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流れ星に三度の願いをこめて 5
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リューイを腕に抱えながらどうしたものかと考えた。リューイにねだられるまま話したはいいが、泣かれてしまうとは思いもしなかった。
落ち着かせるように頭を繰り返し撫でて、何も言わないままただ時は過ぎていく。
「リューイ…」
名前を呼んでもリューイはなにも返答しない。困った、と思いながらもリューイを抱く手は放さない。
多感なのだな、と内心呟く。珍しいほどに人の機微を察してはそれを自分も共有してしまう。
しばらく抱いていればリューイが動いて静かに体を放した。
「…ひどい顔だな」
「ウィルが泣かせたから」
「では、洗いにいくか。すぐそこのドアが洗面所になっている。それから本でも読みに行くか?お前の好きな話があるかわからないが…勉強もできるし」
「うん」
リューイは目元を強く擦る。そんなことをしてはより赤く腫れてしまうではないか。
擦る手を止めさせて指で涙を拭う。リューイの瞳がわずかに曇っている。
自分とは異なる色合いの緑の瞳が、美しいと思った。その美しい瞳の目元が赤らんでいる。
「冷やしたほうがいいだろうか…少し腫れてしまいそうだな」
「大丈夫だよ」
「だが、お前の瞳が曇ってしまうのは惜しい」
何気ない一言だった。リューイは言われた言葉への理解が追い付かない。
目が零れ落ちそうなほど丸くし、リューイはウィリディスを見つめた。リューイの表情に口にした当人は首をかしげている。
顔洗ってくると言ってリューイはすぐさまそばを離れた。あんなことを言われてしまえばこちらは勘違いしてしまうではないか。
部屋にある洗面所へと駆け込み、リューイは鏡で己の顔が赤くなっていることを確認した。
自分の瞳を見つめる。少し緑色の混ざった瞳だ。
「ウィルのほうがきれいだよ…」
目元を水で拭って何度も深呼吸する。ひとまず泣いたあとは残らなかったようだ。
ほっと息をついてからウィリディスのもとへと戻った。
ウィリディスはリューイの顔の赤みが少し減っているのを見るとどこか安心したような表情を浮かべた。
おいで、と招かれるまま部屋を出て館にある書物庫へと連れていかれる。
館の端にあるその場所は一階部分から三階まで吹き抜けになっていた。壁一面に備え付けられた書棚には様々な国の言葉で書かれた本がきれいに並べられている。
棚はジャンル別に分類されているようで、壁に何についての書物が入っているか記されていた。
一階部分にはいくつもの閲覧席がある。周囲をさほど高くはない衝立てで囲まれた個別の席だった。
周囲の様子を気にせずに集中して読めるようだ。わりと机も広く、書物を広げて書き物もできる。
試しにリューイはそばの棚から書物をとった。医療の分野らしい。ぱらぱらとめくって無言で棚に戻した。
「読めない…」
「古代のものもいくつかあるからな…母さんが読める」
「ウィルのお母さんって何してるの?」
「父さんと一緒になるまではいろいろと勉強していたらしい…特に母さんは父さんと一緒になるっていう目標があったから、より努力したらしい」
全部は読み切れてないそうだが、という付け足しの言葉は意味がない。何しろ今でも彼女は次々に知識を蓄えているのだ。息子たちは執念とでもいうべき母の行動力にとっくに降参していた。
リューイもここの本を読んだらもっと隣に立つ彼に近づけるのだろうかと思う。
「…リューイが読めそうなものはあるだろうか」
二人並んで書架を歩きながら本を流しみる。
日に焼けることなくきれいなままの書架はよく手入れがされているようで埃は見当たらない。本自体にも痛みは見られない。
「ねぇ、ウィルのアルバムとかないの?」
「アルバム?」
「うん」
アルバムはここにあっただろうか。あるとしたら三階部分の奥だろうか。
見せるのは構わないがいささか恥ずかしいものがある。
少し思案してからうなずいた。
「いいの?」
「構わない。見られて困るようなものはないと思うからな。アルバムはおそらく三階にある。あそこには物語や子供用の本もあったからついでに見るか」
「うん」
階段を上がりフロアが変わる。一階から二階、そして三階へ。
