上 下
20 / 88
第1章 壊された生活と異世界の村

第20話 温泉探し

しおりを挟む
 川瀬さんと約束した通り、温泉を探しに山脈の方へ向かうことにした。

 村長に話すと、去年探査に出た連中が帰って来ていないので、痕跡でもあれば、見てくれと頼まれた。

 出発するとき、なぜか、村のみんなが見送ってくれた。
 いや、ちょっと行って帰ってくる気なんですけど。
 そんなに、山脈側やばいのか?

 ドキドキしながら、出発をした。

「うーん。やっぱり外に出ると、ドキドキするわね」
 川瀬さんが言う。
「暑いからって、どこでもここでも脱ぐなよ」
 俺がそう言うと、ジトられた。


 村から離れると、すぐに道はなくなる。
 自作した、鎌。
 鎌と言っても、一般的な小さなものではなく。
 クエスチョンマークのような刃先に、1m くらいの柄が付いた藪切鎌と言われるものだ。

 武器にもなるだろうと、川瀬さんと2人とも装備している。
 ほかにも、鉈や鋸を腰のベルトにぶら下げている。

 草地に入って、よく観察してもダニが居ないのは嬉しかった。
 病気を媒介するから、注意すべき生き物だ。
 そう言えば、こっちへ来てから、蚊やブヨそれとアブと言った、吸血の昆虫を見ていない。多少は、生態系に差異があるのだろう。
 これは、女神に感謝だ。

 休憩に入り、火を起こした際に、長尾さんが作った、丸薬をつまんで火の中に放り込む。
 この丸薬は、除虫菊? を丸めて乾燥させたものらしい。

 ただ、毒性は不明だそうだ。

 長尾さんは化学の専門家だそうだ。
 色々作っていると、手伝えることが有ったら言ってくれと言って、なぜか俺に仕事を押し付けていった。
 コンロは、長尾さんに言われて作ったものだ。


 湯を沸かして、直接茶っ葉を放り込む。
 空気が澄んでいるせいか、それとも森林のおかげか、疲れが一気に抜けていく。

 川瀬さんは、この前俺が作った、インスタントうどんを作っている。
 ラーメンを作ろうとしたが、イノシシが取れなくて、量のあるサバ節と昆布のパウダーで試作した。

 周りからは、豚骨じゃなくても良いじゃないと言われたが、そこは俺の好みで押し通した。
 ちなみに、うどんと言ったが、川瀬さんは卵を入れてこねた。
 ラーメンの麺を使っている。
 麺については、きちんとうどんと、ラーメンの2種類を作ってある。

 作った時に、村の幾人かは泣いていた。
 つくづく、みんな日本人の様だ。

「ほい、こだわりのうどん一丁おまち」
 にこやかに、川瀬さんが器を渡して来る。
「ありがとう」
 そう言って受け取る。
 なぜか、頬に両手の手のひらをあてて、くねくねしている。
 最近の彼女は、なぜか本当に機嫌がいい。


 おれは、これから向かう山の姿を、木の隙間から眺める。
 この北の山々は、山稜は尖り厳しさを見せる。
 途中から、森林限界を超え岩肌が見えている。
 調査隊は、どこをルートとして選んだのだろう。

 村長が、まだ帰ってきていないと心配していた言葉が、頭によみがえる。

 休憩を終了して、道具を片付け。火を消す。


「さあ行こう」
 と言って、川瀬さんの手を取る。

 そして、俺たちは……。


 いや普通に、麓までたどり着いた。
 何も特筆することもなく……。

 森林限界の境界部は、ガレ場と言うより砂もあり、いわゆるザレ場となっている。
 表土が浸食により、崩落した土砂が堆積をしているのだろう。
 
 場に立って、噴煙等が見えないか確認するが、発見できない。

 どっちに行くか悩んだが、村に近い方向へ行ってみる。
 温泉があれば、引きたいと言う思いがあるので決めたが、採掘をするなら近くない方が本当はいい。悩ましいところだ。

 それから、夕方まで歩き。
 東にあった村が、すでに西になった頃。
 ちょっと森側に入り、ターフで屋根を作ってビバーグをすることにした。
 前回は、テントを使ったが、山の麓で崩落を考えれば、危険を回避する為。すぐ動けるようにした方がいいと考えたからだ。それに今は夏で気温も良い。

 さっきも言ったが、蚊とかもいないしね。

 疲れもあって、すぐに寝た。

 翌朝。日の出とともに出発したが、ほどなく奇妙な石柱が立っている風景に代わって来た。カルストだ。
「ここからは、カルストだな。危ないから帰ろうか」
 と、言った時に、稜線の途切れた部分があることに気が付いた。

「あそこ、稜線が途切れているのか?」
 隣にいる川瀬さんも、目を細めてみている。
「ここからだと、手前と向こう側に隙間がありそうね」
「危険だが、見に行こう」

 前回の失敗があるので、ドリーネかもしれない窪地を避け、注意深く進んで行く。徐々に標高は下って行き。大きなポリエ? 谷にはなっているが、水は溜まっていない。どこかに抜けているんだろう。

 ただ、周りは険しい崖で、降りられるところも見つからない。

 悩んだが、戻ることにした。なかなか、ご都合主義な展開は無いようだ。

 昨日ビバーグしたところまで戻り、川瀬さんと相談する。
「どうしよう、一度村まで戻るか。そのまま西の方面へ行ってみるか」
 そう聞くと、
「西へ行きましょ」
 と、ノリノリだ。

 その為。翌朝から、西の方へと向かい歩き始める。

 そう言えば、川瀬さんがおとなしいと思ったら、丁度月の物が来ていて、村に帰ってもイチャイチャできないからと、西に行くことに決めたらしい。
 そう言う時って、辛くないの? と聞くと私は軽いほうだから大丈夫との事だ。

 用品も長尾さんが、綿と寒天粉末で作っているらしい。
 長尾さん意外と多才だった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

レッドリアリティ

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

転生令嬢、目指すはスローライフ〜イベント企画担当者ではないのよ!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:29,205pt お気に入り:2,458

お隣さんはセックスフレンド

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:293

【完結】金曜日の秘め事マッサージ。

BL / 完結 24h.ポイント:369pt お気に入り:1,111

目指すは新天地!のはず?

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:168

モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:1,530

未来の王妃として幸せを紡ぐ

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:23

神の娘が行く月の教会創世記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:434

時と幼なじみ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...