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第1章 壊された生活と異世界の村
第39話 第一回炊飯技術競技会 その3
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どんどん。ご飯も炊けて来たようで。
いい匂いが、周辺に漂ってくる。
みんなが、匂いに釣られ、ふらふらとご飯に集まっていく。
俺も食べてみたが、炊いた人間によって、硬さに差があるのは、水加減だろう。
あとは火加減。
俺以外は、ちょろちょろ派が多かった。
意外と、炊いた時の火加減が、影響していない?
なぜだろう?
ご飯は、急激な水温上昇を抑えるために。
炊くときに氷を入れたり、浸水を冷蔵庫ですると良いという情報を、どこかで読んだ。
だが。今回は、条件が一緒。
水は地下水。一年を通して、15度前後のはずだ。
後、差が出るのは、羽釜の厚さか? 今使っている羽釜は、先人が、ゴブリンの針を集めて作った鍛造品。ふいごを使って、炭で作る炎。温度を上げて、叩いて作ったものだ。鋳造品に比べると、確か熱伝導率は高い。
それなら、もっと差が出るはず? もしかして、コメの差なのか? いやいや。精米度とか一緒だし。ぐるぐる俺が考えていると、唇に何かが当たる感覚。
目の前には香織がいて、俺は塩焼きのイワナに、キスされたようだ。
しょっぱい。
少し落ち着くと、周りで妖精が飛び交って何かを言っている。
〈この世界の現象には、魔素が関わるから、おいしくなれと思えば。おいしくなるの……〉
「はぁ? なんですと……」
衝撃の事実。機械に作らせる場合。
どうやって、愛情パワーを搭載するんだ。
じゃあ、メイドさんたちのいるお店。
あの、おいしくなーれのビームが、ここでは、現実に味に対して、影響を及ぼすのか?
何と言うことだ……。
俺はがっくりと膝をつく。技術の限界を、見た気がする。
「さっきから、行動がおかしいけれど、大丈夫?」
香織の言葉が、心に刺さる。
「大丈夫。ちょっと予想外な情報に、びっくりしただけだから」
香織が、頭を傾げる。
「情報?」
「ああ。ここは魔法がある世界で、魔法の元である魔素は、人の意識による影響を受ける。そこで。料理を作っている人間が、おいしくなれと思って作れば。おいしくなるようだ」
香織が、がーんという顔をする。
「じゃあ。この前私が作って。おいしくなかった、煮物が出来上がったのは、魔素のせいなの? 私の思いが、足りなかったの?」
「あーいや。そこまでの、強力な差は出ない。この前の香織の失敗は。補正できないれべ……」
ほっぺをひねられた。解せん。
「ちょっと、あく取りとか。茹でこぼしとか。下茹でとか。いろいろ知らないだけじゃない。初心者なんだから、そう。うん。ちょっと知らないだけ。がんばる。わかった?」
俺は、うんうんと、首を縦に振る。ほっぺ放して。
まあ結論。こんな大会を開くと、すべてが、おいしくなるということだ。情報はとれない?