二階と三階に机はなく、代わりに小型の椅子は転々とあった。下まで降りないときはそこに座って読むのだろう。
物語、と銘打たれたその棚は国別になっているし、大まかにジャンル別にもなっているらしい。
新しいものもちらほらあるのを見ると整理が大変そうだなどと思う。
「あそこだ」
ウィリディスが示したところは明らかに棚が異なっていた。
今まではかなり丈夫な木材の棚であったが、示された先にあるのはガラス戸のついた棚である。
近寄ってみればアルバムが入っているのが伺えた。年代と名前が記されている。
「当主が変わるごとにここは整理される。前の当主までのものは地下にある保管庫にしまっているらしい」
「ウィルもみたことある?」
「俺が生まれたときはすでに父が当主だったから前までのものはみたことないな」
ガラスを開けて自分の名が書かれたアルバムを取り出した。年代としてウィリディスがうまれたあたりのものである。
リューイに見えるようにしながらアルバムを開けば、アクティナとアカテスが笑顔で写るものから始まっていた。
アクティナの腹は膨らんでいる。そのとなりには手書き文字で『妊娠九ヶ月。息子は活発に動き回る元気な子』とあった。
次をめくればそれは病院の写真。赤らんだ顔の赤ん坊とそれを抱くアクティナが写る。
「これ、ウィルだよね」
「あぁ」
「かわ、いい?」
「赤ん坊とは総じてこんなだろう」
ページをめくるごとに月日は経ち、そのアルバムは一歳の誕生日で終わっていた。
たくさんの写真とともにアクティナやアカテス、それとどこかウィリディスに面差しの似た少年が並んでいた。
アルバムの名前がウィリディスのため、だいたい中心でよく写るのはウィリディスであるし、手書きの文字の内容もウィリディスのことばかりだった。
「これは兄だ。俺とは三つ離れている」
「お兄さんのもあるんだね」
見慣れない名前のアルバムを示せばうなずいた。
当主となったら同じようにここに当主の子供のアルバムが増えるのだろうか。
「次はお兄さんが当主になるの?」
「だろうな。俺はあまり関心はない」
「そう…」
「そのうち番をもって子供が生まれたら兄に頼んでここにアルバムをいれるか」
「ウィルはどんな子供がほしい?」
リューイの問いかけに少し考える。クロエが死んでから考えたこともなかった。
どんな子供かと聞かれてもすぐには出てこない。だが思うことはひとつなのだ。
「健やかに育てばいい。いつも家族が笑顔でいられるならばそれに越したことはないだろう」
「…ウィルは絶対家族に甘そう」
「そうか?」
首をかしげてアルバムを戻す。ガラス戸を閉めればリューイは棚をみている。
子供向けの書物は多くはない。しかし図書館に負けず劣らずの量がそこにある。
リューイは棚をみて回り、気になったものは手にして中身をめくった。ウィリディスはその姿を離れた場所から眺めた。
リューイの顔が輝いた、
背伸びして取り出したのは七年ほど前に流行った冒険小説だろう。滅びを迎える世界の運命を変えるため、過去に向かう少年の話だ。過去を変えるのはその先にあったはずの未来、自分や家族が生きているその場所を消してしまうことに他ならないのに、少年は過去を変えることを選んだ。
結果として未来の世界は救われることになったが少年が生きていた未来はない。その事実により、少年は過去の世界でできた仲間に見守られて消えていくのだ。
書店に並んだのは完結巻を除いたものだったか。作者が問題を起こしたとかで日の目はみなかったのだ。逮捕され、獄中で書き上げた完結巻は作者の親族により本となった。
「読んでいたのか?」
「うん。主人公がかっこよくて、過去にいくのも憧れた。これ、完結していたんだ」
「読みたいならば下の席で読むといいだろう」
「いいの?」
「もちろん。読まれない本ほど哀れなものはないだろう」
リューイは本を胸に抱えて一階の閲覧席に向かう。
足取りが軽い。席を見つけてそこに向かうも足が止まる。振り替えってこちらを見つめている。
「どうした?」
「ウィルはどうする?」
「そうだな。とくにすることを決めていなかったから、俺も少し本を読んでいよう」
リューイは笑顔でうなずいて席についた。それをみてから自分も本を取りに向かう。
生物関連の本をまとめた場所に向かえば数冊を手にしてリューイのそばの閲覧席に腰を下ろした。
