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第2章 周辺国との和解へ向けて
第17話 戦場は燃ゆる
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「期日は過ぎた。滅んで貰おう」
オリエンテム王国側、要塞の脇で遠征軍(懲罰軍)セレスティノ=モンストシニョス侯爵が叫ぶ。
「何か叫んでいるが、来るようだぞ。目印を越えたら射て」
隊長の号令で、持ち場に散る兵達。
「あー。なんだか壁が来ます。大弓を使いますか?」
「いやこの距離だ、火矢で良いだろう。用意。放てぇ」
「ちょ。早すぎ。準備が」
パリブス王国側から、兵達は苦情を言いながらも、順に火矢が放たれる。
オリエンテム王国側の矢は、まだ射程に入らない。
小気味のいい音がして、木製の盾に矢が刺さる。
だが、相手は気にすることなく? いや、気にすることも出来ずに、必死で盾を押してくる。
高さ五メートルはあるが、角度のある要塞側からだと、近付くにつれて死角に入れる人数は減ってくる。
「止まらんなぁ。あの距離なら槍を拾うのも苦にならん。大弓を用意」
待っていましたとばかりに、蒸気バルブが開く。
「何だあの音は?」
盾を押している、オリエンテム王国の兵達に疑問が浮かぶ。
今まで聞いたことのない音。
盾の隙間に作られた隙間から、向こうを覗く。
鉄で作られたような弓。
巨大な弓が、引き絞られる。
見えている上部には、見たことのないヘンテコな形をした物が回転し、それと同時に弦が引き絞られていく。
それこそが、コンパウンドボウの秘密。カムだが、見ても理解ができない。
パリブス王が唸った、国民への教育と基礎知識の重要性。
それが、証明された瞬間だ。
「あんな巨大な弓。どうやって引いているのだ」
その疑問が、精一杯である。
そして、手前から順に目標とされ、槍と呼称された矢が放たれた。
むろん普通の槍とは違い、安定翼が生えて、まるで小型のミサイルのよう。
対象にぶつかると、切り裂く役目もする。
どう控えめに言っても、極悪である。
今はまだ切り裂くだけだが、すぐに火薬が搭載される。
裕樹達。学生の中では、すでにこれからの筋道は出来ている。
元化学部を中心に、色々なものを発酵させては、蒸留を行っているようだ。
黒色火薬などは、一年生の初期に学校で作って遊んだ、実績があるらしい。
目標は、綿火薬や過酸化アセトンらしい。ついでに消毒のために過酸化水素水が欲しいようだが、合成の手順が思い出せないと呻いていた。
「過酸化水素? 水に酸素を溶かせば」
「それは、酸素の飽和水溶液。そうではなく、化学的に分子結合をさせるんだよ」
触媒があれば、簡単なのだそうだ。
「水に酸素をくっ付けるだけだもの。逆は中学校の実験で酸素を作って遊んだだろ」と、真顔で聞かれた。
「何の変哲もない、通常空間で発生する不思議な現象。ワクワクするだろ」
そう言って、詰め寄ってくる始末。
アセトンは、発酵菌が見つかれば、採取できるとか言っていた。
大腸菌からも合成できる物質があるらしく、ワタのついた棒を持って、彷徨っていた部員もいたようだ。「欲しいぃ。色んな人の大腸菌。嫌気性だから環境がぁ」そう言って彷徨う姿は、ゾンビの様だったと言うことだ。綿棒を持って、尻の穴を狙うゾンビ。
多分そのせいで、兵達が近寄らないんだよ。
それでだ。
それは、さておき。
放たれた矢は、盾などを一気に粉砕し、隠れていた兵ごと粉砕する。
目標として、盾を押していた、兵が並ぶ所を狙ったからな。
残念だが、あたった連中はもう、形などない。
「ひっ。一体何が?」
もう一列の兵達。逃げようとするが、はしごに挟まっている形。
