42 / 110
稽古
しおりを挟む
ノアに案内されて着いた場所は、四方が壁に囲まれた広い広場のような場所だった。
すでにたくさんの騎士たちが互いに練習用の剣を持ち、打ち合いをしている。
「危ないから、あんたはここで見てろ。もしかしたら折れた刃先が飛んでくるかもしれないからな」
広場から数メートルほど離れた木の下辺りで、ノアはミレールに持っていた籠を渡していた。
「今、椅子を持ってきてやるから、大人しく待ってろ」
「いえ! 立って見てますから、お気遣いなく……!」
迷惑にならないように言ったが、その前にノアは走って行ってしまった。
そして急いで椅子を持ったまま走って戻ってきた。
「ほら、ちゃんと座ってろ」
無造作に置かれた椅子に、無理やりミレールを座らせた。
「ありがとうございます。……ノア」
「ん? なんだ?」
「怪我のないように、頑張ってくださいね」
「――あぁ」
ノアの剣術をこの目で見れることが嬉しくて、笑顔でノアを見送る。
周りにいた騎士たちも、ミレールの存在に気づいたのか、ざわつきながらこちらを見ていた。
「行ってくる」
「えぇ。お気をつけて」
にこりと笑ったミレールに背を向けて、ノアは訓練所まで走って行ってしまった。
ミレールは持ってきた籠を膝の上に置いて、ノアの稽古する風景をずっと見つめていた。
(はぁ……、ノアはやはり強いですわ。あっ、今、不意打ちをして、お相手の方から一本勝ち取りましたわ!)
華麗な動きに圧倒的な強さ。
見ているだけで胸が高鳴るくらい、ノアの剣術は素晴らしかった。
(素人のわたくしが見ていても、ノアはとても強いですし、他の誰よりも素敵ですわ……! 今しか見れないかもしれませんしっ、ちゃんと目に焼き付けておかなくてはっ!)
感嘆のため息と共に、稽古が終わるまでミレールは食い入るようにノアの姿をずっと眺めていた。
小一時間くらい経った頃だろうか。
稽古も終わったのか、ノアは周りの騎士たちに肘で小突かれて、ニヤニヤされながら何かを話していた。
(ふふふっ、ノアにもこういった一面があるのですね。仲間の騎士の方たちだと、わたくしに見せている顔と全く違いますわ)
それを微笑ましく思う反面、どこか寂しく思っている自分がいた。
夫婦といっても、心も許せない相手では、こんな無邪気な笑顔も見せてくれないのだろう、と。
そんなことを思っていたら、ノアがなんだか遅い足取りでミレールの元まで近づいてきた。
走ってきていた先ほどと速度が全く違う。そしてノアを後ろから見ている同僚たちも生暖かい目でこちらの様子を伺っていた。
そして頭を掻きながら近づいて来たノアを、ミレールは不思議そうに見ていた。
「あー……、なんだ、その、あっちの連中が、あんたと挨拶したいって……」
珍しく言いづらそうなノアに、ミレールはきっと他の騎士たちにからかわれているんだろうと察した。
おそらく自分は良く思われていない。これまでのことを考えれば、きっとノアはミレールのような女と結婚して同情されているのだろう。
これも自分が通らなくてはいけない道なのだ、とミレールは腹を括った。
「えぇ。わかりましたわ」
せめて胸の内をノアに悟られないように、笑顔で返事を返した。
すでにたくさんの騎士たちが互いに練習用の剣を持ち、打ち合いをしている。
「危ないから、あんたはここで見てろ。もしかしたら折れた刃先が飛んでくるかもしれないからな」
広場から数メートルほど離れた木の下辺りで、ノアはミレールに持っていた籠を渡していた。
「今、椅子を持ってきてやるから、大人しく待ってろ」
「いえ! 立って見てますから、お気遣いなく……!」
迷惑にならないように言ったが、その前にノアは走って行ってしまった。
そして急いで椅子を持ったまま走って戻ってきた。
「ほら、ちゃんと座ってろ」
無造作に置かれた椅子に、無理やりミレールを座らせた。
「ありがとうございます。……ノア」
「ん? なんだ?」
「怪我のないように、頑張ってくださいね」
「――あぁ」
ノアの剣術をこの目で見れることが嬉しくて、笑顔でノアを見送る。
周りにいた騎士たちも、ミレールの存在に気づいたのか、ざわつきながらこちらを見ていた。
「行ってくる」
「えぇ。お気をつけて」
にこりと笑ったミレールに背を向けて、ノアは訓練所まで走って行ってしまった。
ミレールは持ってきた籠を膝の上に置いて、ノアの稽古する風景をずっと見つめていた。
(はぁ……、ノアはやはり強いですわ。あっ、今、不意打ちをして、お相手の方から一本勝ち取りましたわ!)
華麗な動きに圧倒的な強さ。
見ているだけで胸が高鳴るくらい、ノアの剣術は素晴らしかった。
(素人のわたくしが見ていても、ノアはとても強いですし、他の誰よりも素敵ですわ……! 今しか見れないかもしれませんしっ、ちゃんと目に焼き付けておかなくてはっ!)
感嘆のため息と共に、稽古が終わるまでミレールは食い入るようにノアの姿をずっと眺めていた。
小一時間くらい経った頃だろうか。
稽古も終わったのか、ノアは周りの騎士たちに肘で小突かれて、ニヤニヤされながら何かを話していた。
(ふふふっ、ノアにもこういった一面があるのですね。仲間の騎士の方たちだと、わたくしに見せている顔と全く違いますわ)
それを微笑ましく思う反面、どこか寂しく思っている自分がいた。
夫婦といっても、心も許せない相手では、こんな無邪気な笑顔も見せてくれないのだろう、と。
そんなことを思っていたら、ノアがなんだか遅い足取りでミレールの元まで近づいてきた。
走ってきていた先ほどと速度が全く違う。そしてノアを後ろから見ている同僚たちも生暖かい目でこちらの様子を伺っていた。
そして頭を掻きながら近づいて来たノアを、ミレールは不思議そうに見ていた。
「あー……、なんだ、その、あっちの連中が、あんたと挨拶したいって……」
珍しく言いづらそうなノアに、ミレールはきっと他の騎士たちにからかわれているんだろうと察した。
おそらく自分は良く思われていない。これまでのことを考えれば、きっとノアはミレールのような女と結婚して同情されているのだろう。
これも自分が通らなくてはいけない道なのだ、とミレールは腹を括った。
「えぇ。わかりましたわ」
せめて胸の内をノアに悟られないように、笑顔で返事を返した。
応援ありがとうございます!
13
お気に入りに追加
2,582
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる