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第三章 復旧への進め

第16話 神谷魔導具工房

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「良し。会社にする」
 最初は個人事業主で行こうと思ったようだが、今現在で、売り上げ一千万など軽く超えてしまう。
 じゃあ有限会社。そう思ったら、もう作れなくなっていた。
 平成一八年五月一日の会社法施行に伴い有限会社法が廃止されて、それ以降有限会社の新設はできなくなったようだ。

 でまあ、株式会社を設立となったわけだ。
 会社の概要を決めて、法人用の実印を作って、定款。つまり決まりを作成し、会社の本店所在地を管轄する法務局又は地方法務局に所属する公証役場で認証を受け、出資金。資本金だな。それを払い込む。
 最後に、登記申請書類を作成し、法務局で申請する。

 だけ……

「それだけというが、それが、面倒なんじゃあぁぁ」
 そう叫んだじいちゃんは、司法書士さんを見つけて丸投げをしたようだ。

 決めていた屋号が、会社名へとなった。
『神谷魔導具工房』
 字面が怪しいが、まあ良いだろう。
 最初は工房では無く、技術研究所にしようとしたらしいが、あまりにも怪しいので工房となった。

 技術研究所は某車メーカーの、リスペクトだったそうだ。

 おかげで、俺にもとばっちりが来て、学校が終わった後、シーヴの船で基礎を習い、アデラの船で応用を学び、工作船第一艦で実地。

 身体強化で脳を活性化して、詰め込み学習。
 だがこれ、無理をすると脳が焼けそうになり、鼻血がたらっと流れることが多々ある。
 そのたびに、なぜか授業をする、シーヴの服が薄着になる。

 そっちと違う。

 船に入り浸っている俺に、焼き餅を焼き、杏も参戦。
 しかし、奴は一日で消えた……

「おい、行くぞ」
 そう言ったが、やつはそっと部屋の出口まで来ると、俺の首に腕を絡ませ、じっと見つめてからの、軽いキス。
 そして、そっと離れると同時に、静かに囁く。
 目には涙が浮かんでいる……

「わたし。おとなしく、お部屋であなたの帰りを待っているからっ。頑張ってね」
 そう言って、二日目は俺の部屋から出てこなかった。

 俺も逃げたいが、このご時世。まともな就職? へっ、あるわけがない。
 そう考えた俺は、脳内を締める八〇パーセント。金持ちの種という、欲に従った。

「オラ、魔導具で世界を取る」
 そう。そうでも思っていないと、出来るわけがない。

「―― ですから、此処の記述が魔導回路となっており、この形自体が変換器です。魔素を物理法則へと変換するときの決まりを定義するのは、このサブ回路。エーテルの振動と熱量は密接に関係し、原質の間をつなぐ要素。つまりエーテルが跳ね回る固体はありません。ここまでは、理解できましたか息吹君」

 なぜか、指示棒が猫じゃらしになっている。

「えーつまり。文字では無く。絵として意味があるという事でしょうか?」
 何とか答える。

「そうです。でもこの文字も意味はあって、原質を形質へと変化する形は、此処の文字の羅列で定義されています。これはかの有名な錬金術師、カリオストロ=フラメルが万有物質への変換方法を定義したときから生まれました。これにより、直接変換と比べ変換効率が一千倍へと大きく変わりました。カリオストロ=フラメルはパルラケル=ススの弟子であり。パルラケル=ススは、光希様の研究仲間でもあったのです」
 ジャジャーンと言う感じで、紹介される。
 何処にでも出てくる、じいちゃんの名前。
 いい加減驚く。
 居たのは確か、たった五年だったはず。すごいな。

 じいちゃんがすごいから、結構、焦るんだよな。


 で、アデラの船では。
「良いですか息吹様。ただ回路を繋げれば良いものではありません。送り側と受け側の受け渡す形質個数と量は、必ず等価であることが必要で、過不足があれば動作いたしません。無理をさせて動いたとしても、魔力回路の暴走という事故が起こります。特にサブ回路への受け渡しをしたときに、過不足を出しやすいのでご注意ください。後、流速は一定。これはラインの太さを、そろえる必要があるということです」

 テキストは、猿でもわかる錬金術。応用編。
 これは、人だから猿なのか?
 妙な所に拘ってしまう。


 そして、工作船第一艦。
「よろしいでしょうか。息吹様。魔導回路の太さと本数。そして記述を行っているインクにより、効率が変わります。例えば、これは粉末魔石に銀、それに高位モンスターの血と、不死化金属が入っております。昔は水銀で代替だいたいを行ったりしましたが、負荷により焼損が起こり、回路全体が爆発をすると言うことが起こります。熟練の錬金術師は、一ミリメートルに均一の太さで一〇本の線が書けます。先ずは、ここから練習を行いましょう」

 そう言って、銀の丸ペンを貸してもらう。
 此処が基本。ペン先は腰の強さやその書き味で、ドラゴンの爪や鱗。ウロボロスの牙など様々なものがある様だ。
 今はひたすら真っ直ぐな線を書く練習。

 目は疲れ、肩はバキバキでうちへと帰る。

「お疲れなさい。お風呂へ入ってきてぇ。そしたらマッサージをしてあ、げ、る。ねっ」
「あっ、ああ」
 そうして風呂へ行くが、違和感バリバリ。
 だれだよ、あれ?

 いや、頭の中の九五パーセントが、社長夫人という言葉に埋め尽くされた杏だ。
 どうあっても、私は社長夫人になる。そう言って拳を突き上げる。

 そして本音は、息吹頑張ってぇ。私は無理だから……

 人はそれを寄生という。

 杏の思惑通りに、事は運ぶのか。
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