構造として、荷車に壁を立て、床面に進行方法に向けて、柱を通している。
そのまま床を張れば大きな荷車だが、床の代わりに木の棒を渡してある。
つまり、床全体がはしごの形となっていて、その中に入り。兵達は押していた。
とっさには、逃げられない。
刺さった矢は、角度がついているため、盾のついた荷車を、地面へと一発で縫い止める。
何とか逃げるが、今度は普通の矢が、壁から出れば襲ってくる。
散々な有様。
「うぬぬ。何をやっておる。もっと丈夫にしろ」
「今でも、板の厚さは一〇センチを超えております。これ以上分厚くすれば押せなくなります」
そう、荷車のタイヤもシャフトも木だ。耐荷重というものがある。
「どうすればいい?」
「それを伺うのは、此方でございます。総司令官殿」
「うぬぬ。しばし待て」
そう言って、要塞へ入ってしまう。
だが、命令をしていないため、壁を押しては燃やされ、縫い止められる。
誰も見たことのない、変わった光景ができあがる。
だが、その明かりで、夜間の攻撃が可能になる。
「もういいや。ついでに要塞も壊せ。怒られたら何とかする」
数人の担当兵を、ローテーションさせ、一晩中矢が飛んで行く。
当然、一方的な攻撃。
セットをする仰角と引くときの張力により、大体の飛距離は表になっている。
夜が明ける頃には、石造りと言っても、石を積み上げただけの敵の要塞は、ほぼ崩れていた。
そう、この大弓、初期のものより大きく。飛距離も長い。
ついでに矢も、パイプが作られたことにより、初期より多少軽い。
いつの間にか、直接攻撃が可能となっていた。
「どうしてこんなに、一方的ではないか?」
「前回の報告書に、書かれております…… 通りで、ございますな」
「うぬぬ。落ち着いている場合か。要塞がこうなっては、安全が確保出来ぬではないか」
「かろうじて、瓦礫のこっち側は、安全のようですが」
まだ戦闘は始まったばかり、戦死者はオリエンテム王国側で百数十人。
パリブス王国側。死亡者無し。
オリエンテム王国側、要塞の脇で遠征軍(懲罰軍)セレスティノ=モンストシニョス侯爵が叫ぶ。
「何か叫んでいるが、来るようだぞ。目印を越えたら射て」
隊長の号令で、持ち場に散る兵達。
「あー。なんだか壁が来ます。大弓を使いますか?」
「いやこの距離だ、火矢で良いだろう。用意。放てぇ」
「ちょ。早すぎ。準備が」
パリブス王国側から、兵達は苦情を言いながらも、順に火矢が放たれる。
オリエンテム王国側の矢は、まだ射程に入らない。
小気味のいい音がして、木製の盾に矢が刺さる。
だが、相手は気にすることなく? いや、気にすることも出来ずに、必死で盾を押してくる。
高さ五メートルはあるが、角度のある要塞側からだと、近付くにつれて死角に入れる人数は減ってくる。
「止まらんなぁ。あの距離なら槍を拾うのも苦にならん。大弓を用意」
待っていましたとばかりに、蒸気バルブが開く。
「何だあの音は?」
盾を押している、オリエンテム王国の兵達に疑問が浮かぶ。
今まで聞いたことのない音。
盾の隙間に作られた隙間から、向こうを覗く。
鉄で作られたような弓。
巨大な弓が、引き絞られる。
見えている上部には、見たことのないヘンテコな形をした物が回転し、それと同時に弦が引き絞られていく。
それこそが、コンパウンドボウの秘密。カムだが、見ても理解ができない。
パリブス王が唸った、国民への教育と基礎知識の重要性。
それが、証明された瞬間だ。
「あんな巨大な弓。どうやって引いているのだ」
その疑問が、精一杯である。
そして、手前から順に目標とされ、槍と呼称された矢が放たれた。
むろん普通の槍とは違い、安定翼が生えて、まるで小型のミサイルのよう。
対象にぶつかると、切り裂く役目もする。
