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第2章 広がる世界

第74話 太いシャフトに、小さな魔道具

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 騒動も終わり。
 翌朝には、みんなが普通になっていた。

 しかし、噂は残る。
 家庭平和のための食べ物として、家に貰いに来る人が出て来た。

 家の女性達から、悪用禁止の為に、男には渡すなと言明された。

 さて。
 発電機用魔道具の作製を行ってみた。

 発電機側のシャフトは、細い所で1200mm。
 ここに、本来はターボファンから、減速ギヤを介して。速度が落とされたシャフトが繋がっていたはず。

 原理では、高圧側では、高温の水蒸気を再度過熱して、臨界という。液体でも気体でもない状態まで、加圧と過熱をしてファンを回す。
 低圧側では、冷却して水に戻すことで、空間の圧力差を利用して、回転させる。非常に効率的に、回していたはず。

 その、高速で回る。シャフトの回転を、ギアを介して発電機へとつなぎ、高トルクを得ていたから。
 定常回転で、高トルクが必要となるはず。

 魔道具でも、回転数は指定できるから問題ない。
 回れと言えば、60Hzなら毎秒60回転させればいい。
 問題は、この発電装置は、6極3相発電機。
 出力電圧は2万? 規定回転数は50Hzまたは60Hz用により、それぞれ。毎分3000または1500回転? へー。こんな規格なのね。
 家庭用とは、けた違いだ。

 後々の制御を考えると、60Hzが便利だから。
 そっちを採用。魔道具の性能はどうかな? 危なくないように、ハウジング内で回転させる形。
 これって、このシャフトを。直接回せばいいのじゃないか? 
 発電機のシャフトを、直接魔道具化して。魔石を埋め込む。

 外側のハウジングに、周辺魔素を取り込み。
 中の回転子へ、魔力として供給する機能を付ける。
 ハウジングは、発電機の方へがっちりと一体化。
 溶接せずに、一体化できるのは、魔法の便利な所。

 形としては。ちょこっとでっぱりの付いた発電機。
 見た目は、ほとんど変わっていない。

 動作させるための、ワードを唱える。
「回れ」
 全体から。ミシッと嫌な音がする。
 ああそうか。

 魔道具って、指定しないと。0か100なんだよな。
 いきなり、1500回転で回ろうとしたから、シャフトがねじれたか?

「止まれ」
 また、ギシッと音がする。回るのは分かったから、命令を組みなおす。
 5分ほどで、1500回転に達するように変更。
 止まるときも、5分かけるように変えた。

 ついでに、シャフトもアナライズと言うか、チェックをする。
 いやな音がしたから、クラックとかがないかを確認。
 最近。物質の構造が、見えると言うか頭の中でだが、視る事ができるようになった。外からで、内部の異常が見られる。非常に便利。

 回してみると。今度は、スムーズだ。
 でも。熱が凄いな。

 魔法と逆で、熱を魔力へ変換するユニットを、魔法に干渉して分解するイメージで魔道具化。

 どっちにしろ、魔石の利用の為に。
 密封は必要。
 ケースを作り囲ってみる。

 電気を取り出す端子部分は、ケースをかけずに露出させ。
 魔石投入口は、V字型の蓋。
 開いたときは、奥側が蓋になる。
 閉じれば、手前が蓋になる。
 投入口は、右が狭く、左が広くなっている。
 つまり元から、中は傾斜が作られており、左の側面が開けば、魔石は転がり出る。

 投入口の蓋を閉じるとき、固定してあるシャフトが回る。
 それを利用するため、投入口の左側面。蓋も加工。

 側面のガイド板は、投入口のシャフトが回転するのに従い。勝手に開く。
 タンクへ魔石が自動的に、投入される構造にした。

 魔素の遮断についての確認で、魔石が無い状態で回すと、効率が非常に良いのだろう。
 閉じたときの内部にあった魔素だけで。2日半廻った。

 遮断ができていなかったのかと。あきらめ。ケースを改造しようと思ったら、止まってくれた。
 熱を魔力へ変換するユニットが、思ったより。良い仕事をしているようだ。

 こっちの法則が、地球でも動作するかは疑問だったが、家庭用発電機が動作したのなら大丈夫だろう。あとは、神崎さんに渡すだけだ。

 こちらへやってきて、そんなに経っていない柳瀬さんだが。
 高校の時とは違い。
 非常に明るく元気になったようだ。

 今日も皆と、ワイワイと作業をしている。
 たまに、海辺の村へも出かけて、手伝いをしているようだ。

 隣に住んでいる元悪ガキ3人も、魔法と錬成がだいぶできるようになってきて、村にもなじんできた。ちょっとした小物は作れるので、それを受けて作っている。

 
 発電機を受け取り。
 一週間も経った頃。
 神崎さんに連れられ、勝政さんがやって来た。

「この前は、すみませんでした」
 そう言って、いきなり頭を下げて来た。

「まあ。見慣れない光景ですからね。PTSD(心的外傷後ストレス障害)とか、大丈夫ですか?」
「いやまあ。ちょっと、夢に見ます」
「あらまあ。すいませんでした。こっちでいると、慣れちゃうので」

 そして、話は終わったという感じで、がばっと顔を上げ。開口一番。
「それで、発電機の進捗はいかがでしょうか?」
「できていますよ。計測ができないので、電圧は見ていませんけれど。60Hz用に1500回転で回しています」
「60Hz? まあ。それはどうとでもなるか。見せてください」

 そう言って、勝政さんは、走り出してしまった。
 神崎さんと顔を見あわせて、やれやれと思いながら。転移する。

 発電機の前でしばらく待っていると。
 息絶え絶えの、勝政さんがやって来た。

 俺たちを見ると、絶望したような顔になる。
「おふ。お二人とも、ずるい……」
 などと言って来た。
 勇み足で、走り出したのが悪いと思ったがまあ。
「水でもどうぞ」
 そう言って、グラスで水を渡す。

 建物の中へと入ると、のっぺりとした。芋虫のようなものが置いてある。

 当然、発電機を囲ったケースだ。
 魔道具部分が、出っ張って。口の様に見える。
「ここへ、魔石を入れてください。このケースで、囲った時の魔素だけで、2日位は回りました。そんなに、燃費は悪くないと思います」

「それはすごいですね。そう言えば、この前の大きな魔石。ありがとうございます。上司も驚いていましたよ」
「魔石って、結晶の集合体じゃなくて、あれが一つの結晶なので、気を付けてください。下手に割ると、弾けますので」
「そうなんですか? 報告をあげておきます」

「神崎さん。底まで、一体のケースですから。ごっそりと収納してください」
「ああ。分かった」
 そう言った瞬間。目の前にあった。芋虫発電機が消えた。

「今度から、完全に芋虫をイメージして、ケースを造ろうかな」
 そんな事を、ふざけて言ったら。
「いや、どこかの商標とか。デザインに引っかかると、ややっこしいから。やめてください」
 勝政さんから、そんな、まじめな答えを返された。

「じゃあ。さっそく。帰って、テストをしてみます。神崎さん。お願いします」
 そう言って、お茶の一杯も飲まず。あわただしく帰って行った。

 神崎さん、大変だなあ。
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