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第五章 本当の戦い
第76話 好奇心が人を動かす
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マリーダ=オートス、侯爵家の令嬢だ。
この世界の令嬢は、意外と冷遇されている。
すべてにおいて、お兄様が優先。
「女だからな、お前は礼儀作法を勉強して、将来の夫に尽くせ」
そんな感じで育てられた。
それは、家の位が高いほどその傾向が強い。
こちら側で、一部の女性が知ったら、界隈は炎上するだろう。
だが王国ではそれが常識。
今回いきなり求愛の告白。
彼女は、慣れないことに驚いてしまった。
突然の事で、頭がぐるぐるした結果、仕事を優先してしまう。
だが気になる。不躾だが、彼女はドアの脇から半身だけだし、王とクニーノと呼ばれる男性の様子をうかがう。
王と同じ系統の人、黒髪黒目。
背は一般の王国民より高い百七十センチほど。
王と同じく、目に掛からず耳にも掛からない程度に髪が切られている。
王国民は、適当に髪を切るため以外と皆長髪だ。
切れ長の目、そして王国にはいない細面。
そう、結構きつく見える顔。
だが、欧米系の顔が多数を占める王国においてはマイノリティな人種、その姿は彼女の好奇心を大いにかき立てる。
そもそも、こちらの人間の中で百七十センチもあれば、頭一つ高いくらいである。
遺伝子の働きにより、女性は身長の高い男性を求める。
「良いかも、ですが身分が」
ぼそっと、そんな事を漏らす。
彼女の、決まり切ったような人生に諦め、漫然と生きていた心に何かが灯る。
マリーダ=オートス十五歳、好奇心に満ちたお年頃。
成人を機に、こちらのお屋敷へやって来た。
無論、父親としては、できれば王の下に入ってくれれば万々歳。だが、格上の家に嫁げばそれで良いとも思っていた。
そう、王国基準では飛び抜けて美形というわけでは無い。実の娘だが、あまり期待もしていなかった。
国野 紡三十歳との出逢いは、彼女にとって幸か不幸か、今はまだ判らない。
判っているのは、日本ならアウトと言うことだけ。
「申し訳ありません」
「いやまあ、体におかしな所は無いか?」
「はい」
いま、神野 龍一は普通だ。
あの時は、ドラゴンにでも睨まれたような気がした。
「それで日本はなんと?」
「はっ、よければ、判断材料。それを調査させていただきたいと思います」
これは本当。
情報の少なさが、双方にとって不幸となる可能性がある。
「ああいいぞ。そちらが気になっていたように、武器は色々ある。この国、基本的には中世だから、自分の身は自分で守らなきゃいけない。専守防衛よりは、多少攻撃的だな」
「あの、まさか核とか?」
思いっきり突っ込んで聞く。
だが、それの答えが意外だった。
「魔法か? それなら俺達全員がそのレベルだ」
「はっ?」
「核と違ってクリーンだぞ。無論意識次第だが」
そんな事を言って笑う。
中庭で見た光景。
そう彼女は、まだ初心者。
あの火球が攻撃に使われれば、どんな威力が?
