【完結】わたしのたまごだったセカイ

鳥谷綾斗(とやあやと)

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プロローグ

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 何かがひび割れたような音がした。


 わたしが購買でミルクティーを買って教室に戻った時、成実なりみ就也しゅうやの表情は固まっていた。

「……? どしたの、ふたりとも」

 さっき、夕焼けがさし込む廊下で遭遇した白昼夢みたいな出来事を話すのも忘れ、わたしは尋ねた。
 ふたりは答えない。熱々のミルクティーの缶を握る手が、じんわりと汗をかく。

羽鶴はづる……」

 成実が見開いた目でわたしを見ている。
 色つきリップを塗った唇が震えて、まるでこの世にいるはずのない化け物を前にしているような。

「どしたのってば、成実。就也、何かあったの?」

 就也が甘く整った顔を強ばらせて、無言でスマホの画面を見せてきた。
 そこには、


 【新世代声優育成企画・Arome CirCusアロマサーカスプロジェクト
  オーディション結果発表

  1.ラベンダー役:……
  2.ローズマリー役:……
  ……
  13.ジュニパー役:小山内おさない羽鶴(長野県プリューム養成所)】


 二人と一緒に受けた、オーディションの結果があった。
 わたしだけが合格していた。

 手に入れてしまった、のだ。
 声優になるという三人の夢の切符を、わたしだけが。


 ゴトン、と勝手にミルクティーが手から離れて床に落ちた。
 目の前のことが信じられなくて、わたしの口元が勝手に引きつった。
 成実と就也は、依然わたしを見つめている。

 その時に感じた、氷の針のような空気を。
 その時に向けられた成実と就也の視線を。
 わたしはおそらく、一生忘れないだろう。

 頭の中で、何かがひび割れたような音が、……した。
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