世界は万華鏡でできている

兎杜唯人

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思い出とともに変わるもの

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リューイとウィリディス、それとフィーディスは目の前の惨状に眉を下げていた。
荷物をもった三人の前にはアクティナとアカテス、それからパメラを含め滞在していた間世話をしてくれたメイドや執事たちが立っている。彼らもまた眉を下げていた。
牧場からルーナも見送りに来ていた。ルーナはクラルスのそばに行きたそうに何度か腰を上げているがそばにいる牧場主に止められているのか座ったままだった。

「やだー!もっといるー!」
「ティナちゃんと遊ぶー!」
「るーなぁ…」
「あー…なんだろう。おじいちゃんちに遊びに行ったら帰りたくないって駄々をこねる子供を持った気分だ」
「実際そういう感じだけどね」

リューイのつぶやきにフィーディスが返す。
レックス、シルバ、クラルスは楽しかったのが終わってしまうのが嫌なのか先ほどから泣いている。
電車の時刻もあるというのにこれでは動くことができない。
泣きじゃくる三人の前でアクティナはしゃがみこんだ。まだ離れたくないと泣く三人を抱きしめる。

「そんなに離れるのが嫌だったらうちの子になる?」
「…ティナちゃんちの子…?」
「えぇ。けれどうちの子になったらあなたたちを待っている人には会えないし、息子くんやリューイくんと暮らすこともできないわ。それでもいい?」
「…やだ」

小さくシルバがつぶやく。レックスもうなずいた。

「りゅーちゃがいい…」

しゃくりあげながらクラルスもつぶやく。
アクティナは慈愛に満ちた笑みを浮かべて三人を順繰りに撫でた。

「私たちも楽しかったわ。会えなくなるのがとても寂しいの。でもね、もうみんな家族みたいなものだもの。いつでも遊びにいらっしゃい。あなたたちの次の家族も一緒に」
「…家族なの」
「えぇ。あなたたちの戸籍を作ったのだけど、私たちの遠い親戚ってことにしたのよ。血はつながっていないけれど、あなたたちみんな息子くんが大切に思う家族でしょう?」

アカテスがメイドたちにタオルを用意させて三人の顔を拭く。
ぐすっと鼻をすする音がした。泣くのをやめた三人を抱きしめてアクティナは頬ずりをする。
三人も抱きつけばぐりぐりと頭を寄せた。

「また元気な顔を見せてちょうだい。楽しみにしてるわ」
「うん」
「てぃーちゃ、またね」
「えぇ、また。さ、リューイくんたちが待ってるわよ」

アクティナから離れれば駆け寄ってきた三人はそれぞれの荷物を持つ。
見送られ全員で車に乗り込んだ。やはりまだ泣きそうな気配を漂わせて窓に張り付く。
見送りの全員が手を振っていく姿が小さくなる。

「また来れるよ。だからもう泣かない。目が腫れて大変なことになるぞ」

リューイを向いた三人は小さくうなずいた。
リューイは微笑むと隣に座るウィリディスを見た。
窓枠に腕を置いてなにか考え事だろうか。この滞在中研究所からなにか連絡は来たのだろうか。
リューイは気になって仕方ない。しかし聞いて教えてもらえるのだろうか。

「どうした、リューイ」
「研究所からなにかあったかなって」
「…連絡は来ていたが急ぎではなかった。大丈夫だ」

ウィリディスがリューイをなでる。
リューイはわずかに顔を赤らめうつむく。
シルバとレックスはちょうど後ろに座る二人をちら見してから互いに顔を合わせた。

「リューちゃんと先生、もっと仲良しになったからあんまりリューちゃんと寝れなくなるね」
「うん、寂しいな」
「…レックスがいなくなるのも寂しいよ」

小さく呟いたシルバの言葉を聞き返すことはしなかった。
更にその前の席ではクラルスがニウエを手にフィーディスを見る。

「ふぃーちゃも寂しい?」
「寂しいよ…でも、リューが幸せならそれでいいかなって最近思う」
「寂しいのにいいの?」
「うん。クラルス、俺はね、リューの笑顔が好きなんだ。俺たちに向けてくれる笑顔も、先生に向けるちょっと特別な笑顔も、どっちも大好きだよ。だから、俺はリューがその笑顔をいつまでも浮かべられるなら俺のことなんていいの」

クラルスはフィーディスの言葉の意味が理解しかねるのか首をかしげている。フィーディスとしても理解できるとは思っていないため笑ってその頭を撫でた。
そろそろつきますよ、という声に全員が顔を上げた。
駅につけばあとは電車に揺られるだけである。