どう控えめに言っても、極悪である。
今はまだ切り裂くだけだが、すぐに火薬が搭載される。
裕樹達。学生の中では、すでにこれからの筋道は出来ている。
元化学部を中心に、色々なものを発酵させては、蒸留を行っているようだ。
黒色火薬などは、一年生の初期に学校で作って遊んだ、実績があるらしい。
目標は、綿火薬や過酸化アセトンらしい。ついでに消毒のために過酸化水素水が欲しいようだが、合成の手順が思い出せないと呻いていた。
「過酸化水素? 水に酸素を溶かせば」
「それは、酸素の飽和水溶液。そうではなく、化学的に分子結合をさせるんだよ」
触媒があれば、簡単なのだそうだ。
「水に酸素をくっ付けるだけだもの。逆は中学校の実験で酸素を作って遊んだだろ」と、真顔で聞かれた。
「何の変哲もない、通常空間で発生する不思議な現象。ワクワクするだろ」
そう言って、詰め寄ってくる始末。
アセトンは、発酵菌が見つかれば、採取できるとか言っていた。
大腸菌からも合成できる物質があるらしく、ワタのついた棒を持って、彷徨っていた部員もいたようだ。「欲しいぃ。色んな人の大腸菌。嫌気性だから環境がぁ」そう言って彷徨う姿は、ゾンビの様だったと言うことだ。綿棒を持って、尻の穴を狙うゾンビ。
多分そのせいで、兵達が近寄らないんだよ。
それでだ。
それは、さておき。
放たれた矢は、盾などを一気に粉砕し、隠れていた兵ごと粉砕する。
目標として、盾を押していた、兵が並ぶ所を狙ったからな。
残念だが、あたった連中はもう、形などない。
「ひっ。一体何が?」
もう一列の兵達。逃げようとするが、はしごに挟まっている形。
構造として、荷車に壁を立て、床面に進行方法に向けて、柱を通している。
そのまま床を張れば大きな荷車だが、床の代わりに木の棒を渡してある。
つまり、床全体がはしごの形となっていて、その中に入り。兵達は押していた。
とっさには、逃げられない。
刺さった矢は、角度がついているため、盾のついた荷車を、地面へと一発で縫い止める。
何とか逃げるが、今度は普通の矢が、壁から出れば襲ってくる。
散々な有様。
「うぬぬ。何をやっておる。もっと丈夫にしろ」
「今でも、板の厚さは一〇センチを超えております。これ以上分厚くすれば押せなくなります」
そう、荷車のタイヤもシャフトも木だ。耐荷重というものがある。
「どうすればいい?」
「それを伺うのは、此方でございます。総司令官殿」
「うぬぬ。しばし待て」
そう言って、要塞へ入ってしまう。
だが、命令をしていないため、壁を押しては燃やされ、縫い止められる。
誰も見たことのない、変わった光景ができあがる。
だが、その明かりで、夜間の攻撃が可能になる。
「もういいや。ついでに要塞も壊せ。怒られたら何とかする」
数人の担当兵を、ローテーションさせ、一晩中矢が飛んで行く。
当然、一方的な攻撃。
セットをする仰角と引くときの張力により、大体の飛距離は表になっている。
夜が明ける頃には、石造りと言っても、石を積み上げただけの敵の要塞は、ほぼ崩れていた。
そう、この大弓、初期のものより大きく。飛距離も長い。
ついでに矢も、パイプが作られたことにより、初期より多少軽い。
いつの間にか、直接攻撃が可能となっていた。
「どうしてこんなに、一方的ではないか?」
「前回の報告書に、書かれております…… 通りで、ございますな」
「うぬぬ。落ち着いている場合か。要塞がこうなっては、安全が確保出来ぬではないか」
「かろうじて、瓦礫のこっち側は、安全のようですが」
まだ戦闘は始まったばかり、戦死者はオリエンテム王国側で百数十人。
パリブス王国側。死亡者無し。
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