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45.元カノの話(1)
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21時の公園の中はひっそりとしているものの、通りを歩く人の声やバイク、店のBGMが聞こえてくる。それほど広くない公園には街灯が数本しかないが、店やバイクの明かりが届くせいか、不気味さはない。
リオは公園の入り口から左側に数メートルほど歩いたところのベンチに座った。下げているポシェットは体の横に移動させている。千紗もベンチに腰を下ろし、リオとの間にリュックサックを置く。
「待ち合わせより早いですよね。もしかして、私のこと待ってたんですか?」
リオは白いプリーツスカートの裾を跳ね上げて足を組んだ。
「そうよ。要件に入る前に、私が名乗ったんだから、あなたの名前、教えてくれるかしら」
「あ、松村千紗、です。話をするのに、わざわざここへ来る必要ありました?」
太陽の日が落ちてから時間が経ち、熱せられた空気は落ち着いているとはいえ、湿気を帯びて体にまとわりついてくる。
リオは膝の上に両手を乗せて、首を曲げ、千紗の顔を見てきた。
「店にいたら、話が終わらないうちに大輝が入って来ないとも限らないでしょ。単刀直入に言うわ。大輝と別れて」
思わず眉間にしわが寄る。
「どうして、そんなことを言われないといけないんですか」
ふーっと息を吐いたリオが腕を組んで、あごを突き出した。男性は、この女性にこういう表情をされると思わず言うことを聞いてしまうんじゃないだろうか。男をはべらす女王様に見える。
「決まってるじゃない。大輝にあなたは似合わないからよ」
千紗の口はだらしなく開いてしまう。顔全体から力が抜けているような気がする。リオは、そんな表情を気にすることもなく話を続ける。
「大輝は、私がストーカーされてるって言ったら、心配してくれたわ。守ってほしいって言ったら、次の日から都合つけてくれたしね。彼は私のことがまだ好きなのよ」
千紗は鼓動が大きくなっていくのを感じた。右手で自分の左腕をつかむ。
リオの言うことは千紗自身も気にしていたことだった。頼られたからといって、大輝自身がリオのボディガードをする必要があったのか。
昼休みに大輝から言われた「復縁なんてありえない」という言葉を頭の片隅から引っ張り出して、気持ちを落ち着かせようとするものの、鼓動は早くなるばかりだ。
リオがかすかな笑い声を漏らした。
「思い当たることがあるようね。大輝って、高校に入ってから何股もかけてたんでしょ。今は、あなただけらしいけど、何人もと同時進行でつきあえるような軽い男なのよ。あなた一筋でいられるわけないじゃない」
背もたれに体を預けたリオは前髪をかきあげた。
「それに、私は大輝の初恋だし。重いくらいの愛情をぶつけられてたのよ。大輝にしても振られたからって、そんな簡単に忘れられるような相手じゃなかったのよ」
小動物のような外見に似合わない自信満々な表情からは、自分が好意を持たれていると疑わない気持ちが見てとれる。
そんなリオを見て、鼓動の速さは落ち着かないものの、頭が冷えていった。
「たしか、大輝くんのことを『重い』って言って、リオさんは振ったんですよね。なのに、そんな彼と付き合えるんですか?」
リオは自分の膝で頬杖をつき、顔を横に向けて千紗を見た。
「高校に入って何股もかけてたんだよ。もう重くなんてないじゃない」
生ぬるい風が2人を包んで去っていった。
千紗の中に、気持ちが悪くなるような燻りが現れはじめていた。ため息をついて、小さく首を振る
「じゃあ、私とあなたで大輝くんが二股かけても問題ないですよね。私が大輝くんと別れる必要ありますか」
鼓動は落ち着いてきた代わりに頬が引きつる。リオは相変わらず、千紗の表情には興味がないようだ。
「それはイヤよ。大輝には私だけのものになってもらわないと。あんなイケメンを連れてるのは私だけでいいの」
目が合っていると思っていたけれど、よく見ると、リオの目は宙を浮いているように見えなくもない。
「それなのに、あの日、たまたま見かけた大輝は、あなたと歩いてるじゃない。周りの女子のうらやましがるような視線を浴びるのは私なのよ」
ため息がいくつあっても足りない。千紗は腹の底から大きな塊を吐き出してやりたくなる。
「それって、大輝くんが好きだから付き合いたいんじゃなくて、連れて歩きたいからですよね」
「それが好きだってことでしょ。何がおかしいの」
盛大にため息という塊を吐いてぶつけてやろうか。
大きく肩を揺らして、息を吐いた途端、千紗はスルーしていた話があることに気づいた。
「あ、そうだ。どうしてストーカー話をでっちあげたんですか。電話番号を知ってるんだから、普通に誘えばいいことだったんじゃ・・・・・」
リオはきょとんとした顔をする。
「連絡先を知ってるのに3年も連絡しなかったのよ。いきなり連絡するには理由がいるじゃない。それに、私と一緒に過ごす時間を強制的にとらせないといけなかったし」
夜とはいえ、生暖かい。
喉が渇いてきて、千紗はリュックサックからペットボトルを取り出した。キャップを開けて、お茶を喉に流し込む。
リオはじっと見つめてきていた。
「で、大輝と別れてくれるわよね」
ため息交じりに言われた。ペットボトルの蓋を閉めた千紗は、そのボトルを見つめる。