それでも、ある程度の差が、出ると信じよう。
イワナをかじる。おいしい。
すぐには、集計結果は出ないので、香織と一緒に。いろんなものを、つまんで食べ歩く。
会場の網焼きの上では、俺が作ったスプレーが使われている。
村人から、焼き物のときに。
塩味が振り塩では綺麗につけれなくて、斑になると相談されて作ったもの。
『水塩』スプレーだ。
20~30%程度に、塩を溶かしてある。
和食の技だったと思う。実際に見かけたのは、焼鳥さんだったけど。
「なんだか。学園祭とか、みたいだね」
キョロキョロしながら、香織が言う。
「そのうち、手芸技術とかの。大会をするのも、いいかもしれない。多少、みんなの生活に余裕ができたからな」
「村長さん。申し訳ないんですが。今晩どこかに、泊めていただけませんでしょうか?」
「ああ。空いている家があるので、それを、利用して頂いていいですよ」
「ありがとうございます」
お礼は一応言うが、暮田(ぐれた)中学高担任。
中村芙美恵は、なにか言いづらそうにしている。
「どうされました?」
聞かれて、何か決意をした感じでしゃべり出す。
「こんなこと言うのは、あれなんですが。実はうちの学校。ちょっとガラが悪くて。なぜか私も、こんな体になっちゃいましたし。ちょっと不安で。……すみませんが、生徒と別で、お願いしたいのです。それとあの人。事故した運転手さんなので、ちょっと、気を付けた方がいいかと思いまして」
なるほど。村長はこっくりとうなずく。
「わかりました。生徒さんたちは、男女一緒でいいんですか?」
「あー。さすがに、まずいですかね」
「じゃあ。男子二人は、私の家に泊まってもらい。残りは全員。佐藤君の家に泊めてもらおう。5人か。……彼の家なら、大丈夫かな?」
その後。第一回炊飯技術競技会の発表があり、やはり長年暮らしていた三城さんが投票結果の一番になった。
あまり、差がなかったので、人気投票的に、知り合いに入れた人が多かったようだ。
俺のご飯は、硬すぎと言われた。
俺は、硬めが好きなんだよ。
まあいい。
優勝者には、酒3升と醤油が1升。
味噌一桶。おおよそ10kgくらいが贈られた。
あと副賞で、俺が作った包丁セットが贈られた。
3徳と出刃と小出刃。菜切りと柳包丁のセットだ。
その後。村長から、相談があると言われて、新人さんについての話を聞いた。
5人なら、座敷に寝てもらおう。
「慣れるまで、ですよね」
「そうじゃな。とりあえず。最低限の火の扱いとか、覚えてもらわんとな」
「そうですよね。お店があって、何でも買える訳でもないし」
「店を作ってと言うなら。貨幣が必要になって来る。今はすべてが村の物。いわば究極の社会主義じゃからなぁ」
「ああそうそう。一応何かあれば、伝えてくれるように。妖精には言っておきますので、何か起こったら。すこし、時間を稼いでください」
いい匂いが、周辺に漂ってくる。
みんなが、匂いに釣られ、ふらふらとご飯に集まっていく。
俺も食べてみたが、炊いた人間によって、硬さに差があるのは、水加減だろう。
あとは火加減。
俺以外は、ちょろちょろ派が多かった。
意外と、炊いた時の火加減が、影響していない?
なぜだろう?
ご飯は、急激な水温上昇を抑えるために。
炊くときに氷を入れたり、浸水を冷蔵庫ですると良いという情報を、どこかで読んだ。
だが。今回は、条件が一緒。
水は地下水。一年を通して、15度前後のはずだ。
後、差が出るのは、羽釜の厚さか? 今使っている羽釜は、先人が、ゴブリンの針を集めて作った鍛造品。ふいごを使って、炭で作る炎。温度を上げて、叩いて作ったものだ。鋳造品に比べると、確か熱伝導率は高い。
それなら、もっと差が出るはず? もしかして、コメの差なのか? いやいや。精米度とか一緒だし。ぐるぐる俺が考えていると、唇に何かが当たる感覚。
目の前には香織がいて、俺は塩焼きのイワナに、キスされたようだ。
しょっぱい。
少し落ち着くと、周りで妖精が飛び交って何かを言っている。
〈この世界の現象には、魔素が関わるから、おいしくなれと思えば。おいしくなるの……〉
「はぁ? なんですと……」
衝撃の事実。機械に作らせる場合。
どうやって、愛情パワーを搭載するんだ。
じゃあ、メイドさんたちのいるお店。
あの、おいしくなーれのビームが、ここでは、現実に味に対して、影響を及ぼすのか?
