令嬢に転生したけど婚約破棄されたので侍女として成り上がります。

北南東西

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「何をしているんだ、貴様は…。」

玄関ホールの蜘蛛の巣を取り除いていると、いかにも不機嫌そうな声色の領主さまに声をかけられる。

「あら、ゼルレッジ様。おはようございます。見て分かりませんか。掃除ですよ。」
「それは分かる。だが、何故お前がやっているのかを聞いている。」
「ただ単純に住まわせ頂いている家の役に立とうと思った次第です。一応、セバスさんには許可を頂いたのですが、私に掃除をさせられると何か不都合な事があるのですか?」
「フンッ、勝手にするがいい。」

さて当主の許可も頂いたことだし、気張っていきますか。マーティナ家の屋敷はテールミス家の屋敷に比べるとだいぶ小さいが、それでも八畳の部屋が7つ、十畳ほどのダイニングと厨房にトイレらしき部屋、そして謎の開かずの間。いずれも、1人で清掃を行うには大変だ。セバスさんはすごい。それともう一つ困った点が、掃除器具が前世の便利グッズに慣れ親しんだ私には扱いづらかった。
セバスさんから借りた器具は、いかにも魔女が乗っていそうな箒と雑巾に桶、汚れを落とすための植物性の油が入った瓶だった。
当たり前だが、この世界はまだ技術が進歩していないようで、掃除機とかクイッ○ルワイパーのような便利グッズはもちろんのこと、掃除用洗剤がなかった。

「くぅ~、前世の掃除グッズは偉大だったんだな~。」

無くなった今だからこそ、その存在ありがたみが分かる。しかし、やるしかない。環境が悪くても戦うなり、逃げるなりして行動を起こすしかない。

---夕暮れ時---

「フゥー!ようやく1階の掃除は粗方終わった。」

精魂込めて掃除したおかげか、大分綺麗に見える。だから、2階の掃除は明日でいいよね。先延ばしするための理由を考えていると、玄関の扉が開く。

「おぉ~!いやはや別の屋敷に迷い込んだかと思いましたぞ。」
「フフッ。セバスさんたら、お上手ですね。」

入ってきたのはセバスさんと領主さまだった。あちこちを駆け回ったのだろうか、2人の顔に疲れが見えた。

「ずいぶんとお疲れの様ですが、どちらに?」
「あぁ、工房への視察ですよ。」
「工房?」
「えぇ、ゼルレッジ様が営んでいる商いの1つで、職人達に庶民向けの生活品を作っては売り捌いているのですよ。」
「まぁ、すごい!」
「えぇ、ゼルレッジ様のご慧眼は冴え渡るものがあります。しかし、その商いに関しては…」
「セバス、腹が減った食事の準備を頼む。」
「あぁ、失礼致しました。すぐにご用意致します。」
「あ、夕食でしたら既にご用意してあります。」
「何?」
「何ですと、シェルエッタ様が?」
「はい、遅くまで出かけるとの事でしたので
軽く…。」
「料理なぞした事もない貴族の娘がでしゃばった真似をしよって。この肥えた俺の舌を満足させられると満足できると思わないことだな。」


「う、うまいっ。」

ダイニングに領主さまの声が響く。
ははーん、ただの貴族の娘だと思って甘く見たな。こちとら、節約のため毎日自炊してるんだ。前世と比べて食文化もまだまだ未発達であろう、この世界の住人の胃袋を掴むなんてことわけないわ。ちなみにメニューはシチューにしてみた。

「うむ、美味ですな。初めに料理を見た時は少々不安でしたが、食してみると複雑な味わいを醸し出しつつ、よくまとめられている。」

た、確かに見た目とかはそこまで意識してしてなかったな。今度から気を付けよう。

「いやはや、驚きですな。ここまで料理の腕が高いとは。」
「フ、フンッ。セバスの腕に比べればまだまだだがな。」

と言いつつ、領主さまはシチューとパンを頬張る。
どうやら、令嬢が料理をするのが珍しいのだろう。まぁ、料理なんて使用人にやらせるのが普通か。

夕食が終わり、食器を片付けて部屋に向かうとドアノブに麻袋がかかっていた。
警戒しながら袋をの中身を見ると銀貨が1枚入っていた。セバスさんだろうか。いや、セバスさんなら直接私に来るだろう。だとすれば…。

「フフッ。素直じゃないのね。」

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