二人で読書をするだけの時間が過ぎていく。
ウィリディスも集中していたからか軽く閲覧席の衝立を叩かれるまで時間を気にしなかった。
顔をあげて席を立てばリューイは本を抱き締めてたっていた。
「どうした?」
「…主人公、やっぱり消えたんだなって思ったらいたたまれなくなった」
「未来を変えるために過去に行って、そこに繋がるはずだったものを壊してしまったからな」
「満足したのかな…最後は笑って消えたんだって」
「さぁな。残念ながらその笑って消えた主人公の気持ちは、主人公と作者にしかわからない。満足したのかもしれないし消えることに諦めもあったのかもしれない」
リューイは眉を下げて本の表紙を見つめた。
たくさんの時計に囲まれた主人公のイラストだ。覚悟を決めたかのような顔をしている。
「…本の中身は読み手によっていろいろあっていいだろう。正解は読んだ人の数だけある。リューイはリューイの感想で誰もなにも言わないだろう」
「…ほんと?」
「あぁ。俺がそれを読んだらお前と違う感想を抱くだろうし、それもまた間違いではないだろうしな」
ウィリディスに言われリューイは少し考えた。
本から目を放さない姿に苦笑し、閲覧席を出た。
「まだ読み足りないなら滞在はあと二日は残っているから読むといい。借りたいならば母に聞いてみよう」
「いいの?」
「あぁ」
リューイは本を抱き締めがくがくとうなずいた。その頭を優しく撫でてからウィリディスは書物庫を出た。
二人揃ってよほど集中していたらしい。わずかに夕食の香りがするし窓の外は暗い。
明日はリューイの希望のままにパンケーキを作り、牧場にでも足を運ぶかと考えた。
あと少しで我が家に戻れる。リューイも少しは気分転換もできただろうか。
端末に時おり入る研究所からの連絡に何度か返信したが、たかが数日とはいえ研究に携わらない期間ができるとは思いもしなかった。
リューイに感謝すべきかもしれない。少しだけ、焦っていたらしい。
「リューイ、明日は牧場にでもいくか」
「いきたい!写真撮ってみんなに見せたら喜ぶかな」
「行きたいといわれかねないかもな」
「そうしたら連れてきてよ。養子にいくまえの、最後の思い出作りにさ」
「…わかった、考えておく」
うなずけばリューイは喜ぶ。
ウィリディスはそんなリューイを伴って彼の使う客間へと歩みを進めていった。
落ち着かせるように頭を繰り返し撫でて、何も言わないままただ時は過ぎていく。
「リューイ…」
名前を呼んでもリューイはなにも返答しない。困った、と思いながらもリューイを抱く手は放さない。
多感なのだな、と内心呟く。珍しいほどに人の機微を察してはそれを自分も共有してしまう。
しばらく抱いていればリューイが動いて静かに体を放した。
「…ひどい顔だな」
「ウィルが泣かせたから」
「では、洗いにいくか。すぐそこのドアが洗面所になっている。それから本でも読みに行くか?お前の好きな話があるかわからないが…勉強もできるし」
「うん」
リューイは目元を強く擦る。そんなことをしてはより赤く腫れてしまうではないか。
擦る手を止めさせて指で涙を拭う。リューイの瞳がわずかに曇っている。
自分とは異なる色合いの緑の瞳が、美しいと思った。その美しい瞳の目元が赤らんでいる。
「冷やしたほうがいいだろうか…少し腫れてしまいそうだな」
「大丈夫だよ」
「だが、お前の瞳が曇ってしまうのは惜しい」
何気ない一言だった。リューイは言われた言葉への理解が追い付かない。
目が零れ落ちそうなほど丸くし、リューイはウィリディスを見つめた。リューイの表情に口にした当人は首をかしげている。
顔洗ってくると言ってリューイはすぐさまそばを離れた。あんなことを言われてしまえばこちらは勘違いしてしまうではないか。
部屋にある洗面所へと駆け込み、リューイは鏡で己の顔が赤くなっていることを確認した。
自分の瞳を見つめる。少し緑色の混ざった瞳だ。
「ウィルのほうがきれいだよ…」
目元を水で拭って何度も深呼吸する。ひとまず泣いたあとは残らなかったようだ。
ほっと息をついてからウィリディスのもとへと戻った。
ウィリディスはリューイの顔の赤みが少し減っているのを見るとどこか安心したような表情を浮かべた。
おいで、と招かれるまま部屋を出て館にある書物庫へと連れていかれる。