口に出す言葉を決めて顔を上げたとき、携帯電話が鳴った。リュックサックのポケットから、それを取り出して画面を見る。
『大輝くん』と表示されている。
リオは公園の入り口から左側に数メートルほど歩いたところのベンチに座った。下げているポシェットは体の横に移動させている。千紗もベンチに腰を下ろし、リオとの間にリュックサックを置く。
「待ち合わせより早いですよね。もしかして、私のこと待ってたんですか?」
リオは白いプリーツスカートの裾を跳ね上げて足を組んだ。
「そうよ。要件に入る前に、私が名乗ったんだから、あなたの名前、教えてくれるかしら」
「あ、松村千紗、です。話をするのに、わざわざここへ来る必要ありました?」
太陽の日が落ちてから時間が経ち、熱せられた空気は落ち着いているとはいえ、湿気を帯びて体にまとわりついてくる。
リオは膝の上に両手を乗せて、首を曲げ、千紗の顔を見てきた。
「店にいたら、話が終わらないうちに大輝が入って来ないとも限らないでしょ。単刀直入に言うわ。大輝と別れて」
思わず眉間にしわが寄る。
「どうして、そんなことを言われないといけないんですか」
ふーっと息を吐いたリオが腕を組んで、あごを突き出した。男性は、この女性にこういう表情をされると思わず言うことを聞いてしまうんじゃないだろうか。男をはべらす女王様に見える。
「決まってるじゃない。大輝にあなたは似合わないからよ」
千紗の口はだらしなく開いてしまう。顔全体から力が抜けているような気がする。リオは、そんな表情を気にすることもなく話を続ける。
「大輝は、私がストーカーされてるって言ったら、心配してくれたわ。守ってほしいって言ったら、次の日から都合つけてくれたしね。彼は私のことがまだ好きなのよ」
千紗は鼓動が大きくなっていくのを感じた。右手で自分の左腕をつかむ。
リオの言うことは千紗自身も気にしていたことだった。頼られたからといって、大輝自身がリオのボディガードをする必要があったのか。
昼休みに大輝から言われた「復縁なんてありえない」という言葉を頭の片隅から引っ張り出して、気持ちを落ち着かせようとするものの、鼓動は早くなるばかりだ。
リオがかすかな笑い声を漏らした。
「思い当たることがあるようね。大輝って、高校に入ってから何股もかけてたんでしょ。今は、あなただけらしいけど、何人もと同時進行でつきあえるような軽い男なのよ。あなた一筋でいられるわけないじゃない」
背もたれに体を預けたリオは前髪をかきあげた。
「それに、私は大輝の初恋だし。重いくらいの愛情をぶつけられてたのよ。大輝にしても振られたからって、そんな簡単に忘れられるような相手じゃなかったのよ」
小動物のような外見に似合わない自信満々な表情からは、自分が好意を持たれていると疑わない気持ちが見てとれる。
そんなリオを見て、鼓動の速さは落ち着かないものの、頭が冷えていった。
「たしか、大輝くんのことを『重い』って言って、リオさんは振ったんですよね。なのに、そんな彼と付き合えるんですか?」
リオは自分の膝で頬杖をつき、顔を横に向けて千紗を見た。
「高校に入って何股もかけてたんだよ。もう重くなんてないじゃない」
生ぬるい風が2人を包んで去っていった。
千紗の中に、気持ちが悪くなるような燻りが現れはじめていた。ため息をついて、小さく首を振る
「じゃあ、私とあなたで大輝くんが二股かけても問題ないですよね。私が大輝くんと別れる必要ありますか」
鼓動は落ち着いてきた代わりに頬が引きつる。リオは相変わらず、千紗の表情には興味がないようだ。
「それはイヤよ。大輝には私だけのものになってもらわないと。あんなイケメンを連れてるのは私だけでいいの」
目が合っていると思っていたけれど、よく見ると、リオの目は宙を浮いているように見えなくもない。
「それなのに、あの日、たまたま見かけた大輝は、あなたと歩いてるじゃない。周りの女子のうらやましがるような視線を浴びるのは私なのよ」
ため息がいくつあっても足りない。千紗は腹の底から大きな塊を吐き出してやりたくなる。
「それって、大輝くんが好きだから付き合いたいんじゃなくて、連れて歩きたいからですよね」
「それが好きだってことでしょ。何がおかしいの」
盛大にため息という塊を吐いてぶつけてやろうか。
大きく肩を揺らして、息を吐いた途端、千紗はスルーしていた話があることに気づいた。
「あ、そうだ。どうしてストーカー話をでっちあげたんですか。電話番号を知ってるんだから、普通に誘えばいいことだったんじゃ・・・・・」
リオはきょとんとした顔をする。
「連絡先を知ってるのに3年も連絡しなかったのよ。いきなり連絡するには理由がいるじゃない。それに、私と一緒に過ごす時間を強制的にとらせないといけなかったし」
夜とはいえ、生暖かい。
喉が渇いてきて、千紗はリュックサックからペットボトルを取り出した。キャップを開けて、お茶を喉に流し込む。
リオはじっと見つめてきていた。
「で、大輝と別れてくれるわよね」
ため息交じりに言われた。ペットボトルの蓋を閉めた千紗は、そのボトルを見つめる。
口に出す言葉を決めて顔を上げたとき、携帯電話が鳴った。リュックサックのポケットから、それを取り出して画面を見る。
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