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第1章 旅立ちと冒険者活動

第4話 暇つぶしのお遊び

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「では、少しお待ちください」
 そう言って、ティナさんは身体強化をしたのだろう。一瞬で消えた。

「やっぱり、基本だって言っていたけれど、皆使えるんだな」
 父さん達に言われた言葉。『身体強化は基本だ。二十四時間使えるようにしておけ』だが、魔力で強化して、強引に動かすので生物的な限界はある。
 筋肉は切れ、骨は折れる。その限界を見極めるのは意外と難しい。

「でも、そこに転がっている、ええと」
 アミルが考え込む。

「漆黒の兵団?」
 何とか思い出す。

「そうそう。皆使っていなかったよね」
 アミルは魔力の流れを見るのが得意だから、見たのか?
 まあ動きを見れば、判断が出来るけど。

「それは試験だから、手を抜いたんだろ。元々低ランク用の試験みたいだったし」
 俺がそう言うと、皆が焦る。

「やば、普通にやっちまった」
 クノープがそう言ったのを皮切りに、皆が言い始める。
「私も」
「うん。やっちゃった」
「上位だって言うから、やったわよ。手を抜くなんて失礼じゃない」
 リーポスの言い分も、正解だな。

「怪我をさせないように、止めちゃったよ」
 つい言ってしまった。
「蹴って、とどめを刺す」
「こら駄目だって」
 走り始めるリーポスを、背後から羽交い締めにして止める。

「もう。せっかくなのに」
 なにがせっかくのか、判らないが、まあいい。

「ほらほら、離れて」
 フィアが、おれたち二人の間に割り込んでくる。

 そのまま待っていたが、ティナさんがなかなか帰ってこないので、皆でひさしぶりに椅子取り合戦をして遊ぶ。

「遊んでいて、いいのかね」
 クノープが珍しく真面目な事を言う。

「良いんじゃ無い。はい椅子」
 リーポスが訓練場の端から、椅子を抱えてくる。

「そんじゃあ、やるか。ルールは?」
「広いし、ありありで良いんじゃ無い。怪我をさせたら袋ね」
 まあ、いつもの奴だな。
「「「ほーい」」」
 皆が一度、椅子から三メートルくらい離れて、同心円状に広がる。

 ありありだから、魔法もあり。
 怪我をさせたら袋の意味は、皆に囲まれ、罰として一廻り蹴られる。
 何でか知らないが、囲んで蹴ることを袋と言うらしい。
 その後、怪我をした相手に、ごめんなさいと言って、締める。

「それじゃあ。始め」
 いつもの様に、アミルのかけ声で始まる。
 最初父さん達に、これを習った頃。アミルは体が弱く参加できなかった。
 その時の名残で、かけ声係。

 隣から、風切り音が聞こえる。
 そちらを見ることなく、空気と魔力の流れで、飛んでくるリーポスの右足を掌で受け流し、上方へ持ち上げる。
 リーポスは側転をする要領で、そのまま回転をする。

 その隙に、フィア達へ火槍の小さいのを撃ち込む。
 フィアは避けたが、アミルは蹴り返し、さらに追加を撃ち込んでくる。
 クノープは、当然のように槍の一振り。
 魔力を纏わせて、槍で魔法を壊す。

「んっ、もう」
 リーポスは剣を抜き、剣の腹で足を払いに来る。
 あたると結構痛いんだよね。

 バク転をして、足が地面に着いた瞬間、立ち上がらずにそのままリーポスの足を取りに行く。
「ちょ」
 掴んだ足を振り回し、そのままリーポスを、クノープの方へ投げる。
 リーポスは滑りながら、体をひねると手をつき、回転してクノープの頭へ踵を落とす。
「んがっ」
 珍しく躱せず、もろに喰らったようだ。
 その間に、フィアとアミルが共闘して、俺に魔法を仕掛けてくる。

「ちっ、アースニードルと真空。風の刃か?」
 伸び上がった土の棘。
 それの後ろに回り込み、風の刃をかわす。

「うりゃ」
 速度重視で、水球を二人の顔にめがけて撃ちだし、その後ろで水を壁にする。
 角度を調整して、違う景色を二人に見せる。

 その間に、一気に背後へと回り込み、電撃を喰らわせる。
「ぎゃ」
「あばっ」

 すぐに、リーポスを探すと、すでに椅子に座って、にまにましていた。
「私は女王よ」
 びしっと、右拳を上に上げる。

「あー。ずるい」
「勝ちは勝ち。なにを、命令しようかなぁ」
 そう言って、リーポスは嬉しそうだ。
 勝てば、その日は女王だったり、王様だったり。

 最近は、アシュアスに触られると、なぜかドキドキするのよ。そう言ってマッサージを命令されることが多い。
 フィアとアミルが起き上がり、理解したようで悔しそうだが、クノープが目を回したまま起きない。

 魔法で水をぶっかける。
「起きないか?」
「ぬるいからよ。氷を混ぜれば、きっと大丈夫」
 そう言って、珍しくリーポスが魔法を使う。

「それは……」
 一気に一メートル以上に育った氷の塊が落下し、クノープの顔面へと向かう。
 あっ気が付いたようだ。
 目が開き、一瞬で状態に気が付きかわす。

 結構大きい氷だったから、重かったようだ。数センチくらいは地面にめり込んだ。
 まだ、クノープの目は、大きく見開かれたままだ。
 驚いたようだな。

「まけだぞ。今日はリーポスが女王様だ」
 一応説明をしておく。

「またかよ。それは良いけどリーポス。下履きを忘れているぞ」
「えっ」
 リーポスは旅の途中から、トイレに行くときに面倒だと言って、膝上くらいで布を巻いてスカートにしていた。

 フィアとアミルはその下に、短いズボンをはいているが、リーポスは穿いていない。
 それどころか、その下も脱いでいたようだ。

「ああ、それでさっき。踵をもろに喰らったのか」
「そうだよ。男の心理を突く作戦かと思ったが、違ったようだな」
 流石のリーポスも、恥ずかしかったようだ。

 ちなみに、指摘はしないが、良くあることなので、慣れた。
 この世界、意外と皆おおらかなのだ。


 だけど、すぐ近くで、この遊びを見て引きつっていた連中がいた。
「何だあの動き。皆がそろって、ただのガキじゃねえ」
 そう、瞬殺された人たち。

 魔法の発動。
 体術すべてにおいて人外。

 前に仕事で、金級の人たちと一緒に護衛をしたが、その人達より圧倒的に早い。
「あれで、成人したばかり……」 
 漆黒の兵団全員が、少し自信をなくすことになった。

「さて、皆さん。明日の朝九時に正門前に集合してください。昼食とおやつを用意してくださいね。冒険者はその辺り、自前ですから」

 いつの間にか、ティナさんが降りて来たようだ。
 そんな説明をくれた。
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