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新婚生活編

26.新婚旅行-4-

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「あはは、ほんとに俺のこと好きなんだ~」
彗は独り言のようにそう呟いた。
「だ、だからそう言ってるだろ。わざわざこんなドッキリするメリットもねーし」
「それもそうかぁ」
「おい、人の告白疑ってんじゃねえよ」
「いや~別にそういうわけじゃないんだけどさぁ」

俺は地面に視線を落とし、しばらくその言葉の続きを待っていたが一向に反応が無い。
「彗?」
俺が呼びかけると返事の代わりに微かな嗚咽と鼻をすするような音が聞こえてきた。

「えっ!?おい、どうした!?もしかしてそんなに嫌だったのか……?」
俺は彗の肩に手を置いたが、彗は小さく首を振るばかりで何も言わなかった。
ポロポロと大粒の涙が頬を伝って落ちて行くのが見える。

「……瞬ちゃんのばか」
「……へ?」
突然罵倒され、俺は困惑した。

「急にあんなこと言うなんてずるい」
「彗……」
「一生片想いのままで居るつもりだったのに」
「ごめんな」
「婚約者のフリ頼まれた時だっていきなりだったしさぁ」
俺は堰を切きったように泣き出した彗の背中を優しく摩る。
手摺に突っ伏して泣く姿は普段の彗からは想像できないくらい弱々しく見える。
こいつがこんなにも感情を露わにした姿を目にするのは初めてだった。

「……しゅんちゃん大好き」
やがて、消え入りそうな声で彗が言った。

その声は今まで聞いたどの声よりも愛おしくて、俺は胸がいっぱいになるのを感じた。
「俺も彗が好きだ」
「うん」
「これからもずっと隣に居て欲しい」
「……仕方ないなぁ」
そう言って彗は浴衣の裾で顔を拭いながらこちらを見上げた。
その瞳は涙で潤んでいたが、口元には柔らかな笑みが浮かんでいる。

「ふ、不束者ですがよろしくお願いします」
俺がぎこちなく右手を差出し握手を求めると、彗は照れくさそうに微笑んでそれに応えた。
「こちらこそ末永く宜しくお願いします」

それから俺たちはどちらからともなく手を繋いで旅館へと戻って行った。
幼馴染として過ごしてきたこの二十数年の月日を埋め合わせるかのように、俺達は互いの手を強く握りしめていた。
新しい2人の関係が始まったことを実感しながら。
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