最強令嬢の秘密結社

鹿音二号

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26:『輪舞曲』の勉強会3

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勉強会と言ってもそれぞれが自主的にする勉強を集まってする方法だ。
ただ、分からないところをすぐに聞けるというところは良いところだろう。
そして、ミズリィはなんとなく、

(ガヴァネスよりも分かりやすい答えが返って来ますわ)

と、思った。

「これなのですけれど、この事件のことを覚えていなくって」
「ああ、それは……」

スミレは資料があるところを指しながら、ミズリィが分かるまで教えてくれる。アリッテルやオデットはたまにそれに聞き入っている。

「……なるほどですわ」
「まあ、そうなのね、見落としていたわ」

そして、ノートに書き込んでいる。

「その、スミレ」
「はい、なんでしょう」
「ノートはどうやって書くのかしら」

質問が唐突だったのか、今までなんでも答えてくれていたスミレが動きを止めた。

「……ああ、ええと」
「しかたがないですわね、私のをご覧なさい」

アリッテルがさっと自分のノートをミズリィの前に持ってきた。

「失礼しますね」
「まあ、良くまとまっているわぁ」
「ふうん、飛び級するだけあるね」
「んまあああ!イワン・ビリビオ!あなたは見る必要がないはずですわ!」
「楽しそうだな、私も見せてくれ」

わらわらとミズリィに周りに人だかりができた。

「ふふ」
「笑ってないで、はやく見てくださらない!?」

アリッテルは恥ずかしかったのか、頬を染めながら催促する。オデットがそれを見てとろけるような笑みを浮かべている。

「……ああ、いっぱい書かれているわ」
「そうじゃなくって!」
「ミズリィ様。アリッテル様のノートはきれいで簡潔でとてもよいですけど、きれいじゃなくてもいいんですよ」

と、スミレは自分のノートも持ってきて、比べられるように近くに置いた。
たしかに、すこし乱雑な印象を受ける。

「自分が分かればいいので、私なんかは思いついたことを走り書きしちゃうので、余計なことを書いてしまうんです。ここは課題のところですけど、ほら、下に小さい文字のはあとから調べようって思ったことです」
「そうなのですね」
「覚えておきたいことは必ず書くこと、くらいでしょうか、基本は。ほらここ、重要ってわかるように丸を書いてあります、こんなふうに」
「書いておけば、あとから見返したときに思い出すだろ」

イワンも自分のノートを手にとって見ながら、

「あとは書くときの位置が大切だけど……それは慣れてきた頃だな」
「ノートってあとから見返すものなのですね」

書くのに必死で、それで終わったつもりになっていたのだけれど。

「……そうだよ。……ガヴァネスは何をやってたんだ……」

イワンがぶつぶつと呟いていたが、ミズリィには良く聞こえなかった。ただ、隣のメルクリニは苦笑していた。

「忘れないためにと、あとは私みたいに考えていることを整理するためにノートを書きます。なにを書いても良いんです、重要だと思うことを書いてください」
「重要なこと……」

今話しているのはノートのことだけれども、ミズリィには思い出したことがあった。
処刑されたあと、この時間に戻ってきたときになんとなく取ったメモは、部屋の引き出しにしまってある。忘れていたけれど。
重要かなにかも分からず、ただ書いただけだけれども、見返したらなにか分かることがあるかもしれない。

「例えば、「ここテストに出るんですよ」って教師に言われたら絶対に書くこと」
「大体はテストに出ますわ。ので、覚えなさい、重要です、ってことですわ」

イワンが教師のマネをして教鞭を叩く身振りをする。
アリッテルがそれをジト目で見て言い足す。それをオデットが微笑んで見ている。

「テストに出るってことは、すごく重要、というか、先生が覚えて欲しい、理解して欲しい、ってところなので、ともかく――」

スミレはずいっとミズリィの目を強く見つめた。

「ともかく、テストまでは覚えていてください」
「テストまで?それで良いの?」
「本当はちゃんと大人になっても覚えていてほしいけど、学院に在籍してる間の勉強なんてそんなにたくさん覚えられるわけがない」

イワンがまだ教鞭を持っているふりをしている。

「テストまでに覚えておけば、成績は取れるってもんだよ。それでじゅうぶんだ。卒業時に全部忘れたっていう皇宮魔術師(エリート)だっているらしいじゃないか」
「そんなものなのです?」
「はい。テストまでに学生がだいたいすることは、教科書と先生の言っていること、ノートをどれだけ覚えるか、ですね」
「理解など半分もしていればいいいだろう」

肩をすくめて笑うスミレと、腕を組んであっさりと言うメルクリニ。

「ノートはどうやったら自分がわかりやすく、覚えやすいか、そんなのでいいさ。誰に見せるわけでもないし……私は恥ずかしくて他人に見せられない」
「んまあメリー!私が恥知らずとおっしゃるの!?」
「いや、勇気があるなと」
「キィー!」
「まあまあ、でもとても美しいもの。このまま額に収めて飾っておきたい……」
「嫌ですわよ!?」

真っ赤になっているアリッテルには悪いけれど、とても可愛くておもしろい。
くすくす笑いながら、彼女のノートを返そうと、手を伸ばしたときに、ふとその単語が目に入った。

「……――『悪魔』」

どくん、と心臓が鳴る。

ミズリィは、先ほど友人たちに聞いたように、満足に勉強ができていない。
自分でも、最近は家にいるときも机に向かってはいるけれど、理解できず悩み、ほとんど手を付けられないままだ。
悪魔のことは、『今』に来て真っ先に学ぼうと思った。けれど、良くわからないままだ。

どうして、ミズリィが悪魔なんてものに間違われ、処刑されたのか。

「……ミズリィ様」

スミレがミズリィのつぶやきを聞き取ったのだろう、心配そうに顔を覗き込んでいる。

「大丈夫……ですか」
「……スミレ、お願いがあるの」

すこし前まで、この友人にまだ遠慮していた。
ミズリィが死なないように協力してくれるだけでありがたいのに、負担をこれ以上かけたくない。
なにより、頼りきりは以前のミズリィと一緒だった。

でも、本当に、ミズリィにはどうすればいいのか分からない。
友人を頼る以外に思いつかなかった。
悪魔のことを聞けるのは、今、この友人以外にはいないかもしれない。
教会も、皇家につながる人たちも、聞けない。聞いてはいけない、とどこかの本に書いてあった。

でも、どうしても、知らなければならない。

「悪魔、とは、どのようなものか、教えてください」
「それは……」

口を挟もうとしたのはイワンだった。けれど、スミレはさっと彼の前に手をかざした。

「分かりました。私も調べてみたので」
「……なんのお話ですの」

アリッテルが不思議そうに、というより、恐ろしいものを見るかのようにミズリィとスミレを見ている。イワンや、メリーも。
オデットは何も言わず微笑んでいる。

「ただ、私も少し不得意分野です。納得できるお話をするには……ここにいる皆さんの手を借りるしかないと思います」
「分かりましたわ」

きっと、大丈夫だ。

スミレがイワンとオデットは信頼できると言っているし、ミズリィの騎士に、メルクリニがなってくれた。
アリッテルは前には会ってすらいなかった、スミレのように。けれどもう友人だ。

「皆さまに、お願いがありますの」

ひとりひとりの顔を見ながら。

「わたくしを、助けてください」

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