そうそうそう、魔法、そのワードが彼の心を刺激する。
紡の心に、何かが灯る。
「魔法って、誰でも使えますか?」
「どうだろうな? 陽愛は…… 素養があったようだが」
まさか、自分と繋がっているときに能力が花開いたとは言えない。男相手に試す気は当然無いが。
「向こうを向け、背中を触るぞ」
そう言われて、恐怖も何もなくワクワクが心を支配する。
すると、背中。
手が触れている所から、近距離で電気ストーブに炙られているような熱を感じる。
「熱っ」
「うん? 熱い」
その言葉を聞いて、マリーダが飛び込んでくる。
「王様駄目です。魔力は固有、相性があるのです。熱いという事なら背中を火傷しています」
「そうなのか」
そう言って、得意な治癒魔法が発動。
「あっ治った」
「マリーダは詳しいのか?」
「貴族の子弟は、幼少の頃から訓練をいたしますので、天賦の才だけで魔法を使われる王様よりは詳しいと思います」
あわてて答えた内容が、ものすごく失礼だと後で気がつくマリーダ。
だがその時は、別の感情が彼女を突き動かしていた。
「本来なら、魔法師団にでも放り込めば良いのだろうが、マリーダ。おまえ、国野さんに付いて案内と魔法の指導をしてやれ」
「えっあっはい。よろしくお願いいたします」
真っ赤になって挨拶。
それを聞いて、紡は心の中でトリプルアクセルを決める。
「ご配慮いただきまして、ありがとうございます」
素直に礼を言う。
「客室を一つ、自由に使って良いからな」
「はい。ではご案内いたします」
心持ち、軽やかな足取りで彼を案内していく。
「やれやれ、魔力に相性があるのか。気を付けよう」
そうぼやきながら、おもしろくなりそうだと笑みがこぼれる。
無論心情を知った上でのいたずら。
手を出してしまえ。
「マリーダは来ばかりだから十五歳だよな」
「そうでございます」
「この世界の女性は積極的だからなぁ、手を出せば王国で保護してあげよう。国野さんは我慢出来るかな? マリーダがんばれ」
そう言って、嬉しそうに笑う龍一だった。
一方、豪華な客間に通された紡。
客室だけで、三つの部屋と、応接室、小さめだが十分なキッチン。すべてが八畳とか十畳ほど。建具や調度品はちょっと怖くて触れないレベル。無論木製が多いが、ちょっとした所に宝石が使われているようだ。
「ここを、使用してください。そしてお手を」
促されて、ソファーに座る。
そして両手をだすと、彼女は床に膝立ちとなる。
自分の視線の下、膝の間に彼女が入り込み、膝立ち。
心の中の何かを刺激し、マリーダの目の前で何かが元気になりそうになる。
「あっいや、マチ、マリーダさんもこちらへ」
そう促すが。
「両手を持ち魔力を流します、側方からというのはやりにくいですし」
そう言われて、床に敷かれている虎っぽい毛皮に二人して座り込むのは何か違う。
キョロキョロ見回し奥の部屋に見えたベッド。
とんでもない話しだが、彼は、マリーダをベッドに誘う。
「あそこなら、向かい会って座れます」
紡は安易な解決策を提示したのみだが、誘われた方は、まあなんと言うことでしょう。いきなりベッドへのお誘い。
積極的な行動。
「あっはい」
子供の頃から、男女の営みも貴族の子弟なら教育をされている。生きることの大前提が、子をなし家を継がせることなのだから。
そう答えたが、侍女にも拒否権がある。
だが…… 様々な好奇心が、彼女を突き動かす。
私、どうなるのでしょう。なんだかふわふわしますわ。
この世界の令嬢は、意外と冷遇されている。
すべてにおいて、お兄様が優先。
「女だからな、お前は礼儀作法を勉強して、将来の夫に尽くせ」
そんな感じで育てられた。
それは、家の位が高いほどその傾向が強い。
こちら側で、一部の女性が知ったら、界隈は炎上するだろう。
だが王国ではそれが常識。
今回いきなり求愛の告白。
彼女は、慣れないことに驚いてしまった。
突然の事で、頭がぐるぐるした結果、仕事を優先してしまう。
だが気になる。不躾だが、彼女はドアの脇から半身だけだし、王とクニーノと呼ばれる男性の様子をうかがう。
王と同じ系統の人、黒髪黒目。
背は一般の王国民より高い百七十センチほど。
王と同じく、目に掛からず耳にも掛からない程度に髪が切られている。
王国民は、適当に髪を切るため以外と皆長髪だ。
切れ長の目、そして王国にはいない細面。
そう、結構きつく見える顔。
だが、欧米系の顔が多数を占める王国においてはマイノリティな人種、その姿は彼女の好奇心を大いにかき立てる。
そもそも、こちらの人間の中で百七十センチもあれば、頭一つ高いくらいである。
遺伝子の働きにより、女性は身長の高い男性を求める。
「良いかも、ですが身分が」
ぼそっと、そんな事を漏らす。
彼女の、決まり切ったような人生に諦め、漫然と生きていた心に何かが灯る。
マリーダ=オートス十五歳、好奇心に満ちたお年頃。
成人を機に、こちらのお屋敷へやって来た。
無論、父親としては、できれば王の下に入ってくれれば万々歳。だが、格上の家に嫁げばそれで良いとも思っていた。
そう、王国基準では飛び抜けて美形というわけでは無い。実の娘だが、あまり期待もしていなかった。
国野 紡三十歳との出逢いは、彼女にとって幸か不幸か、今はまだ判らない。
判っているのは、日本ならアウトと言うことだけ。
「申し訳ありません」
「いやまあ、体におかしな所は無いか?」
「はい」
いま、神野 龍一は普通だ。
あの時は、ドラゴンにでも睨まれたような気がした。
「それで日本はなんと?」
「はっ、よければ、判断材料。それを調査させていただきたいと思います」
これは本当。
情報の少なさが、双方にとって不幸となる可能性がある。
「ああいいぞ。そちらが気になっていたように、武器は色々ある。この国、基本的には中世だから、自分の身は自分で守らなきゃいけない。専守防衛よりは、多少攻撃的だな」
「あの、まさか核とか?」
思いっきり突っ込んで聞く。
だが、それの答えが意外だった。
「魔法か? それなら俺達全員がそのレベルだ」
「はっ?」
「核と違ってクリーンだぞ。無論意識次第だが」
そんな事を言って笑う。
中庭で見た光景。
そう彼女は、まだ初心者。
あの火球が攻撃に使われれば、どんな威力が?
