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自信
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確かにここまで数多くの異国のお茶など、貴族の子女でも飲むこともないのでわからないだろう。
だが、ミレールは杏の時に飲んだ様々な国のお茶の味を覚えている。
「左端から、ルイボス、レモングラス、ローズヒップ、ウバ、アールグレイ……ですわ」
懐かしい味がすると思っていたが、これは妊娠期間中によく飲んでいたものだった。
紅茶好きの杏だったが、子供がお腹にいるときや授乳中にはあまり紅茶を飲めなかったので、代わりにこうしたハーブティーを飲んでいたから覚えていた。
「ちなみに、ルイボス、レモングラス、ローズヒップはハーブティーです。ウバとアールグレイは紅茶に分類されますわ」
お茶が好きなら大体はわかるものばかりで、さほど悩むこともなくスラスラと答えられた。
以前の世界ではわりと普通にお店に置いてあり、それほど珍しいお茶でもなかったが、この国でハーブは薬草として使っているため、お茶にするという発想はまだなかったのだ。
「す、素晴らしいッ!!」
ミレールの答えに感嘆の声を上げたのは、お茶を配っていた異国の商人だった。
「ここまで完璧にお茶の種類を言い当てられる方がいらっしゃったとはっ! まことに素晴らしいですっ!! 一体どちらのご令嬢で!?」
「わたくしはオルノス侯爵家の者で、ミレール・オルノスと申しますわ。まぁ……、どこかの世間知らずな方々は、誤った呼び方をしているようですが?」
リアーノ伯爵令嬢率いるご令嬢方はミレールの冷ややかな視線を受け、皆一様に言葉に詰まっていた。
「――っ! もういいわッ! 下がりなさいッ!!」
「ひっ! 失礼いたしました!」
異国の商人はその場から立ち上がった伯爵令嬢に一喝され、慌てたようにその場から立ち去っていった。
静まり返った庭園にリアーノ伯爵令嬢の声が響き渡っている。
「ノア様は貴女との婚姻など、望んでいなかったのよ! 私との婚約も進んでいたのにっ! 王太子殿下に相手にされないからって、貴女が無理やりノア様を奪い取ったんだわッ!!」
あからさまな嫉妬を剥き出しにし、怒りを携えた瞳はとても力強く、少し前のミレールなら蹴落とされていただろう。
それにミレール自身なぜかわからないが、言われている事とはまた別に、この令嬢に対する憎悪のようなものがずっと湧いており、心の中でもやもやしながら蟠っていた。
自分の中でこの感情を抑えていないと、何かが出てきて爆発してしまいそうな、そんな感覚だった。
「それは悪いことをいたしましたわ。ですがノアは、貴女ではなく、このわたくしを選んでくれましたの」
ミレールも席から立ち上がり、コツコツと静かに歩きながら相手を見据えて話していく。
普段なら相手にせず黙って去っているのだが、その感情を抑えきれず思わず言い返してしまった。
ミレールはできるだけこの負の感情を抑えるように、リアーノ伯爵令嬢の前までくると、余裕の表情でにこり微笑んだ。
「何を言っているの! 元々ノア様の意思ではなかったはずよっ!!」
確かにこの令嬢の言うことは間違っていない。
前までの自分なら言い返すことはできなかっただろう。
だが今はノアがミレールを選び、そして好きだと言ってくれた。その事実がミレールの中で揺るぎない自信となり、こうして嘘偽りのない言葉を言うことができている。
「貴女にそんなことがおわかりになるの? ノアは毎晩のようにわたくしを求めて、夜通し愛してくれますわ。こうして自分のモノだという印まで付けてくれるほどに……」
首元の髪を片手で後ろへ払い、わかりやすく昨夜ノアが付けた痕を見せた。
「あ、貴女が、ノア様に無理やりさせているんでしょう!?」
「そこまで疑うのでしたら、直接本人に聞いてみてはいかがかしら? まぁ、聞けるのなら、ですけど」
「くッ……!」
リアーノ伯爵令嬢は言い返すことができないのか、悔しそうに手を握り締めて怒りに震えていた。
これ以上の話し合いはお互いのために良くないと悟り、庭園の入口の方へと歩いていく。
「まだ話は終わっていないわッ!」
「申し訳ありませんが、そろそろ夫が帰ってまいりますので失礼いたしますわ。ノアはわたくしが出迎えないと、とても機嫌を損ねてしまいますの。……それでは皆さま、ごきげんよう」