「本当に楽しかったな」
「先生、また来ていいよね」
「もちろんだ。ただ、お前たちの家族にちゃんというように」
「…もちろんだよ!皆でまた来るからね」

元気良く答える姿を見てウィリディスも笑った。
車を降りれば三人とも運転をしてきた執事に抱きつき礼を告げた。
執事もまた寂しそうにして入るが最後までほほえみを絶やさなかった。
ホームでやってくる電車を待ちながら、お土産もらったと嬉しそうに話す姿を見つめて目を細める。
アクティナが、撮った写真を複数現像し、またデータとしても送ると言ってくれた。
アルバムを作ろうかと思っていたリューイには一番のお土産だった。

「それでね、ティナちゃんと踊ったの」
「先生のお父さんも踊ってくれたよ」
「クラルスがメイドさんたちにモテモテだった」

レックスとシルバが交互に話す。
あれが楽しかった、これが面白かった。
笑顔で話される内容にウィリディスも思わず笑みを浮かべた。
リューイは会話を聞きながらフィーディスに寄り添う。

「どうしたの、リュー」
「…楽しかったなって。俺、頑張ってアルバム作るからもらって?」
「みんなにくれるの?」
「もちろん」

フィーディスはうなずく。
リューイは嬉しげにすると自分も会話に混ざった。
フィーディスは笑顔のリューイを見つめる。今回の泊まりでウィリディスとどれだけ仲を深めたのだろう。
クラルスに話したことは嘘ではない。リューイが笑顔ならばいいのだ。

「…ピータが迎えに来るそうだ」
「あ!ピータさんにお土産買ってない」
「本当だ。どうしよう…」
「ピータなら物よりもお前たちの楽しかった話を聞きたがると思うが」
「そうかなぁ」
「間違いない。たくさん話してやるといい」

レックスとシルバは顔を見合わせた。
にっと笑えばうなずく。何を話そうかと相談する二人を見ながらクラルスが顔を上げた。

「せーせ、ニウエも楽しかったよーっていうの」
「そうか。ニウエも連れてきてよかったな」
「うん」

ニウエを腕に抱えながら窓の外を見るクラルスを見守りリューイはしばし物思いに耽る。
ウィリディスのためにリューイができることを考える。どうしたら、ウィリディスのためになるのだろう。
答えの出ない考えを続けていればウィリディスに小突かれる。顔を上げ乗り換えの駅だとわかれば荷物を持って立ち上がった。

「クラルス、ニウエはかばんにいれたか?」
「うん。ここにいる」
「よし、オッケー。降りよう」

ニウエをいれて膨らんだカバンをポンポンと叩いたクラルスと手をつなぎ、乗り換える。
終着駅に着くまであとは座りっぱなしである。ウィリディスの隣に腰を下ろし、反対側にはクラルスが座る。
目の前にフィーディスが座り、その左右にレックスとシルバが座った。にぎやかな電車の旅も終わりに近い。
今度はこれがしたい、あれがしたいととめどなく会話を続ける二人を見つめてリューイは目を細めた。
きっとこの先二人はいろいろなことにチャレンジしていくのだろう。彼らの養い親もそれを支援してくれるはずである。
リューイはすべてがうまくいったら何をしようかと考えた。ともに生涯を生きる相手が自立したらともに旅行にでも行こうか。都市の外に行ってみるのもいいかもしれない。
都市の外と言えばウィリディスから話しを聞く約束をしていた。
勉強を見てもらった夜に強請るのもいいだろうか。

「何か良くないことでも考えているのか、リューイ」
「そんなことないよ」
「あくどい顔をしていたが?」
「してないってば」

膨らんだリューイのほほを押してウィリディスは笑う。
レックスは二人の様子を見てシルバに目配せした。
シルバもレックスも見てこくこくとうなずいている。

「仲いいね」
「とっても仲いいよ」
「あれがラブラブ?」
「うん、ティナちゃんと先生のお父さんみたい」
「うーん、その会話はぜひとも俺のいないところでやってほしいな…」

フィーディスを挟んでされる会話に苦笑を禁じ得ない。
渦中の二人はわかっているのかいないのか不毛な言い合いをしている。
クラルスがきょとんとしつつ二人の顔を覗き込もうと体を動かした。

「せーせ?りゅーちゃと喧嘩?」
「違う違う。せんせーが俺が悪い顔しているっていうから反論してたの」
「していただろう。何かいたずらでも考えているような顔だった」
「りゅーちゃのいたずらはきっとトマトが入ってるね」
「トマト…」
「それいいな、クラルス。じゃぁ次のごはんはたっぷりのトマト料理にしよう」

リューイとクラルスは笑いあう。
真っ赤な食卓を想像してウィリディスは頭が痛かった。
盛大なため息をこぼす姿を見て苦笑する。
真っ赤な食卓なんてリューイも見たくはない。とはいえ、ちょっとぐらいならば許されるだろうか。
どんなメニューにしようかとリューイは思案する。ウィリディスは止めることはしないまでもどうしたらそれを回避できるか考えているようだった。

