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第四章 日本の竜司から、世界の竜司へ

第59話 要塞

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「確かに、広いわねえ」

「このフロアを、まるごと構造体を補強をして、間取りを変えたらしい」
 俺が図面を見ながら、指をさしていると、説明が割り込んでくる。

「そうよ、玄関は一つで、壁の中に前室として廊下を造り、各家へと繋がっている」
 百田さんが颯爽と現れ、部屋を紹介してくれる。

「それだと、襲われたときに困りませんか?」
「尤もだけど、ベランダ側にも通路はあるし、各家庭用の住居は、実際には上階と下階にも繋がっているの。上下の部屋は、外向けはコンクリートで固められて、窓がないけれどね。ダミードアの中に、開くドアが一つ。脱出用に残っているし」
「それって」
「そう、ものすごく広い」
 百田さんがビシッと、何故か空を指し示す。

「私たちの詰め所とも、前室で繋がっているの。秘密基地みたいでしょ」
 そう言って、何故か嬉しそうだ。
「何か、他にあるのですか?」
 そう言うと、にまっと笑う。

「休憩室という名目で、ここに個室ができたの。職場に住めるからアパート解約しちゃった」
「それって」
 超絶ブラックじゃないかと思ったが、俺達も住んでいるしな。

 聞くと、俺の貸した探査装置を見張る隊員が数人当番で見ていて、何かあれば、個室のアラートが鳴る。
 暇つぶしの都合上、隊員は四人で見ている。
 そのための新兵器、全自動電動マージャン卓を福利厚生の経費で買ったらしい。

 基本的には、住み込んでいるのは、独身者のみ。
 だが何故か、橋本さんは部屋を持っていて暮らすらしい。

 こそっと聞くと、家庭内別居で居場所がなかったようだ。

 そんな中、日本とアメリカで極秘に引き渡しの合意が行われて、新型機購入についてなんやかや、日本からの輸出分についても、円が安い内は関税とかを、少し下げてくれるようだ。

 そのかわり、ご要望次第で、奇跡もおわけしましょうと、上から目線で言ったようだ。
 それって、働くのは俺だよね。

 他にも、兵一人当たり幾らで、罰金が結構な額、支払われたとか。
 不法入国に、銃刀法違反、器物破損、失敗だが略取誘拐。
 まあ、吹っかけたんでしょ。

 そしてそんな頃、ヨーロッパの某宗教組織でも、傘下の組織に秘密命令が下っていた。
「神の奇跡を管理するのは、我らにおいて他ならない。神の使いをわが手に。丁重にお迎えをしなければならない。理解ができれば、向かいなさい。判りましたね」
「「「はっ、神の御名において行動を」」」

 その者の、前に控えるのは、様々な職業の格好をしたひと達。
 だが、教会は延々と繰り返された、他宗教排斥の歴史の上に立つ。
 崇高なる使命。その元で特殊な組織が蠢いている。

 出ていく者達を見ながら、その背中に告げる。
「今回はお連れするのみ、害してはいけませんよ」
「「「はっ」」」

 返事は良いが、その者達の手には、偽装されて、それがどのような物かよく分からないが、凶悪な武器が握られている。

「ふふふっ、天使様をお連れするのはこの私。私の魅力で天へと誘いましょう」
 不敵に笑う、ミレーネ=オールドヒム。蠱惑の瞳と呼ばれる。
 若く見えるが、この道五〇年以上のベテラン。
 身長一六八センチの身長と、一見、九〇センチを超えるトップバスト。
 驚異的な性能を持った、ボディスーツにより体型を維持している。
 むろん、防弾防刃仕様。

「馬鹿を言うな、お迎えするのは貴公子と、世界的に決まっておる」
 そう言い放つのは、ガリーナ=ルニョヴァ。
 身長一八七センチメートルの一見優男。
 だが、体は鍛えられ、鋼のような肉体を待つ。

 一説によると、KGB出身者だと言われて、システマと呼ばれる軍用格闘技のマスターレベルと言われている。
 好んで、白いスーツを着用するが、作戦後はそのスーツが赤く染まる。
 そのため、ルージュフランス語で赤の貴公子と呼ばれている。

「静かになさい。我々は、神の名の下に、ただ従うのみ」
 そう言って、ただ通り過ぎるのだが、ふわっと血の匂いが漂う。
 彼は、ルカス=ブランチ。真っ黒い神父服を纏い。
 そのまま、黒き神父と呼ばれている。

 彼が通った後は、生きとし生けるもの、すべてが天に召されるであろうと言われている。そして、神父だが、血の滴るレアの肉と、濃厚なワインを好む。むろん赤だ。

 仕事帰りに目撃されたとき、生地が黒くて判らないが、彼の神父服は濡れそぼり、床へ点々と赤い液体が滴っていたと、噂がある。

 その他にも、ディーデリヒ=クレンクや、オリーヴィア=アンデ、アロンソ=マシアスなど、闇の六聖人と呼ばれる者達が、礼拝堂を退出していく。

 なぜか、その者達がいなくなるだけで、ホール内の空気が軽くなる。

 そして、その中でコロンと一人の首が落ちた。
 その背中には、『背教者はいきょうしゃ』と貼られていた。

 誰がやったのか、判らない。
 だが、六人の内の誰かであろう。



「ふわー。疲れた。やっと荷物が片付いたよぉ」
 大きくなった、竜司のベッドに、まどかが飛び込み泳ぎ始める。

「こら。今ベッドメイクしたばかりなのに」
「だから良いのよ」
 そう言って、ゴロゴロと転がり始める。
 それを捕まえ、脇腹わしゃわしゃ攻撃を始める竜司。

「うきゃあ、それ駄目。ちょっと竜ちゃん」
「だめだ、人の完璧なベッドメイクを汚した罰だ」
「ちょホント駄目。やめて。ちびっちゃうからぁ」

 そんな楽しそうな現場を、見つめる彩。
 気がつけばドンドンと、メインヒロインの座が遠くなっていく。

 あの時、そうだ。
 鼻血さえ出さなければ、周りをきっとリードできたのに。
 訳の分からない妄想を、柱の陰に隠れ、彼女は頭の中で流し続ける。
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