上 下
74 / 109
第四章 日本の竜司から、世界の竜司へ

第75話 悠月のおねがい

しおりを挟む
「あーやばいかも」
 背後で聞こえたやばい音。

 見えなくても、何が起こったかは判っている。
 ぐったりと体重を掛けている、悠月を乗せたまま、体を半回転をする。
「ああっ」
 それだけで、なぜか怪しい声が悠月から漏れるが、気にせず都賀風夏を治療する。
 見事に、鼻骨が骨折しており、少しつまんで補正。その後、修復治療。
 胸骨も衝撃を受けて、胸骨自体と肋骨何本かにヒビが入っている。

 風夏の全力ダイブは、かなり思いっきりだったようだ。
 床の血だまりなども、浄化をして綺麗にする。

 トレーニング室は、あぐらをかいて座っている竜司の上に悠月が抱きつき、抱っこされている。
 その脇で、風夏が寝ている。
 よく分からない状態。

 時折、悠月は細かに痙攣をする。
「神馬さん起きて」
 そう言って背中を優しく叩く。
「んはっ。ひゃい」
 そう言って顔を上げた、悠月は意味が分からない。

 竜司に抱きついているのは良いとして、確か自室のベッドだったはず。
「ありぇ? どうして……」
 そして思い出す。

 抱きしめられ、それだけで上り詰めてしまったことを。
 思いだしたところで、自分の道着が悲惨なことになっていることに気がつく。
 未だに、流れ出す感覚が分かる。

「ひっ。あっ、ごめんなさい」
「ああ、良いから」
 竜司がそう言うと、浄化の光が二人を包む。
 体から汗のべたつきなどが消える。

 でも、体の反応は続き、奥から幾らでも流れ出てくる。
 実際少し動いただけで、ゾクゾクが止まらない。
「その、すみません。体がおかしくて、そのゾクゾクが止まりません」
 悠月にそう言われても、対処は多分できるが……。

「多分止めてあげられるけれど、ちょっとね。みんなと相談かな」
 そう言って、自身の上から悠月をひょいと降ろす。

 そして、もう一度浄化。
「シャワーでも浴びてきて、一度話をしよう。問題は都賀さんだね」
「こやつならば、後で私が部屋へ放り込んでおきます。このままで放置していただいて結構です」
 悠月は、意識が少し竜司から離れたせいか、少しまともになった。
 だが頭の芯は、まだ痺れて熱に浮かされている感じがする。

 その後悠月は、シャワー室から、一時間以上出てこなかった。
 そして現場には、くぐもったすすり泣きのような声が響いていた。
 シャワーと友達になったようだ。

「そう言うことで神馬さんは、メンバーに入り、仲良くなりたいらしい」
「でも、家の都合でしょ」
 彩が嫌そうな顔をする。
 いい加減、最近影が薄い。

 まどかは最近、吹っ切れたようにあまり言わなくなったし。
 神馬悠月という女、伶菜と同じくすべてをこなしそうな気がする。
 そして、私と同じく、かわいい系のキャラ。
 敵ね。

 いや、彩は周知の通り、基本壊れたお嬢さんキャラ。全然違う。
 馬鹿なことをしないと人なのだよ。

 悠月達は子供の時から鍛えたため、少し背が低い。
 一六〇センチある彩からすると、七センチほど低い。
 風夏の少しキツい感じと違い、かわいい系だと言える。
 目も二重で少しくりっとしている。

 彩達三人と、かぐや達三人は、言わば美人系。悠月だけが、少し違う。

「まあ、家の事がって言うなら、そっちの都合。ごめんね」
 伶菜がじっと見る。

 一瞬、悠月の髪がぶわっと膨らんだ。

 きっと俺達には見えていないが、鏡子さんの血を引く伶菜だ。
 伶菜の背後から、破壊神でも現世側を覗き込んでいるのかもしれない。
「あの、家のことが切っ掛けですが、今は大好きなんです。体もおかしくて、近くにいるだけで、ゾクゾクが止まらなくて」
「竜ちゃん、何かした?」
 伶菜がくるりと、こちらを向き、無表情で聞いてくる。目だけは輝いているが、その光はやばい。

「いや、してないよ」
 そう答えたら、間髪おかずに、物騒なことを言いやがった。
「抱かれました」

 思わず突っ込む。
「いや、違うだろ」
 一瞬で場の温度が下がる。

「抱きしめただけだ、それも神馬さんからの攻撃を止めるために」
 だが、みんなの視線が集中し、室温がドンドン下がっていく。

「あっ、そうですね。抱かれたという言葉が、性交を示すならまだです」
 あっけらかんと、言ってくれて、プレッシャーが消失する。

 どこかから、強大な敵が大挙してやって来たレベルのプレッシャー。
 最近みんなが強くなったので、半端ないんだよね。

「それと、伶菜さんが受けたと言われる、改造をしてください」
 それを聞いて、伶菜が頭を抱える。

「そこまで言ったのなら、受け入れる気が満々じゃない。それで、大事な所だけど、竜ちゃんのことは好きなのよね」
「はい」
 こちらを向いて、ビシッと答える。

「改造って、本当に改造だから。人間をやめることになるって言うことなのよ。良いのね」
「ええっ」
 一転困惑顔になる悠月。
 それを見て、一同拍子抜けになる。

「えっでも、皆さんモンスターなんですか? 見た感じ普通じゃないですか?」
 その答えを聞いて、なるほどと理解。伶菜は説明を始める。

「見た目は変わらないけれど、力との親和性が上がって、寿命が延びるの。確か千年位だったっけ?」
 伶菜の話を聞いて、悠月は少し考えたようだが、力強く頷く。
 だがそこで、一応言っておく。

「そうだな、ただ、人間の因子だけだと、そこまで行けるかは判らない」
 そう言ったら、今度は周りが驚く。
 ええー、言ったじゃんと言う感じで。

「まあマイリと相談してどうするか決めるよ。まだ高校生だし、体ができあがるまで、みんなもう少し余裕があるだろ」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

秘密~箱庭で濡れる~改訂版

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:305pt お気に入り:132

ヒト・カタ・ヒト・ヒラ

SF / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:21

フェロ紋なんてクソくらえ

BL / 完結 24h.ポイント:775pt お気に入り:388

公爵様と行き遅れ~婚期を逃した令嬢が幸せになるまで~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,721pt お気に入り:26

【R-18】トラウマ持ちのSubは縛られたい 〜Dom/Subユニバース

BL / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:268

あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7,029pt お気に入り:1,659

処理中です...