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第20章
学びのある「負け」と無意味な「負け」の違いー第20の課題解答編ー
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レースの最中、魔王様や執事さんは
どんな行動をしていただろう?
あらためて、僕は自分の記憶を辿ってみた。
まず、お二人に共通していたのは
情報収集を徹底していることだった。
レースに参加する選手の実績やオッズ
そして試し走行から得られた情報に目を通し
瞬時に判断を下していた。
あふれんばかりの情報のなかから
必要なデータだけを抜き出せるのは
経験がなせる技だろう。
でも僕は今日、準備するまもなく連れてこられたわけで
競艇に限らずあらゆるギャンブルが未経験だった。
最低限の賭け方については教わったものの
瞬時の判断なんて出来るわけがない。
「やっぱり経験の差が大きいと、思うんですけど…」
僕の返事を耳にした魔王様は、大きく息を吐いた。
執事さんもなんだか呆れ顔だ。
「初心者っちゅーのを言い訳にするのは辞めたほうがええで?」
ため息とともに吐き出された執事さんの言葉が
僕にぐさりと刺さった。
そして魔王様がさらに容赦なく畳みかけてくる。
「おぬしはどれだけの情報を拾い、分析を試みた?
ネットで検索してみたか?周りの声には耳を傾けたか?
そもそも我らにどれだけの質問ができた?」
問われた内容に僕は黙り込むしかなかった。
ボートレースのオフィシャルサイトはある程度見たし
会場で配られていた出走表にも目を通した。
けれど、それだけだ。
「競艇は初めてだから」「慣れていないから」
そんな言い訳を、勝手に心のなかに作っていたんじゃないだろうか。
だから、お金がかかる真剣勝負でわけもわからずにボロ負けした。
その結果が全てを表しているように思った。
「勝負には『賭けどき』というものがある。明らかにリスクよりも
リターンが大きい可能性が高いと確信できる瞬間に、踏み込むことを
ためらわないからこそ、得られるものが大きくなる」
魔王様は、競艇だけのことを話しているわけではなかった。
もっと幅広いものに適用できる原理原則のようなものだ。
ビジネスでもなんでも、小さく常に一定に
投資していくなら、リスクは少ないがリターンも少ない。
大きなリターンを望むのなら、賭けどきを待つこと
そしてその瞬間を見誤らずに、大きく賭けることだ。
仮説を立てて失敗したのならいい。
そういった失敗を繰り返すことで、「賭けどき」をつかむ精度が上がる。
けれど、僕の失敗は…
「負けること自体は仕方なかろう。
けれど、学びのない負けならば何の意味もない」
魔王様は、僕の結果を一言で切って捨てた。
「残念やったな、お互いにとって」
向けられた言葉はひどく冷たく響いた。
うつむいた僕の視界は、どんどん暗く沈んでいく。
お二人が立ち去っていく足音を耳が拾う。
けれど、何一つ身動きがとれない。
僕は、学ぶ機会をムダにし
お二人は、貴重な時間をムダにした。
「…やらかした」
こぼれそうな涙は、どうにかこらえた。
魔王様たちは次の仕事へと向かったのだろう。
僕はひとり、競艇場を後にする。
ぐちゃぐちゃになった頭に浮かぶのは
なぜか親友からのメールの文面だった。
「お前がうらやましい」?
どこがだ。
こんな僕のどこがうらやましい?
空を見上げれば、くもり空が広がっていた。
ぽつりぽつりと雨が降る。
少しずつ濡れていくスーツの重みを感じながら
僕は呆然と歩き続けた。
=====
<×月×日 気づきノート>
…しんどい。
=====
どんな行動をしていただろう?
あらためて、僕は自分の記憶を辿ってみた。
まず、お二人に共通していたのは
情報収集を徹底していることだった。
レースに参加する選手の実績やオッズ
そして試し走行から得られた情報に目を通し
瞬時に判断を下していた。
あふれんばかりの情報のなかから
必要なデータだけを抜き出せるのは
経験がなせる技だろう。
でも僕は今日、準備するまもなく連れてこられたわけで
競艇に限らずあらゆるギャンブルが未経験だった。
最低限の賭け方については教わったものの
瞬時の判断なんて出来るわけがない。
「やっぱり経験の差が大きいと、思うんですけど…」
僕の返事を耳にした魔王様は、大きく息を吐いた。
執事さんもなんだか呆れ顔だ。
「初心者っちゅーのを言い訳にするのは辞めたほうがええで?」
ため息とともに吐き出された執事さんの言葉が
僕にぐさりと刺さった。
そして魔王様がさらに容赦なく畳みかけてくる。
「おぬしはどれだけの情報を拾い、分析を試みた?
ネットで検索してみたか?周りの声には耳を傾けたか?
そもそも我らにどれだけの質問ができた?」
問われた内容に僕は黙り込むしかなかった。
ボートレースのオフィシャルサイトはある程度見たし
会場で配られていた出走表にも目を通した。
けれど、それだけだ。
「競艇は初めてだから」「慣れていないから」
そんな言い訳を、勝手に心のなかに作っていたんじゃないだろうか。
だから、お金がかかる真剣勝負でわけもわからずにボロ負けした。
その結果が全てを表しているように思った。
「勝負には『賭けどき』というものがある。明らかにリスクよりも
リターンが大きい可能性が高いと確信できる瞬間に、踏み込むことを
ためらわないからこそ、得られるものが大きくなる」
魔王様は、競艇だけのことを話しているわけではなかった。
もっと幅広いものに適用できる原理原則のようなものだ。
ビジネスでもなんでも、小さく常に一定に
投資していくなら、リスクは少ないがリターンも少ない。
大きなリターンを望むのなら、賭けどきを待つこと
そしてその瞬間を見誤らずに、大きく賭けることだ。
仮説を立てて失敗したのならいい。
そういった失敗を繰り返すことで、「賭けどき」をつかむ精度が上がる。
けれど、僕の失敗は…
「負けること自体は仕方なかろう。
けれど、学びのない負けならば何の意味もない」
魔王様は、僕の結果を一言で切って捨てた。
「残念やったな、お互いにとって」
向けられた言葉はひどく冷たく響いた。
うつむいた僕の視界は、どんどん暗く沈んでいく。
お二人が立ち去っていく足音を耳が拾う。
けれど、何一つ身動きがとれない。
僕は、学ぶ機会をムダにし
お二人は、貴重な時間をムダにした。
「…やらかした」
こぼれそうな涙は、どうにかこらえた。
魔王様たちは次の仕事へと向かったのだろう。
僕はひとり、競艇場を後にする。
ぐちゃぐちゃになった頭に浮かぶのは
なぜか親友からのメールの文面だった。
「お前がうらやましい」?
どこがだ。
こんな僕のどこがうらやましい?
空を見上げれば、くもり空が広がっていた。
ぽつりぽつりと雨が降る。
少しずつ濡れていくスーツの重みを感じながら
僕は呆然と歩き続けた。
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<×月×日 気づきノート>
…しんどい。
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