「ねぇ、フィーディス。どんな料理が食べたい?」
「ナスがなければなんでもいいよ。リューのごはん大好きだから」
「お前もそのナス嫌いを直さないとな」
「別にナスを食べなくても死なないからいいじゃない」
「健康のためには食べてほしいだろう?」

フィーディスは不満そうにする。リューイは嫌だと言いながらも結局は食べてくれるフィーディスの姿が嬉しくてつい張り切ってしまう。
流れていく景色へと目を移してリューイはにぎやかな会話を聞き流していた。
楽しかったと素直に言うことができる。笑顔に溢れた滞在を思い出せば泣きじゃくった弟たちの気持ちもわかる気がした。

「楽しいばかりが人生じゃないもんな…」
「何悟ったようなこと言ってるの、リュー。年寄くさいよ」
「俺まだ二十歳だから年寄でもないし、悟ってもない。けどさ…楽しいだけで生きてはいけないんだなって思って」
「楽しい事ばっかのほうがいい?」
「当たり前だろ。悲しいよりも楽しいのほうが好きだ」

他愛ない会話だった。
それからリューイとフィーディスはあれがおいしかったからまた食べたいというレックスとシルバのリクエストを聞いた。
二人も食べたはずだが果たして実際に作れるのだろうかと首を傾げる。

「そろそろか…」

車内の人が増える。
ウィリディスが荷物をまとめる。
終着駅で人の後に続いてリューイたちも電車を降りていく。
改札を抜ければピータのほうがリューイたちを見つけて手を上げた。

「ただいま、ピータさん」
「ただいまー」
「おかえりなさい。みなさん、楽しかったですか」
「うん!いっぱいお話しあるよ」
「楽しみにしてますね」

リューイもピータに近寄ってただいまと告げる。
笑顔を向けられて嬉しそうにして歩き出す。
フィーディスがウィリディスのそばに残った。

「…それで」
「なんだ」
「決めたんですか」

フィーディスは何をとは聞いてこない。だからウィリディスも返答をしなかった。

「リューを、ちゃんとあなたの番にするんですか」
「俺はしたいがリューイはお前との約束にこだわっている。無理強いはできないだろう」

シルバが振り向いて二人を呼ぶ。同時に軽く手を上げて歩き出せばシルバはうなずいてからピータと並んで歩いていく。

「俺の研究を見届けて、俺が伝えきりたいことを伝えたら、リューイはお前のもとに行くのだろう。ならばリューイの番はお前だ」
「……本気でそうだと思っているんですか。リューイの目も心も全部が全部あなたに向いているのに?」
「リューイが想っていてくれていても、番の契約がいかに重いものかはお前もわかっているだろう」
「わかっています。だからこそ、俺は今無理やりリューを番にするつもりがないんです」

ウィリディスは足を止めてフィーディスを見つめた。
フィーディスはにらんでいるのではないかと思うほどの表情であった。

「リューはあなたへの想いを失いたくないから俺と番にはならないと言いました。けど、俺のもとにきたリューが少しでも泣いたり、笑顔を見せてくれなくなったその時は、俺はリューを番にします」

フィーディスはそれを言いきれば先に歩いていく姿を小走りに追いかけていく。
追いついたその先でリューイに顔を向けられれば笑顔になっていた。
リューイよりも年下で、自分よりもはるかに下であるはずなのに勢いに飲まれてしまった。
言い返すこともできなかった。
リューイも自分も本当にしたいことをやり切りことはできないだろう。

「出会わなければよかったな…」

ウィリディスのつぶやきは風に乗って流されていく。
出会わなければ余計な感情を抱くことはなかったはずである。
せんせー!とリューイが足を止めて手を振る。追いかけてこないウィリディスを心配したらしい。
フィーディスとウィリディスの会話の中身を知る由もない笑顔を向けられて一度だけ歩みが止まった。
欲深くなる自分に気づいてしまった。一度視線を下に落とし息を吐き出す。

「ウィル、どうした?」
「…戻ってこなくてもこちらから向かったものを」
「心配じゃん。足止めて、ため息ついて。早く帰ろう。今日はみんなゆっくりしてさ…明日は研究室に行くんだろう?また弁当作るから」

一向にウィリディスがやってこないのを心配したのかリューイが戻ってきていた。
心配をかけてしまったなと思いつつ、リューイの手を取って歩き出す。
ピータたちも振り向いて足を止めていた。

「あ、それと俺いっぱい聞きたいことできたから次の勉強の日楽しみにしてる」
「そんなにか」
「うん。都市のこと、たくさん聞かせて」
「わかった」

ピータたちに追いつけばリューイは手を放す。代わりにレックスとシルバが左右からウィリディスの手を握って歩き出した。
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