館の端にあるその場所は一階部分から三階まで吹き抜けになっていた。壁一面に備え付けられた書棚には様々な国の言葉で書かれた本がきれいに並べられている。
棚はジャンル別に分類されているようで、壁に何についての書物が入っているか記されていた。
一階部分にはいくつもの閲覧席がある。周囲をさほど高くはない衝立てで囲まれた個別の席だった。
周囲の様子を気にせずに集中して読めるようだ。わりと机も広く、書物を広げて書き物もできる。
試しにリューイはそばの棚から書物をとった。医療の分野らしい。ぱらぱらとめくって無言で棚に戻した。
「読めない…」
「古代のものもいくつかあるからな…母さんが読める」
「ウィルのお母さんって何してるの?」
「父さんと一緒になるまではいろいろと勉強していたらしい…特に母さんは父さんと一緒になるっていう目標があったから、より努力したらしい」
全部は読み切れてないそうだが、という付け足しの言葉は意味がない。何しろ今でも彼女は次々に知識を蓄えているのだ。息子たちは執念とでもいうべき母の行動力にとっくに降参していた。
リューイもここの本を読んだらもっと隣に立つ彼に近づけるのだろうかと思う。
「…リューイが読めそうなものはあるだろうか」
二人並んで書架を歩きながら本を流しみる。
日に焼けることなくきれいなままの書架はよく手入れがされているようで埃は見当たらない。本自体にも痛みは見られない。
「ねぇ、ウィルのアルバムとかないの?」
「アルバム?」
「うん」
アルバムはここにあっただろうか。あるとしたら三階部分の奥だろうか。
見せるのは構わないがいささか恥ずかしいものがある。
少し思案してからうなずいた。
「いいの?」
「構わない。見られて困るようなものはないと思うからな。アルバムはおそらく三階にある。あそこには物語や子供用の本もあったからついでに見るか」
「うん」
階段を上がりフロアが変わる。一階から二階、そして三階へ。
二階と三階に机はなく、代わりに小型の椅子は転々とあった。下まで降りないときはそこに座って読むのだろう。
物語、と銘打たれたその棚は国別になっているし、大まかにジャンル別にもなっているらしい。
新しいものもちらほらあるのを見ると整理が大変そうだなどと思う。
「あそこだ」
ウィリディスが示したところは明らかに棚が異なっていた。
今まではかなり丈夫な木材の棚であったが、示された先にあるのはガラス戸のついた棚である。
近寄ってみればアルバムが入っているのが伺えた。年代と名前が記されている。
「当主が変わるごとにここは整理される。前の当主までのものは地下にある保管庫にしまっているらしい」
「ウィルもみたことある?」
「俺が生まれたときはすでに父が当主だったから前までのものはみたことないな」
ガラスを開けて自分の名が書かれたアルバムを取り出した。年代としてウィリディスがうまれたあたりのものである。
リューイに見えるようにしながらアルバムを開けば、アクティナとアカテスが笑顔で写るものから始まっていた。
アクティナの腹は膨らんでいる。そのとなりには手書き文字で『妊娠九ヶ月。息子は活発に動き回る元気な子』とあった。
次をめくればそれは病院の写真。赤らんだ顔の赤ん坊とそれを抱くアクティナが写る。
「これ、ウィルだよね」
「あぁ」
「かわ、いい?」
「赤ん坊とは総じてこんなだろう」
ページをめくるごとに月日は経ち、そのアルバムは一歳の誕生日で終わっていた。
たくさんの写真とともにアクティナやアカテス、それとどこかウィリディスに面差しの似た少年が並んでいた。
アルバムの名前がウィリディスのため、だいたい中心でよく写るのはウィリディスであるし、手書きの文字の内容もウィリディスのことばかりだった。
「これは兄だ。俺とは三つ離れている」
「お兄さんのもあるんだね」
見慣れない名前のアルバムを示せばうなずいた。
当主となったら同じようにここに当主の子供のアルバムが増えるのだろうか。
「次はお兄さんが当主になるの?」
「だろうな。俺はあまり関心はない」
「そう…」
「そのうち番をもって子供が生まれたら兄に頼んでここにアルバムをいれるか」
「ウィルはどんな子供がほしい?」
リューイの問いかけに少し考える。クロエが死んでから考えたこともなかった。