何と言うことだ……。
俺はがっくりと膝をつく。技術の限界を、見た気がする。
「さっきから、行動がおかしいけれど、大丈夫?」
香織の言葉が、心に刺さる。
「大丈夫。ちょっと予想外な情報に、びっくりしただけだから」
香織が、頭を傾げる。
「情報?」
「ああ。ここは魔法がある世界で、魔法の元である魔素は、人の意識による影響を受ける。そこで。料理を作っている人間が、おいしくなれと思って作れば。おいしくなるようだ」
香織が、がーんという顔をする。
「じゃあ。この前私が作って。おいしくなかった、煮物が出来上がったのは、魔素のせいなの? 私の思いが、足りなかったの?」
「あーいや。そこまでの、強力な差は出ない。この前の香織の失敗は。補正できないれべ……」
ほっぺをひねられた。解せん。
「ちょっと、あく取りとか。茹でこぼしとか。下茹でとか。いろいろ知らないだけじゃない。初心者なんだから、そう。うん。ちょっと知らないだけ。がんばる。わかった?」
俺は、うんうんと、首を縦に振る。ほっぺ放して。
まあ結論。こんな大会を開くと、すべてが、おいしくなるということだ。情報はとれない?
それでも、ある程度の差が、出ると信じよう。
イワナをかじる。おいしい。
すぐには、集計結果は出ないので、香織と一緒に。いろんなものを、つまんで食べ歩く。
会場の網焼きの上では、俺が作ったスプレーが使われている。
村人から、焼き物のときに。
塩味が振り塩では綺麗につけれなくて、斑になると相談されて作ったもの。
『水塩』スプレーだ。
20~30%程度に、塩を溶かしてある。
和食の技だったと思う。実際に見かけたのは、焼鳥さんだったけど。
「なんだか。学園祭とか、みたいだね」
キョロキョロしながら、香織が言う。
「そのうち、手芸技術とかの。大会をするのも、いいかもしれない。多少、みんなの生活に余裕ができたからな」
「村長さん。申し訳ないんですが。今晩どこかに、泊めていただけませんでしょうか?」
「ああ。空いている家があるので、それを、利用して頂いていいですよ」
「ありがとうございます」
お礼は一応言うが、暮田(ぐれた)中学高担任。
中村芙美恵は、なにか言いづらそうにしている。
「どうされました?」
聞かれて、何か決意をした感じでしゃべり出す。
「こんなこと言うのは、あれなんですが。実はうちの学校。ちょっとガラが悪くて。なぜか私も、こんな体になっちゃいましたし。ちょっと不安で。……すみませんが、生徒と別で、お願いしたいのです。それとあの人。事故した運転手さんなので、ちょっと、気を付けた方がいいかと思いまして」
なるほど。村長はこっくりとうなずく。
「わかりました。生徒さんたちは、男女一緒でいいんですか?」
「あー。さすがに、まずいですかね」
「じゃあ。男子二人は、私の家に泊まってもらい。残りは全員。佐藤君の家に泊めてもらおう。5人か。……彼の家なら、大丈夫かな?」
その後。第一回炊飯技術競技会の発表があり、やはり長年暮らしていた三城さんが投票結果の一番になった。
あまり、差がなかったので、人気投票的に、知り合いに入れた人が多かったようだ。
俺のご飯は、硬すぎと言われた。
俺は、硬めが好きなんだよ。
まあいい。
優勝者には、酒3升と醤油が1升。
味噌一桶。おおよそ10kgくらいが贈られた。
あと副賞で、俺が作った包丁セットが贈られた。
3徳と出刃と小出刃。菜切りと柳包丁のセットだ。
その後。村長から、相談があると言われて、新人さんについての話を聞いた。
5人なら、座敷に寝てもらおう。
「慣れるまで、ですよね」
「そうじゃな。とりあえず。最低限の火の扱いとか、覚えてもらわんとな」
「そうですよね。お店があって、何でも買える訳でもないし」
「店を作ってと言うなら。貨幣が必要になって来る。今はすべてが村の物。いわば究極の社会主義じゃからなぁ」
「ああそうそう。一応何かあれば、伝えてくれるように。妖精には言っておきますので、何か起こったら。すこし、時間を稼いでください」
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