「なっ! お待ちな――!」
ミレールは冷然と微笑み、振り返ることなくその場をあとにした。
だが、ミレールは杏の時に飲んだ様々な国のお茶の味を覚えている。
「左端から、ルイボス、レモングラス、ローズヒップ、ウバ、アールグレイ……ですわ」
懐かしい味がすると思っていたが、これは妊娠期間中によく飲んでいたものだった。
紅茶好きの杏だったが、子供がお腹にいるときや授乳中にはあまり紅茶を飲めなかったので、代わりにこうしたハーブティーを飲んでいたから覚えていた。
「ちなみに、ルイボス、レモングラス、ローズヒップはハーブティーです。ウバとアールグレイは紅茶に分類されますわ」
お茶が好きなら大体はわかるものばかりで、さほど悩むこともなくスラスラと答えられた。
以前の世界ではわりと普通にお店に置いてあり、それほど珍しいお茶でもなかったが、この国でハーブは薬草として使っているため、お茶にするという発想はまだなかったのだ。
「す、素晴らしいッ!!」
ミレールの答えに感嘆の声を上げたのは、お茶を配っていた異国の商人だった。
「ここまで完璧にお茶の種類を言い当てられる方がいらっしゃったとはっ! まことに素晴らしいですっ!! 一体どちらのご令嬢で!?」
「わたくしはオルノス侯爵家の者で、ミレール・オルノスと申しますわ。まぁ……、どこかの世間知らずな方々は、誤った呼び方をしているようですが?」
リアーノ伯爵令嬢率いるご令嬢方はミレールの冷ややかな視線を受け、皆一様に言葉に詰まっていた。
「――っ! もういいわッ! 下がりなさいッ!!」
「ひっ! 失礼いたしました!」
異国の商人はその場から立ち上がった伯爵令嬢に一喝され、慌てたようにその場から立ち去っていった。
静まり返った庭園にリアーノ伯爵令嬢の声が響き渡っている。
「ノア様は貴女との婚姻など、望んでいなかったのよ! 私との婚約も進んでいたのにっ! 王太子殿下に相手にされないからって、貴女が無理やりノア様を奪い取ったんだわッ!!」
あからさまな嫉妬を剥き出しにし、怒りを携えた瞳はとても力強く、少し前のミレールなら蹴落とされていただろう。
それにミレール自身なぜかわからないが、言われている事とはまた別に、この令嬢に対する憎悪のようなものがずっと湧いており、心の中でもやもやしながら蟠っていた。
自分の中でこの感情を抑えていないと、何かが出てきて爆発してしまいそうな、そんな感覚だった。
「それは悪いことをいたしましたわ。ですがノアは、貴女ではなく、このわたくしを選んでくれましたの」
ミレールも席から立ち上がり、コツコツと静かに歩きながら相手を見据えて話していく。
普段なら相手にせず黙って去っているのだが、その感情を抑えきれず思わず言い返してしまった。
ミレールはできるだけこの負の感情を抑えるように、リアーノ伯爵令嬢の前までくると、余裕の表情でにこり微笑んだ。
「何を言っているの! 元々ノア様の意思ではなかったはずよっ!!」
確かにこの令嬢の言うことは間違っていない。
前までの自分なら言い返すことはできなかっただろう。
だが今はノアがミレールを選び、そして好きだと言ってくれた。その事実がミレールの中で揺るぎない自信となり、こうして嘘偽りのない言葉を言うことができている。
「貴女にそんなことがおわかりになるの? ノアは毎晩のようにわたくしを求めて、夜通し愛してくれますわ。こうして自分のモノだという印まで付けてくれるほどに……」
首元の髪を片手で後ろへ払い、わかりやすく昨夜ノアが付けた痕を見せた。
「あ、貴女が、ノア様に無理やりさせているんでしょう!?」
「そこまで疑うのでしたら、直接本人に聞いてみてはいかがかしら? まぁ、聞けるのなら、ですけど」
「くッ……!」
リアーノ伯爵令嬢は言い返すことができないのか、悔しそうに手を握り締めて怒りに震えていた。
これ以上の話し合いはお互いのために良くないと悟り、庭園の入口の方へと歩いていく。
「まだ話は終わっていないわッ!」
「申し訳ありませんが、そろそろ夫が帰ってまいりますので失礼いたしますわ。ノアはわたくしが出迎えないと、とても機嫌を損ねてしまいますの。……それでは皆さま、ごきげんよう」
「なっ! お待ちな――!」
ミレールは冷然と微笑み、振り返ることなくその場をあとにした。
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