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5.初めてづくし
しおりを挟む「大学はどうなの?」
「う~ん、まあまあ」
「わかりづらい反応ねぇ」
私の回答がどうやらおきに召さなかったようだ。お母さんの話は更に続きそう。
「ご飯はちゃんと食べてるの?近いんだから顔だしなさい。あとは戸締まりを」
「あーもう、大丈夫だよ!防犯のもつけたじゃん!来週には寄るから!」
まだ言い足りない様子のお母さんに、じゃあねっと言い、えいっと切るボタンに触れた。
「は~。お母さんの話は長いんだよね」
ゴロンと畳に体を投げ出した。
横を向けば、障子を開けた窓からオレンジと白とピンクの混ざったチューリップが風にゆられて気持ち良さそうだ。その近くには刈り込んであった紫陽花の枝から緑の葉がではじめている。
あの夢のような出来事から一週間。
私は、一人暮らしを始めていた。
何処に?
おばあちゃん家にだ。
この家からなら大学へ自転車で行けちゃうのでとっても便利。だからって戸建てに1人も少し寂しいけど。でも後悔はまったくない。
あのまだ半信半疑の異世界とやらから戻り、お母さんに遅いと怒られた後の夜、親戚の人達が夕食の場で言い争ったのだ。
今まで会ったこともないような人達が土地や遺産相続について、あーでもないと親達に言っていたのを見て私はキレた。
私は、何なんだと怒鳴った。
大人に怒鳴るなんて子供の時だってしたことがなかった。でも、お父さんやお母さん、お兄ちゃんは、私を叱らなかった。お兄ちゃんなんて、後でグッジョブ妹よ!と親指を立てた。
お兄ちゃん、恥ずかしいからその仕草やめてね。
亡くなったばかりで、しかも急過ぎた死は私達家族にとって気持ちがまったく追いついていないというのに、そんな状況でお金の話なんて許せなかったし、家を壊して売るとコストがかかると更に彼らは話し出したのだ。
そこで、「私が住みます!」と宣言したのだった。
私が言ったことで、さらに険悪になったけれど、お父さんが急いで決める事ではないと言いその場を収めた。
その後、日を改め大人達で話し合いおばあちゃんの貯金はかなりあったらしいけど、いらないからウチはこの家を引き継ぐ事で話はまとまったらしい。
「古い家だから土地だけの値段しかないの。処分したほうがいいのだろうけど、お母さんもこの家が好きなのよね」
あとまだ、あそこにいる気がして。そんなわけないんだけどね。いつも強気なお母さんがそう言い寂しそうに笑った。
──ああ。
私にとっては、おばあちゃんだけど、お母さんにとっても親なんだよね。当たり前の事なのにその時、私は初めて気づいたんだよ。
私は、尚更家を残したくなった。住まないと家は駄目になるって言うじゃない。私はお兄ちゃんを味方につけ、しぶる親を説き伏せ今にいたる。
「これからお金かかるよね。生活費ってどれくらいかかるのかな」
初めてで予測がたてられない。
電気でしょ、水道と私は指をまげながら考える。一番かかりそうなのは、あの出来事が本当だったら何とかなるかな。
ピロリン。
その時、セットしておいた携帯のアラームが鳴った。
「まだ信じられないんだけど約束したしなあ」
私は携帯を掴み、よいしょっと起き上がって近くに用意しておいたリュックを背負った。
「あっ肝心なのが」
いわゆるちゃぶ台と呼ぶ丸いテーブルの上に置いてある木の箱を開けた。
中には、不揃いの黄色かかった真珠の髪飾り。
それを手に取り姿見の前に立つ。
「おばあちゃん、いつも悩んだときは、まずは一歩を踏み出してみるって言っていたしね」
えいっと髪に留めた。
何の反応もない。
痛い子じゃんと思いつつも安堵した時。
「やっぱ夢だっ…じゃない?」
見覚えがあるキラキラとした光が髪飾りから出て、私を包んでいく。不思議な感覚の後、眩しさがなくなったので閉じていた目を開ければ。
「ユイ様、お時間ピッタリですわ」
私の記憶が正しければ、確かダリアちゃんという名前の女の子が、満面の笑みを浮かべ私の真ん前に立っていた。
うん。
夢じゃなかった。
私は、とりあえずダリアちゃんに、おはようございますと挨拶をしたのだった。
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