そうそうそう、魔法、そのワードが彼の心を刺激する。
紡の心に、何かが灯る。
「魔法って、誰でも使えますか?」
「どうだろうな? 陽愛は…… 素養があったようだが」
まさか、自分と繋がっているときに能力が花開いたとは言えない。男相手に試す気は当然無いが。
「向こうを向け、背中を触るぞ」
そう言われて、恐怖も何もなくワクワクが心を支配する。
すると、背中。
手が触れている所から、近距離で電気ストーブに炙られているような熱を感じる。
「熱っ」
「うん? 熱い」
その言葉を聞いて、マリーダが飛び込んでくる。
「王様駄目です。魔力は固有、相性があるのです。熱いという事なら背中を火傷しています」
「そうなのか」
そう言って、得意な治癒魔法が発動。
「あっ治った」
「マリーダは詳しいのか?」
「貴族の子弟は、幼少の頃から訓練をいたしますので、天賦の才だけで魔法を使われる王様よりは詳しいと思います」
あわてて答えた内容が、ものすごく失礼だと後で気がつくマリーダ。
だがその時は、別の感情が彼女を突き動かしていた。
「本来なら、魔法師団にでも放り込めば良いのだろうが、マリーダ。おまえ、国野さんに付いて案内と魔法の指導をしてやれ」
「えっあっはい。よろしくお願いいたします」
真っ赤になって挨拶。
それを聞いて、紡は心の中でトリプルアクセルを決める。
「ご配慮いただきまして、ありがとうございます」
素直に礼を言う。
「客室を一つ、自由に使って良いからな」
「はい。ではご案内いたします」
心持ち、軽やかな足取りで彼を案内していく。
「やれやれ、魔力に相性があるのか。気を付けよう」
そうぼやきながら、おもしろくなりそうだと笑みがこぼれる。
無論心情を知った上でのいたずら。
手を出してしまえ。
「マリーダは来ばかりだから十五歳だよな」
「そうでございます」
「この世界の女性は積極的だからなぁ、手を出せば王国で保護してあげよう。国野さんは我慢出来るかな? マリーダがんばれ」
そう言って、嬉しそうに笑う龍一だった。
一方、豪華な客間に通された紡。
客室だけで、三つの部屋と、応接室、小さめだが十分なキッチン。すべてが八畳とか十畳ほど。建具や調度品はちょっと怖くて触れないレベル。無論木製が多いが、ちょっとした所に宝石が使われているようだ。
「ここを、使用してください。そしてお手を」
促されて、ソファーに座る。
そして両手をだすと、彼女は床に膝立ちとなる。
自分の視線の下、膝の間に彼女が入り込み、膝立ち。
心の中の何かを刺激し、マリーダの目の前で何かが元気になりそうになる。
「あっいや、マチ、マリーダさんもこちらへ」
そう促すが。
「両手を持ち魔力を流します、側方からというのはやりにくいですし」
そう言われて、床に敷かれている虎っぽい毛皮に二人して座り込むのは何か違う。
キョロキョロ見回し奥の部屋に見えたベッド。
とんでもない話しだが、彼は、マリーダをベッドに誘う。
「あそこなら、向かい会って座れます」
紡は安易な解決策を提示したのみだが、誘われた方は、まあなんと言うことでしょう。いきなりベッドへのお誘い。
積極的な行動。
「あっはい」
子供の頃から、男女の営みも貴族の子弟なら教育をされている。生きることの大前提が、子をなし家を継がせることなのだから。
そう答えたが、侍女にも拒否権がある。
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