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人類の未来は何処へ

彼女は、ただ佇む

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「こんな所にいたのか、体を冷やすと良くない。さあ中へ入ろう」

 彼女はモデル『KAGUYA』最高傑作の人工頭脳を搭載した、人工生命体。
 キーンリィ、アドバンシングなんとかの略称でKAGUYA。だが俺は、かぐやと日本読みで呼んでいる。

 そう言って、月を静かに見ている彼女を入室させる。

 彼女は人工生命体と呼ばれているが、実際に特殊なのは脳のみ。
 他は生身だ。

 優れた容姿を持つ遺伝子。
 それを集めて、遺伝子を組み直し造られた。
 確かに人工生命体。

 だが、基本は選ばれた精子と卵子、多少いじったが、それを人工授精して、生まれた。
 ただそれだけ。
 俺に言わせれば人間だ。

 ただ脳は、大脳皮質の外側に、人工的に作られたブースターが付いている。
 ナトリウムとカリウムのイオンチャネルに干渉をして、すべての反応を、一気に三倍までアップできるとか。

 つまり、限界突破ができる。

 むろん負担が大きいため、時間制限はある。
 最大で一〇分。それ以上は、エネルギーである糖の不足と酸欠。一気に脳が死んでしまう。

 だが、それのおかげで、彼女は小銃の弾を避ける事が出来る。

 子供の頃からずっと育てて、今は十八歳。
 もうとっくに、大学卒業レベルの授業は終わっている。
 俺は研究の都合上、外へ自由に出られないため、当然独身。
 だから、彼女は娘の様なモノだ。

 問題は今後だ、必要なデータは取れてしまった。
 そう、実験動物としての役目は終わった。
 彼女には当然戸籍もない。

 会社の言い分では、彼女はヒトでは無い。
 どう使おうと、俺らの自由と、どこかの玉が言いそうな言葉。

 そして、やって来た。
 彼らの言い分。
「彼女には金がかかっている。金持ちの秘書として、売り払う」
「契約に人権は?」
「あるわけないだろう。そうだな、例えれば新しい形をしたPCだ。単なる商品だよ」
 会社の言うことは尤もだ。

 経費がかかっている、それは確かだ。
 だが彼女は、それでも人間なんだ。

「かぐや、ここからそっと逃げよう。二人で暮らそう」
 そう言って、俺は彼女の手を引き、逃げ出すことに決めた。
「望月さん。出られないのは知っているでしょ」
 彼女が、心配そうに聞いてくる。

「ある程度なら、俺のカードでドアが開く、そこから外はどうにかしよう」
 そう言って部屋にあったガラクタ、色々な道具だが中にはブラスターもある。
 これは暴走が起こったときに、かぐやを殺すための道具だった。

 そんなものや水、携帯食料を無造作に鞄に詰め込む。

「いくぞ」
カメラの異常アラートを発生させないように、おかしな行動を見せず普通の様子で廊下を歩いて行く。

 突き当たればドアを認証して開く。

 研究棟を出て、接続通路を渡り、診察棟へ。
 此方では、一般的な臨床。
 つまり診察が行われている。
 むろん区画は違うが、壁一つ。

 カードを当てるが、エラーが出る。

「畜生やはりか。こっちは駄目だ」
 そう言って、直接資材搬入庫の方へと移動する。

 検査室横のドアが開けられれば、検査室を通り、裏の一般業者通用口へ抜けられるのは知っているのに、ドアはガードロボが見張っている。
 それを横目で見ながら走って行く。


「うーん? 何を考えているんだ奴は?」
「KAGUYAを連れて、出て行こうとしているみたいだな」
「出られないのは、分かっているだろうに。さっきだってカードが通らなかったし」
「倉庫へ行くなら、丁度良い。止めよう。ブラスター使用で良いな」
「良いだろう、暴走を止めました。それで済まそう。始末書は要らんが、報告書は必要だな」

 そう言って、警備員達は彼らを捕まえに行く。

 規定通りツーマンセル。

 そして見事に、出口でガシャガシャしているところを見つかる。

「出られないよ。観念しな」
 声がしたため、振り返る。

 相手は二人、鞄の中からブラスターを抜くと、望月は躊躇無く引き金を引く。
 だが生体への、安全装置付きで発射はされない。

「なっ、今確実に引き金を引いたぞ」
「馬鹿な」
 反射的に警備員も撃ち返す。

 こうして、望月とかぐやの逃避行はあっという間に片がついた。
 だがこの話は、終わらない。

 望月は、教育機能搭載型子守りロボットMOTIZUKI。
  確かに、予測と、愛情に似た執着を持たせる機能は、組み込まれている。
 これは非常時に、ペットや他人より、家族を優先させるためだ。

 ネットワークシステムに繋がり、個々の判断は端末がするが、大きな流れはマザーであるMOTIZUKIシステムがコントロールをしている。

 その端末が、愛情を示し、実験体を逃がそうとした。
 そのために、信じられないことだが、人に対してブラスターの引き金を引いた。

 その事が、世界中に流れ、ロボットの純愛として有名になる。

 だが、システムとしては、不完全極まりない。

 世界中からの嘆願を受け、望月と呼ばれた個体は廃棄されず、記念館送りになったが、まだシステムは生きていた。

「かぐや、まっていろ。絶対俺が逃がしてやる……」

 主電源は落ちているが、バックアップ用の少ない電気の中で、その方法を、今も模索していることは誰も知らない。
 ネットワークに繋がったとき、彼は再び動き始める。

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ちょっと、SFです。

少し、考えた話のプロローグです。
実際のかぐやもロボット、生体部品を使っているために成長が必要。
彼が思い込んだ設定は、育てるのに必要だったので、適当に入力されたパラメーター。

本当に?

移植に必要な生体部品を作り、そのついでに実際の生体を使ったロボットを作っていたのか、そもそもロボットではなく、彼の言ったように、脳に加えたパーツで、自我を抑えて、ロボットのような何かを作ったのか。
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