悪霊令嬢、渋々生まれ変わったら悪霊になるきっかけになった元婚約者の孫に溺愛されました

甘寧

文字の大きさ
7 / 17

夜会という名の拷問……

しおりを挟む
18歳当日。本日も晴天なり。
私は今、夜会という名の拷問会場へとやって来ています。

朝から侍女達に磨かれ着飾られ、それはそれは美しく化けました。周りの男共が振り返るほどには化けた。

(まあ、元がいいからね)

「……孫にも衣装……」

ふふんっと胸を張って歩いていると、肩に乗ったスズメがボソッとつぶやいた。

「──あらあら?ライさんはお料理の仲間入りしたいのかしら?いいわよ、手伝ってあげる」

すぐにスズメを握りしめ、毛を毟る仕草をすると「すみません!!調子に乗りました!!」と必死に謝ってきた。
本当に毟ってやろうかと思ったが、ピーピー煩かったので仕方なく離してやった。

(神様のステーキなんてシャレにならないし)

そして、本日の主役らしく来てくれた人一人一人に挨拶して回った。
──が、会場を見渡してもアイザックの姿は見当たらなかった。

イアンは何処ぞの令嬢と話をしている所を目撃したが、アイザックはいなかった。

私は心の中で大きくガッツポーズをした。

(よしよし、奴がいなきゃこんな夜会楽勝よ)

そう思ったのも束の間、令嬢達の黄色い悲鳴が聞こえてきた。
何事かと入口を見た瞬間ギョッとした。
何十本あるんだ?と思ってしまうほどの真っ赤なバラの花束を抱えたアイザックがそこにはいた。

あまりの衝撃的な登場シーンに動けずにいる私の元へと奴はやって来た。

「シンシア嬢、お誕生日おめでとうございます」

「あ、ありがとう……ございます」

渡された花束を受け取ろうとした際にアイザックの手に触れてしまった。
その瞬間、ボワッ!!と全身の鳥肌が立った。

「頑張れ!!抑え込むんだ!!負けるんじゃない!!」

耳元でライが励ましてくれている。
グッ!!と気持ちを落ち着かせ、その場で深呼吸──うん。堪えた。

「──昨日は急に倒れて驚きましたが、元気そうで安心しました」

今すぐこの場から消えたいのに、目の前の男は簡単には離してくれない。
礼装服姿のアイザックは、色気のある美男。
それに付け加え役職は副団長、爵位は公爵ときた。
周りの令嬢達は一目でもお目にかかろうと必死でアピールしている。

流石は孫。ダロンも人気はあったけど、アイザック程では無かった……気がする。

「ご心配おかけして申し訳ありません。お詫びと言っては何ですが、本日は楽しんで行ってください」

ザ・社交辞令。

とりあえず、ライの『アイザックと一日一言』のノルマはこなした。これ以上アイザックと一緒にいれば私の精神がもたない。

「では、これで……」と頭を下げ、その場を後にしようとした。……──が、アイザックが私の前に立ちはだかり先に進めない。

「……あの……まだ何か?」

こっちは精神ギリギリなんだよ!!と心の中で叫びつつも平静を装た。

「ええ。病み上がりのシンシア嬢が無理をしないよう私がお側に付いていようと思いまして」

ニッコリ微笑む姿は気を抜いたら絞め殺してしまいそうな程ダロンに似ている。

「マジでやめてくれ!!」と叫びたいところをグッと堪えた。
偉い私。やればできる子。

「……副団長様にそのような事をさせる訳にはいきません。私は本当に大丈夫ですので、他のご令嬢達と楽しんでくださいませ」

「そうはいきません。私は貴方を祝う為にやって来たのです。他のご令嬢と話す為ではありません」

「いいから早くどっか行けよ!!」なぁんて言いたいのに言えないもどかしさ……

なんだこの男?ダロンの孫でしょ?
言っちゃなんだが、ダロンは爵位の低い貴族には無関心だった。恋は盲目と言われている通り、あの当時の私はそれが普通だと思っていた。
だから、悪霊になってからそれが蔑視なんだと気付かされた。

(私も馬鹿よね。気付こうと思えば気付けたのに……)

悪霊になって気付かされたことも沢山ある。
だから、悪霊になってたのもいい人生勉強だったってことだよね。

まあ、それはさておき、この場をどう乗り切ろうか……

アイザックを見れば見るほどダロンを連想させる。
そして、見れば見るほど心の奥底の闇が湧き出てくるのが分かる。

(これ以上は無理だ!!)

また暴走させてしまう!!そう思った瞬間。

「……まったく。私に何度手間を掛けさせれば気が済むんだお前は?」

そう言いながら、私の肩を抱き寄せたのは……

「……ライ……?」

「ああ」

いつもの神様の姿ではなく、礼装服を着た見目麗しい男がそこにいた。

ライは私の肩を抱きながら闇の部分を抑え込んでくれているようで、気持ちが軽くなった。

(助かった……)

そう思ったのも束の間。ライの美しさに矢を打たれたご令嬢達がこぞってライを取り囲み、何処の子息か婚約者はいるのか根掘り葉掘り聞きだした。

その令嬢達に揉みに揉まれ、ようやく抜け出せた時には髪と服はボロボロ。とても夜会にいられる状態ではなくなった。

(丁度いいからこの騒ぎに乗じて逃げてしまう)

という事で、会場を抜け出した私は夜風に当たろうとボロボロの格好でいつもの木の上へ。

「昼間の景色もいいけど、夜は夜で素敵ね」

町の光があちらこちらから見えて、ちょっとした夜景を楽しめた。

「──やっぱりここでしたか」

木の下から声がかかった。
姿を見なくても分かる。アイザックだ……

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜

平山和人
恋愛
王国宰相の地位を持つ公爵ルカと結婚して五年。元子爵令嬢のフィリアは、多忙な夫の言葉「君は自由に生きていい」を真に受け、家事に専々と引きこもる生活を卒業し、突如として身一つで冒険者になることを決意する。 レベル1の治癒士として街のギルドに登録し、初めての冒険に胸を躍らせるフィリアだったが、その背後では、妻の「自由」が離婚と誤解したルカが激怒。「私から逃げられると思うな!」と誤解と執着にまみれた激情を露わにし、国政を放り出し、精鋭を率いて妻を連れ戻すための追跡を開始する。 冒険者として順調に(時に波乱万丈に)依頼をこなすフィリアと、彼女が起こした騒動の後始末をしつつ、鬼のような形相で迫るルカ。これは、「自由」を巡る夫婦のすれ違いを描いた、異世界溺愛追跡ファンタジーである。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

処理中です...