どんな子供かと聞かれてもすぐには出てこない。だが思うことはひとつなのだ。
「健やかに育てばいい。いつも家族が笑顔でいられるならばそれに越したことはないだろう」
「…ウィルは絶対家族に甘そう」
「そうか?」
首をかしげてアルバムを戻す。ガラス戸を閉めればリューイは棚をみている。
子供向けの書物は多くはない。しかし図書館に負けず劣らずの量がそこにある。
リューイは棚をみて回り、気になったものは手にして中身をめくった。ウィリディスはその姿を離れた場所から眺めた。
リューイの顔が輝いた、
背伸びして取り出したのは七年ほど前に流行った冒険小説だろう。滅びを迎える世界の運命を変えるため、過去に向かう少年の話だ。過去を変えるのはその先にあったはずの未来、自分や家族が生きているその場所を消してしまうことに他ならないのに、少年は過去を変えることを選んだ。
結果として未来の世界は救われることになったが少年が生きていた未来はない。その事実により、少年は過去の世界でできた仲間に見守られて消えていくのだ。
書店に並んだのは完結巻を除いたものだったか。作者が問題を起こしたとかで日の目はみなかったのだ。逮捕され、獄中で書き上げた完結巻は作者の親族により本となった。
「読んでいたのか?」
「うん。主人公がかっこよくて、過去にいくのも憧れた。これ、完結していたんだ」
「読みたいならば下の席で読むといいだろう」
「いいの?」
「もちろん。読まれない本ほど哀れなものはないだろう」
リューイは本を胸に抱えて一階の閲覧席に向かう。
足取りが軽い。席を見つけてそこに向かうも足が止まる。振り替えってこちらを見つめている。
「どうした?」
「ウィルはどうする?」
「そうだな。とくにすることを決めていなかったから、俺も少し本を読んでいよう」
リューイは笑顔でうなずいて席についた。それをみてから自分も本を取りに向かう。
生物関連の本をまとめた場所に向かえば数冊を手にしてリューイのそばの閲覧席に腰を下ろした。
二人で読書をするだけの時間が過ぎていく。
ウィリディスも集中していたからか軽く閲覧席の衝立を叩かれるまで時間を気にしなかった。
顔をあげて席を立てばリューイは本を抱き締めてたっていた。
「どうした?」
「…主人公、やっぱり消えたんだなって思ったらいたたまれなくなった」
「未来を変えるために過去に行って、そこに繋がるはずだったものを壊してしまったからな」
「満足したのかな…最後は笑って消えたんだって」
「さぁな。残念ながらその笑って消えた主人公の気持ちは、主人公と作者にしかわからない。満足したのかもしれないし消えることに諦めもあったのかもしれない」
リューイは眉を下げて本の表紙を見つめた。
たくさんの時計に囲まれた主人公のイラストだ。覚悟を決めたかのような顔をしている。
「…本の中身は読み手によっていろいろあっていいだろう。正解は読んだ人の数だけある。リューイはリューイの感想で誰もなにも言わないだろう」
「…ほんと?」
「あぁ。俺がそれを読んだらお前と違う感想を抱くだろうし、それもまた間違いではないだろうしな」
ウィリディスに言われリューイは少し考えた。
本から目を放さない姿に苦笑し、閲覧席を出た。
「まだ読み足りないなら滞在はあと二日は残っているから読むといい。借りたいならば母に聞いてみよう」
「いいの?」
「あぁ」
リューイは本を抱き締めがくがくとうなずいた。その頭を優しく撫でてからウィリディスは書物庫を出た。
二人揃ってよほど集中していたらしい。わずかに夕食の香りがするし窓の外は暗い。
明日はリューイの希望のままにパンケーキを作り、牧場にでも足を運ぶかと考えた。
あと少しで我が家に戻れる。リューイも少しは気分転換もできただろうか。
端末に時おり入る研究所からの連絡に何度か返信したが、たかが数日とはいえ研究に携わらない期間ができるとは思いもしなかった。
リューイに感謝すべきかもしれない。少しだけ、焦っていたらしい。
「リューイ、明日は牧場にでもいくか」
「いきたい!写真撮ってみんなに見せたら喜ぶかな」
「行きたいといわれかねないかもな」
「そうしたら連れてきてよ。養子にいくまえの、最後の思い出作りにさ」
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