

(あの兄の考えそうな事だ……)

18年連れ添った兄妹だもの。それぐらい手に取るように分かる。

「悪霊回避、魂維持の為に頑張れ」

小さな羽根でポンッと励まされた……
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