集団転移から始まる、非現実な日常。-人間死ぬ気になれば、何とかなるかもな。-

久遠 れんり

文字の大きさ
38 / 55
第2章 周辺国との和解へ向けて

第38話 些細なミス

しおりを挟む
「神野殿。だめです。損害賠償」
 言われて気がついた。

「あーそうだな、今回の出兵の経費と、これまでにうちの防衛にかかった費用。それと我が国の兵なへどの見舞金。それとそちらの間者が、身内を殺した。その分の慰謝料も必要だ」
「「「なっ」」」
「「「ぬうう」」」
 会議室内に、とどよめきが広がる。

「もう少し、お待ちくだされ。それと、神野侯爵でしたな。ご結婚はされておられますか?」
 場を仕切っている、公爵のじじいが聞いてきた。

「いや、まだ一八、いや一九か? まだそんな歳だし、独身だ」
 素直な俺は、ぽろっと答えてしまう。
 分かっていたのに。そんなことを言えばどうなるのか。

 横で、トルスティ=クレーモラ伯爵も頭をかかえる。

「ほう。それは良きこと」
 ペール=オーラ=ラーシャルード公爵と言う、じじいの目が光る。
 そしてちらっと、側室であるセシーリア=クルームの方をみる。

 会議は、紆余曲折をして、最終的に王子へと決まった。
 だが、その前に。ラーシャルード公爵が、伝言ゲームのように耳打ちをしていたのが気になる。

 そして何故か、セシーリアさんが、ニコニコしているのも気になる。

 その後、思いだしたように、クレーモラ伯爵が、王から預かっていた親書を俺に見せてくる。

 こいつが持っているという事は、その後二回、いや三回は王に会ったぞ。

 親書は俺宛。

『貴殿がこれを読んでいるという事は、戦いに勝利をしたことであろう。おめでとう。さて、全権は委任をするから、我が国への手出しについて。それと賠償するように伝えてくれ。むろん貴殿の、友人の分も請求をするが良い。そして、勝手に派兵をした非礼とそなた達を、利用することをわびておく。残念だが、わしは…… どうしても怖かった。あの強力な武器が敵に回った時のことを考えると、眠れなかったのじゃ。ディオーナも、わしが夜中にうなされておったと申しておる。許せ。インフィルマ=パリブス』

「なんだか、中途半端な手紙だな? それに、インフィルマ様が、うなされていたと言っておるって、ねているんじゃないか? まあ、眠りの質はどうか知らんが」

「王はなんと?」
「いや、向こうに伝える内容と、勝手に派兵したことの詫びだな」
 それだけで、伯爵は納得をしたようだ。

 伯爵も、実は恐れていた。
 勝手に派兵をして、敵に武器の鹵獲ろかくが発生した場合。此方に不利となる。
 中に入って居る、火薬とか言う薬剤は、簡単には作れないとは言っていたが、それでも、裕樹に叱られるだろうと。

 だが、出会った瞬間。裕樹は、味方に怪我がないことを安堵してくれた。

 我らが手にした銃。
 そう、銃に対して、我らが恐れるほどの脅威さを、裕樹は感じていない。
 裕樹達にとっては、銃も剣も等しく同じなのだろう。

 その事を、説明された。
 確かに怖いが、あたらなければ同じだし、装弾数にも限りがある。
 機械だから、詰まりもするし、不発もある。
 必要以上に恐れなくて良い。

 だが、敵に人質を取られた場合、簡単に助けに行くな。
 それだけを、念押しをして教えられた。

 目立つ小銃をおとりにして、近寄ってくれば、腰のホルスターから拳銃を出し撃てば良い。
「何かを拾うときに、どこかで視線は外れる」
 
 日本という国は、平和でいい国だと口々に言っているが、そこから出てくる知恵はすべて物騒で残虐だ。

 毒ガスに細菌兵器? 混ぜたら危険? よく分からないが、他にも感電だとか爆発? フラグに大滑り? とにかく、いくらでも出てくる。

「おい、伯爵。大丈夫か?」
 会議中に、考え込んでいたようだ。
「あっはい。大丈夫です」

「とりあえず、話は付いたようだから、明日には帰ろう」
「そうですな。気導鉄騎兵団で今回隊長をしていた、アードリアン=ユルゲンス伯爵を管理官として、付けておきましょうか」
「そうだな、背中を撃たれちゃかなわないが、連絡は入れたから、すぐに誰かが来るのだろ」
「そうですね。今の状態だと属国と言っても通りそうな、感じですね。信用できる人間を据えないと、火種になりそうですな」

 ふむ。

 そう言えば、この国。
 近衛から始まって、王の側近連中。
 それに、王都の守備隊。
 少数を残して、死に絶えたからな。
 やり過ぎた、きらいもあるが、仕方が無い。

 そうして、部屋で休んでいると、ノックをされる。

 ドアの脇に隠れ、銃を抜きセーフティを外して返事をする。
「入れ」
「失礼いたします」
 先に女性。
 その後ろに王女。

 その後兵が、此方に向いて顔を出す。
「お二人が、ご用事があるそうです。ごゆっくり。あっ廊下は異常ありませんし、少し離れていきますね」
 そう言って、ニヤけた顔を引っ込める。

 髪を下ろしていて、よく分からなかったが、王妃さん。じゃない側室さんだな。
 なんだか俺が握っている銃を、不思議そうに見ている。

「ああ、すみません。どうぞ、お茶でも入れましょう」
 そう言って、テーブルに着かせる。

 側室さん。セシーリアさんだったな。
「どうぞ」
 紅茶のストレート。
 娘にも出す。此方は、興味芯々で周囲を見ている。
 ああ、そう言えば。
 非常食になるからと、美咲達が持たせてくれたクッキーがある。
「ご飯がないときには、クッキーよ」
 そう言って。

 女の人に食わすだなんて、叱られるかもだが、仕方が無い。
 こんな事は、考えていなかった。
 大体、二人だけ入れて、兵も付いていないって何だよ。
 双方共に物騒だろ。

 そんなことを思っていると、婦人が口を開く。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

人類最強は農家だ。異世界へ行って嫁さんを見つけよう。

久遠 れんり
ファンタジー
気がつけば10万ポイント。ありがとうございます。 ゴブリン?そんなもの草と一緒に刈っちまえ。 世の中では、ダンジョンができたと騒いでいる。 見つけたら警察に通報? やってもいいなら、草刈りついでだ。 狩っておくよ。 そして、ダンジョンの奥へと潜り異世界へ。 強力無比な力をもつ、俺たちを見て村人は望む。 魔王を倒してください? そんな事、知らん。 俺は、いや俺達は嫁さんを見つける。それが至上の目的だ。 そう。この物語は、何の因果か繋がった異世界で、嫁さんをゲットする物語。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...