上 下
30 / 88
第1章 壊された生活と異世界の村

第30話 村での初めての夜 その3

しおりを挟む
「これも、久美が言っていたんだが。平均値って、自分の力だけじゃなくて、他人の状態に左右されるだろう」
「うん。まあそうよね。自分も含めてだけど」

 普人が、すごく楽しそうに、しゃべっている。
「さっき言ったように、それで予測した点数を取るわけなんだが。なかなか中央値にはいかない」
「ノートの解析メモに書かれていたわ。あれを見て、実は私。悲しくなっちゃったの」
「悲しく?」
「そう。普人は数字だけ見て、周りのクラスメートのことを、見ていないのが、分かっちゃったから」

「本気で、クラスの平均を予測しようと思えば。例えば、あいつは中間テストが悪かって、今回は頑張らないといけないから、何%アップで予測とか。あの子は、彼氏ができたから、いい所を見せようとして頑張るとか、逆にテスト後のデートのことばかり考えているから、下がるとか?」
 彼は、私にそれを言われて、なるほどと思ったようだ。
 それほど昔から。
 クラスメートは、単なる変数に代入される。乱数扱いになっていたのだろう。

 それを考え。
 聞いたら落ち込むのが分かっていながら、私は聞いてしまうことにした。
「ねえ。あの時どうして、私と付き合おうと思ったの?」
 うわー言っちゃった。データ取るためと、言うことは分かっていたのに。

「ああそうだね。気を悪くしないでね。あの時、相田や鈴原の言っていた。彼女位いないと、高校生としてだめだと言う事について。つい考え事をしながら、返事していたら、なぜか、付き合うことになっていた」
 それを聞いて、私は脱力をした。

 思っていたより、もっとひどい。
 データ取りどころか、適当な返事の結果だとぉ……。

 がっくしと、うなだれる私。
「ああ。いやごめん。それでもね。今まで、誰とも付き合っていなかったし。委員長は、その時。俺の中では、上位だったから。悩みながらも、付き合うのをお願いしたんだよ」
「また、委員長って言った」
「ああ。ごめん」
「上位だったの?」
「勉強もできるし、性格もいい。スタイルだっていいし。平均じゃないなと、あの時悩んだんだよ。本当だよ。付き合いだしてからも、楽しかったし」

 少し、浮いてこれた。でも、こだわりは平均。
「それにね。こっちに来てからも、寝ていると。最後に見た、香織の何か言いたそうな、悲しそうな笑顔がね。頭から離れないことが、何回もあったんだ」
 そう言われて、思い出す。

「あれは、名前で呼んでねって言った時、反応がおかしかったから、本当に名前を知っているのか、聞きたかったのよ。それを言った後、あの事故なら、すごく後悔するところだったわ」
 私がそう言うと、また彼はびくっとなった? 怪しい。

「まさか。名前知らなかったとか、言わないわよね」
 と聞くと、彼はじっとわたしを見つめる。
「苗字は思い出せたけど、名前は出てこなかった。ごめん」
 と言って謝って来た。えーえー。そうよね。分かっていたわ。
 普段、委員長だもの。私だって、春先だし、クラス全員苗字だけで、名前を知らない男の子。確かにいたわよ。でも。私は、君の名前を知っていたのに。

「あーまあ。なんだ、高橋香織さん。こんな俺ですが、よろしくお願いします。家族となってください」
 と、言って、抱き着いてきたの。
 えーえー。私はちょろいのよ。
 そんな、言葉と態度で、すべて許すわ。

 自分が、真っ赤になっているのが分かる。
「普人くん。許す。家族になる」
 そう答えると、そっとキスをされた。それも。ベロが入って来る大人のやつ。もごもごされて、脳が。……髪の毛が逆立つ。ぞくぞくとする刺激が。ナニコレ、全身力が入らない……。

 あれ? ぐったりしたのに気が付いて、キスするのをやめて体を離す。
 香織の意識が飛んでいた。
「ありゃ?」
 しようがない。とりあえず、俺の布団に寝かせて、居間に戻り囲炉裏の薪に灰をかぶせる。

 忘れないうちに外へ出て、表札を出す。
 扉の内側から、つっかえ棒をして戸締りをする。
 これも。今度改良しよう。

 台所で、水差しに水を入れ、コップを2つ持って寝室に戻る。

 廊下で、誰かの頭が引っ込んだのに気が付いたが、気にしない。
 そんなことをするのは久美だろう。

 香織の横に寝転がり、この一年を考える。
 訳も分からず、香織と付き合い始めて、ドキドキしながら手を繋いで。
 あの時からかな。人のこと、自分とは違う、誰かのことを意識したのは。

 考えていると、香織が目を覚ましたようだ。
「あれ。ここって?」
「俺の部屋。勝手に香織の部屋に入るのはどうかと思って」
「えっでも。勝手に連れ込むのも、どうかと思うよ」
 そう言って、ジト目をされる。
「ああそうか。言われてみれば、そうだね」

 変なの。でもそういう生活なんだ。

「まあいいわ。ねえ、じゃあ続き。痛くしないでね」
「そう言われてもねえ。ああまあ、大丈夫でしょ多分」

 またキスされる。
 今度もボーっとしているけれど、意識はある。
 彼は優しく、ゆっくりと愛してくれる。
 けれど、幾度か、すでに私は達してしまっている。
 すごく水音が。とんでもない事になっているのは分かっている。

 やがて、やっと入って来てくれた。
 少し痛みはある。けれど、そんなことを考える暇がない。やがて、足が持ち上げられて? 抱えられた? と思ったら奥。おなかの奥に。…… ずしっと。
 そこで、また私は意識を手放した。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

レッドリアリティ

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

転生令嬢、目指すはスローライフ〜イベント企画担当者ではないのよ!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:27,875pt お気に入り:2,458

お隣さんはセックスフレンド

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:293

【完結】金曜日の秘め事マッサージ。

BL / 完結 24h.ポイント:369pt お気に入り:1,111

目指すは新天地!のはず?

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:168

モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:1,530

未来の王妃として幸せを紡ぐ

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:23

神の娘が行く月の教会創世記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:434

時と幼なじみ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...